『東のエデン』 あなたは今100億円持っていたらどう日本を救う?
なんだかんだで1年に1回くらい見ている好きなアニメがある。
年度末くらいになると毎回見てしまうのだが、最近の巣篭もりを機に久々に視聴した。
今回はなぜ何度も見てしまうのか、個人的に好きな点に触れつつその魅力を語りたい。
※ネタバレありなので、嫌な方はご自分で視聴してから読んでね(*'ω'*)
内容
日本の近未来の出来事を描いたSFサスペンスである。
ジャンルとしては一つの目的(ゲームクリア)に対して、複数の人が巻き込まれるので、「デス・ゲーム」ものに近いのかな。
ゲームの目的は「100億円の電子マネーが入った携帯を配るから、それを使って日本を救え」というもの。冷静に考えると無茶苦茶やなw
どういう形で救えばいいのかを示されるわけではないので、それぞれのプレイヤー(作中ではセレソンと呼ばれている)は独自の方法でそれを実行してゲームのクリアを目指している。
主人公もプレイヤーの一人として色々試行錯誤しつつ、日本という国を巻き込みながら物語は動いていく。
※※※
放送は2009年で、話の舞台としては2010年〜2011年の日本と既に現実からしてみれば過去だが、どこか新しい。
10年以上前の作品だが今でも普通に楽しめる内容であると思う。
とりあえずあらすじを持ってきた。
この国の“空気”に戦いを挑んだ、ひとりの男の子と、彼を見守った女の子の、たった11日間の物語。
2010年11月22日(月)。日本各地に、10発のミサイルが落ちた。
ひとりの犠牲者も出さなかった奇妙なテロ事件を、人々は「迂闊な月曜日」と呼び、すぐに忘れてしまった。
それから3ヶ月。卒業旅行でアメリカに出かけた森美 咲(もりみ・さき)は、ホワイトハウスの前でトラブルに巻き込まれ、ひとりの日本人に窮地を救われる。滝沢 朗(たきざわ・あきら)。彼は記憶を失っており、一糸まとわぬ全裸の姿で、拳銃と、82億円もの電子マネーがチャージされた携帯電話を握りしめていた……。
滝沢 朗とは何者なのか?謎の携帯電話の正体は?失われた、滝沢の記憶とは何だったのか? ©東のエデン製作委員会
これだけ読むと確かに荒唐無稽に思えるかもしれない。
犠牲者を出さなかったミサイルテロの謎だとか、第1話の出だしでいきなり素っ裸の男が拳銃持ってニコニコと女の子に近づいてきたりするからね(笑)
ただ2009年当時の日本国内の世情はうまく描いており、まだ人々がスマホを持ってなかったり、3.11が起きる前の状況を知るものとしては割とリアルに感じられるものがあるんよね。
好きな点
個人的にいいなぁと思う部分を挙げてみた。
①近未来ながら今に近いテクノロジー
②謎を丁寧に探る展開
③印象に残るBGM
④好感度の高い登場人物
一つずつその理由を書いていく
①身近になったテクノロジーの数々
作品でキーとなるものはAR(拡張現実)、電子マネー付き携帯、高性能AI、SNS社会など。
出てくるテクノロジー(ガジェット)は割と今の時代においてかなり身近なものなので、結構時代を先取りしていると言える。
例えばARを使った画像検索は今Googleで似たようなことができるようになったし(作中の元ネタはセカイカメラだと思うが)、100億円の電子マネーはキャッシュレスが流行ったのでより身近になった。
「東のエデン」というサイトはできた頃のFacebookに近いと言え、SNSによって起こるプライバシーの問題も先取りしている。
ただ高性能AIのJuiz=ジュイス(→AppleのSiriがめちゃくちゃ凄くなったようなもの)は、使用者ごとに性格が変化しており、扱える事象も多岐に渡る。
多分今の時代でも再現不可能だと思うので、現代でこれが作れたら本当に日本を救えるかもしれない。(苦笑)
②エンタメとサスペンスのうまい融合
本作は記憶の無い主人公がそれを思い出すにあたり、100億円の電子マネーを用いながら自らの置かれた状況の謎を探っていく展開が主軸となっている。
政治や世情が多く絡むのでハードに作ろうと思えば作れるのだが、雰囲気は全体を通して明るい。(ただし人が死なないわけでは無いけど)
多分作品の質をコントロールする上で、より多くの人に興味を持ってもらうように調整したのだろう。
キャラのデザインに漫画家の羽海野チカ氏を当てており、女性にも取っ付きやすく柔らかいものとなっている。
真面目になりすぎず、それでいてワクワクさせる展開をずっと続けさせる点は評価できると思っている。
③良好なBGM
このアニメのOPはロックバンドのOASISの楽曲を使用している。(もう解散しちゃったけど)
それだけでも興味を引いたが、自分としてはSchool Food Punishmentというバンドを知れたことがより良かった。
このバンドはEDの他に多数曲を提供している。
初めて聞いた時から印象に残ったが、全く別の機会でCDをレンタルした時、このバンドの曲をたまたま発見できてその偶然に感謝した。
残念ながらこっちのバンドももう解散しちゃっているけど、今でもたまに聞くくらい好きである。
他にもBGMが随所でうまく使われており、作品を盛り上げるのに一役買っていると感じている。
④登場人物の性格
とにかくまず主人公の好感度が高い(結構変なやつだけどw)
人のことを悪く言ったりせず、生来の人好きが表に出ていて好感を得る。
話はテンポよく進むが、主人公の積極性が随所で活かされており、無茶な展開でもバランサーとなっている。
他にもそれぞれ魅力的なキャラが脇を支えており、見ていてストレスは少ない。
登場人物が多いので掘り下げの足りない部分は多々あると思うが、それでも人間ドラマのアニメとしてはうまくできているのでは無いかと思う。(小説を読むと他のメンバーについての描写も補完されている)
マイナス点
では悪い部分は全く無いかというと、そうでもない。結構大事な部分で惜しいと感じることがある。
・オチとしての納得性
まず話のオチについてだが、長く引っ張ったあげくこれでいいの?という拍子抜け感は否めない。実際初めて見たときはちょっと期待を上回ることがなく、残念に思った。(終盤はそれまでの展開より地味で派手さも少ない)
何度も見ると納得はできるようになるのだが、やはり触れた人に終わりまで満足させるのが良い物語だと思うので、そこはもう一つ壁があると感じる。
※※※
・続きを映画としてしまった点
次の点についてだが、物語をテレビ放送だけでなく、映画(しかも2本)にまで延ばしてしまった部分はマイナスだと思っている。
元々そういう構想だったにせよ、放送を見ていた人としてはそのままのテンションで物語に触れたいと思うだろうし、期間を開けてしまったことで夢中になれる時間を減らしてしまったのはもったいなかったと思っている。
再構成して、エンディングまで一貫してエピソードを描けたらもっと良い印象が残るのでは無いかと思う。
※※※
おまけ
これは作品の内容自体のマイナスとは言えないが、放送時期が3.11より以前であったこともあり、現実の方がアニメの中より世界が大きく変わることを印象として残してしまったため、やはり今見ると虚構と現実の部分でギャップを感じる。
今後見る人にはエンタメとして割り切るか、その違いを意識した上で楽しみを見つけるか、ある程度妥協が必要となるかも知れない。
その上で作品を楽しんでもらえたらと思っている。
王道か覇道か
物語は主人公を中心に動いていくが、それが正解というわけではない。
特に対比のキャラとして、現実路線から国を変えようとする人物の存在がそれを裏付けている。
その人が行う方法は覇道(トップダウン)による改革であって、あくまで王道(ボトムアップ)の主人公とは一線を画す。
その人物は純粋な悪人ではなく、
主人公と目的(日本を救う)は同じであっても、取る方法が異なるあたり多様であるといえるし、お互いが協力し合えばもっと大きなこともできるかもしれないとも考えられる。
この辺の考え方がとても面白い。(そいや社会的背景を軸にテロに走ってしまう人物も描写されるが、世の中のすべてを救うってホント難しいなと思う)
自分が100億円使うとしたらどう使う?
今回久しぶりに見て、自分だったらどう使うかを深く考えることができたことは新しい発見であった。(これまでだったら金額が大きすぎて現実感を得られなかったので)
「100億円」というのは実際一人で使うには多すぎるが、1億3000万人とその未来を変えるには少なすぎると考えている。(一人辺り77円未満しか配れない)
あと作中で示される電子マネーの使用額が、なぜその金額なのか割と不明なため、現実換算だと自由はさらに少ないかもしれない。
では自分なら何を実行したいと考えるか。
※※※
物語の最後に「ニートの楽園」という新しいコミュニティが誕生したことが表される。
名前だけ聞くと笑ってしまうかもしれないが、中身は意外とよくできているなぁというのが自分の印象であった。現実で例えるなら、常設されたコミケと直接対面販売のメルカリがくっついたようなものかもしれない。
そこでは若者による独自の経済システムが盛んだそうで、現代のように複雑化されていない商売の楽しさを学べるような場所だと思う。
ゲームクリアの条件である「日本を救う」とは、明日も楽しく生きたいという希望を未来につなげることだと考えたので、それをつなげていける場所として共感した。
だから自分が100億円使うとしたら、このようなコミュニティ(システム)の設立、運営に資金を投じるであろう。それでテロに走るような人の心情もポジティブなものに変化させられれば、ある程度成功なのかもしれない。
1日後に結果が出なくとも、10年30年と続ければそこから何かしらの新しいものが生まれてくるのではないかと思っている。
おわりに
作中では「ノブレスオブリージュ=noblesse oblige」(→持てる者の義務と解釈されている)という言葉が頻繁に出てくる。
何をもって自分が「持てている立場」かどうかを判断するのか、中々難しく思えるが、それでも社会の中で生きるものとして他者への感謝を忘れないことは常に考えていけたらと思う。
「情けは人の為ならず、巡り巡って自分に返ってくるもの」というのが、今後も通じる世の中であってほしいと願っているのでねぇ…('ω')
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