そして、雪と舞う。
こんばんは。「函館観光者」の佐伯です。
函館旧市街に来て、はや2週間以上が経ちました。とうに観光のスパンではありません。それもそのはずです。僕がここでしている観光は、外向きの威光を浴びる類のものではなく、「内向きの威光」に身を寄せる類のものだからです。それなりの時間を要するものだと思っています。内向きの威光とは何か。それを見つけ出したのが前回の記事です。今回の記事は、その光源に身を寄せるとどうなるかについて書いてみます。
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函館市電大町電停からほど近い市営団地の一階に、小宇宙空間が広がっています。その名は「いどはどドーナッツ」。ドーナッツと雑貨を売る、夫婦経営の小さなお店です。
ジャイアントロボが店看板を持ち、壁をプロペラ機が突き破るという、不思議な外観が、店の前を通るたびに気になっていました。先日、ついに訪問させていただきました。
吹き付ける雪で覆われた扉を凍えかけた手で開けると、木とストーブと釣り電球の温かさがじんわりと迎えてくれます。
眼鏡が曇って視界を遮っていても、「いらっしゃいませ~。好きなものゆっくり見ていってね」という女性の店主さんの声が優しくて、この扉をくぐったことを安心します。
視界が晴れてくると、そこはまるで小宇宙でした。
まずはなんといっても店名にもあるドーナッツ。入ってすぐのところにたくさん並んでいます。
驚かされるのが、それぞれのネーミングと見た目です。
ホワイトチョコレートの上に、チョコクランチやアラザンという銀の粒を散りばめた「星くず」。ココアが生地を覆いつくす「ブラックホール」。おかっぱ頭にぐりっとした両目が愛らしい「不安定ボーイ」。ドーナッツ選びが楽しすぎて困ってしまいます。
すべてのドーナッツが、おから系焼きドーナッツ(おから・豆乳・米油入り)かバター系焼きドーナッツ(バター・北海道産牛乳入り)のどちらかです。その無添加で優しい味は、健康に気を遣う方にもおすすめです。
そして、店中にディスプレイされた雑貨。
森田MiWさん、Aiさん、ひびのこづえさんといった、店主の浜田いずみさんセレクトのアーティストさんの商品です。ハンカチ、木雑貨、せっけんやアロマ水までと、バラエティも豊富です。
これら個性煌めくドーナッツと雑貨が、混沌と、しかしいずみさんの感性という共通項で秩序を保ちつつ、店内を彩っているのです。それは、まるで小宇宙でした。
この小宇宙空間の核であるいずみさんは、まるで少女のような方です。純真無垢で、人懐っこくて。笑い方も、キャッキャって感じです。店を訪れる者を、安堵させる温かさと心弾ませる陽気さを兼ね備えています。店の奥で仕事をされている旦那さんも、実に気さくな挨拶で迎え入れてくれました。
そんなご夫妻は、3年ほど前、いずみさんの生まれ故郷である函館旧市街へ東京から移り住みました。さて、里帰りをして何をしよう。ここからが大変ユニークです。
お二人は、810(波動)計画を掲げました。演劇・絵本・マンガ・人形劇などの作品や芸術的行動を通して、周りに楽しく幸せな波動を送るという、壮大で独創的な計画です。
その一環として、「いどはどドーナッツ」は幕を開けました。名前の由来は、移動する波動。移動販売車でドーナッツを売り、幸せの波動を送るのです。(移動販売は、昨今の情勢を踏まえ、現在中止しています)いずみさんは、函館旧市街を「舞台」と捉えています。自分たちが演者として波動を届けるための舞台というわけです。
この世界観を聞いたとき、僕はワクワクが止まりませんでした。まるで童心に帰ったようでした。
現在、お二人が放つ波動は、大町の市営団地の一階の小宇宙空間に満ち溢れ、函館旧市街に漏れだしています。
この波動は、一定の周波数を持っています。きっと誰にでも感じ取れるわけではありません。しかし、この周波数に共鳴する者たちは、引き寄せられるかのように、この店に確かに訪れています。
いどはどドーナッツが移動販売をしていたころに知り合った女性、お客さんとして訪れたときにいずみさんとの話の流れでお店のHPをつくることになった女性、隠れリピーターの女性。
それぞれが、霜付いた扉を開け、ほっとした顔で入店し、買い物をしたりいずみさんと世間話をしたりといった、思い思いの時間を過ごしていました。
僕もまた、その波動に共鳴した存在のひとりです。
いずみさんとだけでなく、店を訪れる他のお客さんとも、躊躇や奮起を介さず自然と会話を始めることができたのは、無意識のうちに波長が合うことを信じているからなのでしょうか。
僕は特別スピリチュアルに傾いている人間ではありません。
しかし、いずみさんを核に発生したこの小宇宙空間が一定周波数の波動を放っていること、そしてそれに共鳴し、近づき、温められた自分がいることは、僕の中では事実なのです。
古材から誕生したゴミ箱ロボットのジュピターくんがギシギシッと音をたてながら蓋を開くのを見たとき、鳥肌と笑みが止まりませんでした。
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このお店も、まさに内向きの威光を感じることのできる場所でした。
810計画に基づき、いずみさんがドーナッツを創作し、雑貨をセレクトし、旦那さんがディスプレイ用の棚や机をDIYしました。まさに自分たちが胸を張れる空間をつくりあげたわけです。
「回転率はそんなだけどね。でも、来てくれるお客さんとこうやって話すのが楽しいの。やっぱちょっとおかしな面白い方が多いわ」そうやっていずみさんは明るく笑っていました。
そして、お店を去り、感じます。
何やら自分に自信がついているのです。心が、体が、踊り出しそうなほど軽くなっているのです。それは、まるで雪とともに舞いはじめてしまいそうなほど。
それはもしかしたら、あの空間に自分を肯定してもらえるからかもしれません。自分と共鳴する方が、そのこだわりをつらぬいて、あんなに堂々と活き活きと生きていることに、ありのままの自分を励まされるのです。
しかも、彼らの内向きの威光は、決して自慢げではありません。だから、すっと素直にこちらの心も温めてくれるのです。
内向きの威光のともしびは、ろうそくからろうそくへ火を移すように、訪れる者の心へ移り、内側から僕らを温めてくれるのかもしれません。
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⭐︎お店情報⭐︎
いどはどドーナッツ
営業時間:13:00 ~ 17:00
定休日:水・木曜日
住所:函館市大町3-16
アクセス:市電大町駅すぐ
TEL:090-5075-5026
ホームページ:https://idohado.com/
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