紡ぐ。編み込まれる。
こんばんは、「函館観光者」の佐伯康太です。
先日、雪国の洗礼を食らいました。連日の寒波の影響で、水道管が凍り、水が止まったのです。思い返せば、西部地区で暮らし始めた日に「水落としはしっかりするように」と言われていました。水は止まらないでしょー、とナメてかかっていたのか、その忠告は頭からすっぽり抜けていたようです。つくづく、暢気というか楽観的というか。先月の末に水が止まったので、年越しは水無しでした。水がないと、生活がしんどい。そんな当たり前をかみしめながら迎えた2021年でした。
無事解氷してもらい、流れるようになった水で手を洗い、喉を潤し、ブログを書くことにします。
前回、小さな店から街づくりをたくらむ人たちに感じた新鮮さと浪漫を言葉にしました。彼ら彼女らの街への志向に、函館旧市街という存在が何かしら作用しているように思えたのですが、それは予感に過ぎないものでした。そして、それはいまも依然予感のままです。(前回の僕の記事はコチラ)
無理に答えを急ぐことはしません。
今回は、函館旧市街という街の存在を強く意識しているある人物の活動について、考えてみることにします。
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この街で建築物デザインや古民家再生を手掛ける一級建築士、富樫雅行さん。現在、合同会社富樫雅行建築設計事務所を経営しています。先日、直接じっくり、お話を伺う機会に恵まれました。
(写真は、富樫さんの事務所が入っているカルチャーセンター臥牛館)
富樫さんが手がけた案件は、どれも一筋縄でいかないものであり、かつ彼の個性が色濃く出ているものであり、それゆえに惹きつけられるものばかりです。
彼がこの街で独立を決めた年の夏、常盤坂にある擬洋風建築の古民家を事務所兼自宅として購入したときのこと(この街には空き家となった古民家がたくさんあるのです)。彼は、すべてを自らの力でフルリノベーションしました。かかった期間は2年間。しかしそれから7年以上経ついまも手を加え続けているのだとか。その奮闘の全容は、文字と写真に形を変えて残されています。
ちょっとだけ、その奮闘を紹介してしまいましょう。
そもそもリノベーションと言っても、古民家のそれは我々素人が近頃よく聞くオシャレな響きを持ったものとは、似て非なる物かもしれません。
解体作業というものがあります。床板を剥がしたり、壁板を剥がしたり。しかし、常盤坂の古民家において、解体は家の土台から取り掛かる必要がありました。というのも、土台が、原形を残さないほど腐食していたからです。基礎の基礎から手直ししていく必要があったのです。
それは、相当に地道で体力と精神力のを要する作業に違いありません。僕自身、この街に来てから弥生坂の古民家リノベーションを手伝わさせていただいています。僕が関わったところは、もう最後の方の工程に過ぎないのですが、リノベーションが始まった半年前から関わっている方は、基礎作りの作業の地道さを嘆いていました。
それだけ地道なことをひとりでやっていたら、一応の完成まで2年間かかるものなのでしょう。
(写真は、僕が下手なりにパテ処理という作業をしているところ)
いや、もしかしたら本来2年間もかかるものではないのかもしれません。
富樫さんが、このことこそ彼の個性であり哲学であり偏執ですらあるものかもしれませんが、家と「対話」をしているから、それだけ長い時間がかかったとも言える気がします。
家との「対話」、という言葉で彼が意味するものは広いです。建物の構造特性や劣化状況などリノベーションに必要な情報を調べるのはもちろんのこと、歴史的背景や建物の記憶を、実に丁重に、実に深いところまで、調べ上げるのです。この家はいつ建てられたのか、この家がある地域はどのような歴史を経てきたのか、この家には昔どんな人が住んでいたのか。そういったことを、解体作業に入る以前から、さらには解体作業をしながらも延々と調べるのです。事実、常盤坂の奮闘記は、床を剥がしたら現れた囲炉裏から当時の生活に想いを馳せたり、壁の裏から出てきた木箱を前にもしや小判でも入っているのではないかと胸を躍らせたり、同じく壁の裏から出てきた小学校のテスト用紙から昔の住人を想像してみたり、といった話に溢れています。そうやって、地域・建物・人の歴史を、深めることこそ、富樫さん流の「対話」なのです。対話というのは、往々にして時間がかかるものですね。
「対話」を通じて、知ったこと感じたこと、深めたことを、放置せず、繋ぎ合わせ、現在に蘇らせるのも富樫さん流です。
彼は、解体を通して出てきた古材などを流れ作業的に捨てることは決してしません。古材の色味から、その褪せ具合から、朽ち具合から、歴史を読み解き、その歴史の次なる章としてふさわしい場所で再利用するのです。
「シプル」というごはん屋さんがあるのですが、そこはもともと捕鯨船の船長の家でした。ここのリノベーションを手掛けた富樫さんは、以前にどこかで掘り出したものを保管しておいたのでしょうか、造船所の社長の家にあったというデスクを運び込み、新たな命を吹き込みました。このデスクは、どこかのなんてことない家で再利用されてしまえば、ただのデスクです。しかし、船という糸で繋がるこの家で再利用されることで、感覚的なものに過ぎないのだとしても、デスクがただのデスクを超えた新しい価値を帯びるのです。
しかも、かつてこの街にあった素材から作られ、その歴史をも継承した家は、この街らしさを確かに帯びて建つのです。
(写真は、富樫さんが解体現場で出た古材などを保管している場所。みな、次の出番を待っているのです)
もうひとつだけ富樫さんから伺った流儀を書かせてください。
彼のもとには、古民家をリノベーションして住みたいという移住者から依頼がたびたび舞い込むそうです。そういった案件を手掛けるとき、こだわることが一つあると言います。それは、リノベーションの段階から移住者と近隣住民の関係を築いてもらう、ということです。移り住んでから閉鎖的な暮らしになってしまわないように、という想いがその裏にはありました。移住者がこの街に馴染めるように、この街から浮いてしまわないようにこころがけているのです。
函館旧市街で古民家再生を手掛ける一級建築士富樫雅行さんの実績と流儀のいくつかをご紹介してきました。
彼は、家との「対話」を大切にします。あらゆる古材を再利用し、新たな命を吹き込みます。移住者と街を繋ぎ、馴染めるようにします。そうやって、家と人と地域とを、富樫さんの言葉を借りれば「物語を紡ぐ」ようにして、繋げていくのです。
こうして完成した家は、函館旧市街という街の「中」に建つ家になります。
こうして移住した人は、函館旧市街という街の「中」に住む人になります。
「中」という言葉で表したいのは、位置関係の話だけではありません。
むしろ、函館旧市街という街を一枚の織物だとするならば、家や人がそこに「編み込まれる」。そんなイメージです。
家は、それぞれ個性があれど、どこかこの街の景観に馴染み、歴史を受け継ぎます。人もまた、それぞれ個性があれど、どこかこの街の空気感に溶け込み、相互に繋がりを得ます。家や人が、函館旧市街性みたいなものを帯びるようになるのではないかと思うのです。
糸は糸として完成しながらも、織物に編み込まれたら、それを抜きに語ることはできません。
店から街をたくらむという、街への志向も、そういうことなのかなと感じます。
この街に、何に強制されたわけでもなく、ただ惹かれ、暮らすことにした人たちならば、この街に編み込まれた存在としてのアイデンティティが自分の中に嵩を占めるようになるのでしょう。しかも、歴史という糸が目に見える形でも、秘められた形でも(この糸を手繰り寄せているのが富樫さんというわけです)張り巡らされている函館旧市街ではなおさら、人々を編み込む力が強いでしょう。だから、何かをするとき、自然と街のことを考えるようになるのかもしれません。
もちろん、そのアイデンティティがしがらみとしてだけ機能するのか、街の未来のために変化を起こす活力として機能するのかは、その人の性質に左右される比率が大きいでしょうから、あまり考えても仕方ないのかもしれません。
しかし、「IN&OUT ハコダテとヒト」というメディアのインタビュー記事にて、富樫さんは、この街の特殊性として、手作り感を挙げています。
あとは、この街自体が、市民のみんなで作ったような街じゃないですか。公会堂だって、豪商の相馬哲平さんが寄付して建て直したものだし、函館公園だって市民のみんなでお金出し合って作ったものだったりとか。なんかこう、手作り感がありますよね。それでいて、昔の建物は洗練されているという。
歴史が、結局誰かの手作りの積み重ねでしかないことに気づけたら、街への志向が、ただしがらみとして意識することから、もうひとつ手作りを重ねさせていただきますという創意工夫へと、変わるのかもしれません。
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営業時間:11:30~20:00(L.O.19:30)
定休日:水曜日・第1第3木曜日
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TEL:0138-76-8930
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