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映画「劇場」をみた東京一人暮らし19歳の感想文

狭くて古い東京のアパートで ひとりぼっちの彼女は、何ができるだろう

映画「劇場」を映画館で見てきた 渋谷のユーロスペースの一番遅い上映で、友人のすずめ園ちゃんと一緒に見た。原作は未読、あらすじもよく調べないままだった。
結果的に、この映画はわたしにとってすごくすごく大きな波となってぶつかり今もずーっと考えている。本当にいい映画だった。

わたしが映画を見る理由に、「いろいろな感情を知りたい」というのがある 映画はフィクションだけど、人間の感情を一番肌で(しかも大音量で)感じることができる 一瞬しかない言葉選びに震える感覚も好きだ  ボーッとしてたら過ぎ去ってゆくことばたち 押し寄せる感情 それを浴びるのが気持ちいい。「劇場」は、感情、言葉、風景、どれをとっても巧妙で、ずっと殴られてる気分だった 何かを教えてくれる映画というよりは、心の中をかき乱していった映画だった

(ここからネタバレを若干含みます、Amazonプライムでも配信されているので、気になる方は観てから読むのをお勧めします)

あらすじは、東京で小劇団を立ち上げ脚本を書く永田という男性と、沙希ちゃんという女性の恋愛を描く映画。沙希ちゃんは夢を持って上京し、服飾の学校に通う女の子で、共通点も沢山あった

恋愛映画だと聞いて観たけど、恋愛映画では完全に収まらない感情の映画だと思った。不快になるような、悲しくなるような言葉や感情が出てくる 怒りたくなる 胸がギュッとなる 

この主人公の永田という男は、若くて無邪気で健気(に見える)沙希ちゃんという少女の生活をめちゃくちゃにしていく。ほとんど無職で、沙希の両親が家賃を払う家に転がり込み、沙希がもらった仕送りを分け与えられ、それなのに、沙希に悪態をつく場面が多々あった。すごく酷い人間だと思ったが、ただの酷い人間で終わらせられない何かがあった。

沙希ちゃんが学校の男子からバイクを譲り受けてきて、それを永田が勝手に乗り回し、さきちゃんがおどけて止めようとしても全く止まらず、最後にはボコボコに殴って壊して代わりに中古の自転車を買う。というシーンがあった。 とんでもないサイコパスだと思うけど、考えてみれば自分にもそんな感情の破片を感じたことがある。どうしても止まることができない気持ちが分かるのだ。身震いした。永田の考え方にはいつも愚直なまでに屈折した理屈があった。それはとても人間らしかった。

(ちなみに映画を見た日鞄に入れてた「カキフライじゃないなら来なかった」という本に又吉さんの詠んだ“愚直なまでに屈折している”という自由律俳句が載っていて、アーという気持ちになった)

そんな理屈の上に立っていることで、月日が経っても、永田は変わらなかった。だけど、沙希ちゃんはだんだん変わっていった。

ここからは沙希ちゃんの目線で考える。

沙希ちゃんは女優になりたいが、親の勧めもあり服飾の学校に通っている女の子。渋谷の街中でたまたま永田に声をかけられ、そこから色々あり永田と一緒に住むことになる。

沙希ちゃんは絶対に永田のことを否定しなかった。気持ち悪いほど徹底的に甘かった。家賃すら貰っていない永田と一緒に住みご飯まで分け与え、いつでもニコニコ笑って、「永くんすごい!」と、永田のやることなす事すべてを褒め称える。梨をむき、おやすみを言い、おはようを言い、おかえりと言う。

ブチギレてもいいくらい酷いことを言われても全く怒らない、というシーンが多々あって、沙希のそれがあまりにも不気味で、何度か本当に鳥肌が立った。この映画のいちばんの違和感は沙希だと思った。

沙希が永田に向かって「ここがいちばん安全な場所だよ」というシーンがある。

確かにそれは真理だが、なんでそんなことを言ったんだろうと考えた。永田を守りたいからだろうか、でもそれだけではないと感じた。

「ここがいちばん安全な場所だよ」と言わなければ、沙希には東京にどこにも居場所がなかったのだ。永田のかたちをしたシェルターを作らなければ沙希の東京はとっくに消えてしまっていた。わたしはその気持ちが痛いほどわかった。わたしだってそうだから。

親や友達に愛されて、愛されることを知っていて、永田のことも平等に愛そうとしていた沙希ちゃんはいちばん空っぽで、いちばんたくさんの感情を持っていたはずだ。

優しい人ほど壊れやすいのを知っている 感情にたくさん選択肢があると細く枝分かれして結局何を考えていたか分からなくなったりする。沙希はそうなのかなと思った。考えて考えすぎた結果空っぽなんだ。神様とされていた。何度も壊れていたんだろうな、それはすごく東京らしいというか、残酷だと思った。最後壊れてしまった沙希ちゃんは、空っぽで透明だった瓶が悲しみでいっぱいになってはじけたんだと思った。壊れたのに安心してしまったのは何でだろう。

沙希ちゃんの目の前にある東京はわたしのものでもあった、し、未だにわたしの目の前にある。大好きな街、大好きなひとびと、世界平和、程遠い、東京。

沙希のことを、美談とすべきではないと思う。だからこそ、わたしは自分自身の審美眼で目の前のこわい東京に立ち向かっていかなければ、このまちで自分の安心をじぶんでつくっていく、と、なぜかこの映画を見て決意した。沙希ちゃん、あなたのことをわすれない。

話はそれるが、わたしのだいすきな東京のバンド、ドレスコーズのLilyという曲が この映画のようだと思った

リリー、君だけは笑ってくれないか
愛想笑いかも、って不安がっても
リリー、抱きしめて さすってくれないか
涙が枯れる あいだだけ


狭くて古い東京のアパートで ひとりぼっちの彼女は、何ができるだろう
何でもできるわけではない
でも 自分の安心を作ってゆくよ わたしは


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