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ショートショート・エッセイ「あのこの脳内は」

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日記と自由律俳句以外の創作をきまぐれにのせていきます
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#小説

ショート・ショート 「クリスマス症候群」

ショート・ショート 「クリスマス症候群」

ショート・ショート 「クリスマス症候群」

年末なんて言うのなら、映画や本みたいに、世界も終わってしまえばいい。クリスマス症候群、浮かれて化粧の濃くなるように街は煌びやかさを増し、壁一枚で遮られているだけなのに遠く遠くの物語みたいで、マジックミラー越しに眺めているような気持ちになる。

クリスマスらしい音楽を選びスピーカーから流しても、私の選ぶ音楽はなんだか暗い、浮かれ模様のヒットソングを選ぼうと

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「ここちゃん」#4(終)

「ここちゃん」#4(終)

#4 「ここちゃんもういない」

僕の部屋にパンジーみたいな青色のソファが来た日、ここちゃんは不思議な形の目をキョロキョロさせながら、異物を飲み込んでしまった時みたいなバツの悪い顔をしていた。荷解きを済ませてテーブル前に置いた青いソファはやっぱり少し派手だけれど、ここちゃんが並ぶとその色調は丁度良く思えた。でも何故か、ここちゃんの表情はすこしも変わらなかった。

「ここちゃん専用のソファが出来たよ」

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「ここちゃん」#3

「ここちゃん」#3

#3 「ソファを買って、ここをわたしの住処にするから」

ここちゃんは高いところと床が異様に好きだ。初めて家についてきた日、クッションの幾つか敷かれたテーブルへ案内しようとすると、キッチンとリビングのちょうど真ん中らへんで、ぺたんと座り込んでしまった。まるで陣地を確保した獣のように。それからは、そこが定位置になっている。ここちゃんが居ない時も、ここちゃんがいつも座るところだけほの暖かいような気がして

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「ここちゃん」#2

「ここちゃん」#2

#2 「おいしくないから置いとくね」

ここちゃんは本当によくわからないし、気難しい。僕の家の本棚を片っ端から引っ張り出しては、ちぐはぐに場所を変えたりする。いつも使っているマグカップのひとつが急に消えて、どこを探しても見つからず、次の朝ベランダに出たら植木鉢になっていた事もあった。そこには小さな青いパンジーが植えられていた。こんなの、ここちゃんしかやらないよ。それと、「あったかいぎゅうにゅう」が好

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「ここちゃん」#1

「ここちゃん」#1

#1 「ここちゃん」

ここちゃんはよくわからないし、気難しい。

名前をこころと名乗る彼女は、近所の行きつけの喫茶にいつも居て、気がつくと僕の傍らに居た。

「血液型は」
「しらない」
「何座ですか」
「蟹座か乙女座」
「蟹座と乙女座はとっても離れているけど」
「そうだね」
「じゃあ好きな食べ物は」
「あったかいぎゅうにゅう」

ここちゃんとのはじめての会話はこれだけだった。窓際の席でプリンをほじ

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「お茶碗」

「お茶碗」

わたしの家にはお茶碗が一つしかない。だが、わたしは今、しらない男一人と、ひとりで暮らしている。

28歳。定職につかずアルバイトをしている。中小企業に就職しOLをしていたこともあったが、数年前になんとなく辞めた。今は、大味で有名なガード下の大衆食堂とレコード屋の掛け持ちで何とか暮らしている。住んでいるのは、世田谷区家賃3万4千円築40年ワンルームユニットバス駅から徒歩20分。そこそこ最悪だけど、で

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「かよちゃんの家出」

「かよちゃんの家出」

かよちゃんが、家出したらしい。

置き手紙に書いてあったのは、晩ご飯の餃子をパパに多く食べられちゃったことと、今履いてるスニーカーで登校するのが嫌だったから。だって。パパきらい、新しいスニーカーを買いに行くから探さないでください、って、なんだそれ。もう16歳なのに、どんな理由で家出してんのよ アホか

確かに、今日のかよちゃんは変だった。夜、かよちゃんの好きなジャニーズがテレビに出てたのに、連

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