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『さむがりやのサンタ』を読んで|50年前にあったサンタさんのSNS絵本


サンタさんのプレゼントを
子どもに用意した時、親になったと思った

 みなさんサンタさんは何歳まで信じていましたか?子どもの頃はサンタを信じる信じないで時々ケンカになったりしますよね。結婚して子どもができて一番親らしくなったな~と感じたのは、クリスマスに子どもにサンタクロースがいると信じ込ませていた時ですね。嘘なんだけど、これほどみんなが幸せになって、ついてもいい嘘って他にないですよね。だから堂々と、サンタさんが来るから手紙を書いた方がいいよとか、来た時のためにクッキーとかを用意しておこうとか、嘘を言って幸せな気持ちになっていました。逆に現在、親が歳をとって認知症になったりすると、自分の親もちゃんと親らしくサンタクロースがいるという嘘をやってくれていたんだなとしみじみしてしまいます。

 サンタクロースってみんなの憧れの対象で全世界誰もが知っていて、どの世代も大好きな世界最大の有名人です。そんなサンタさんって普段はどんな生活をしているのかと、一度は考えた事無いですか?また、一人で全世界の子ども達にプレゼントを届けられるのか?サンタさんって、普段どんな服を着ているのかなとか、クリスマスの日は忙しいけどケーキとか食べるのかなとか、ちょっとは考えたことがありますよね。そんなサンタさんのプライベートってどんなだろうっていう素朴な子どもの疑問に答えてくれるのがこの絵本です。

50年前にあったサンタさんのSNS絵本

 有名人のプライベートを知ることができるって、何かに似てると思いませんか。そう、まさにこの絵本はネットが登場する遥か昔、50年にあったサンタさんのSNS的な絵本だったんです。
 そもそも、この絵本は漫画のようにコマ割りで描かれています。なので絵本の中の異世界に入り込む、というよりは俯瞰して他人の日常を見ている感じがとても強い作りになっています。だから、子どもの頃に思ったサンタクロースの日常ってどんなかな?という興味を細かく描写してくれています。ちゃんとパジャマ着て寝る派なんだ~とか、朝はパンと目玉焼きを食べているんだな、クリスマスだからちゃんと自分で七面鳥を焼いたりしている姿はまるで現代の料理男子みたいです。犬と猫を大切にしているのも動物動画を見ているよう。プレゼントを配るのをめんどくさそうにしているのも、それが憎めないというか、人間くさくてかわいいのです。このサンタの日常を覗き見している感じが楽しいんですよね。
 さらに最後には映画でいうところの第四の壁を破ってサンタがこちらに話しかけてきます。(第四の壁というのは、映画の中の人物が観客に見られていることを意識していること。最近ではデッドプールなんかがよくやります)ちゃんと見られていることをわかっているんですね。それもSNSっぽい。見せることを前提で絵本の中で密着取材を受けているような感じさえするのです。

情報と情熱のあいだに

 そんなサンタが世界で有名人でスターであり続けられるのは、実際にはSNSが存在しないからです。よく映画でも音楽でもスターが生まれなくなったなんて言われます。確かに昭和ではスターがたくさんいました。昭和の子ども達はわけもわからずロックスターやアイドルに憧れる力が強かったと思います。ネットやSNSが無い時代では、憧れる人たちのプライベートだったり日常の姿というのを見ることはほぼ不可能でした。
 情報が無い分だけ、好きになる気持ちの持って行き場がなくてそれが圧縮されて強い「憧れ力」になっていたんだと思います。それを情熱と言ってもいいと思います。昭和が熱かった!みたいなイメージは、その情熱があったかどうかなんだと思います。最近でいうとネットフリックスドラマの『極悪女王』がイメージしやすいかと思います。あのファンの常軌を逸した勢いってすごいじゃないですか。あれは女子プロだけじゃなく、男のプロレスはもちろん、アイドルでも、ロックでもそうだったんです。
 じゃあ、今の時代に情熱が無いかといったらそういうわけではないと思うんです。でも手のひらに、好きな俳優やミュージシャンでも、そういう人達の情報が入ると身近に感じすぎてしまうというか、昭和を経験した身からすると「憧れ力」があまり発動しいないんですよね。カリスマ的なスターはあくまでも幕の向こう、舞台の上にいて、あまりこちらに情報を投げかけないくらいの方が、かっこいい!素敵!となるのではないかと思います。
 情報を知るのはもちろん大切なのですが、何か情熱を傾けるためには、知りすぎない方がわけもわからず好きになれるってことはあると思うんです。知りすぎると熱がさめるというか。情報と情熱は反比例するんじゃないかなと思ってしまいます。

 知りすぎないで、わけもわからずやっていると言えば、それこそサンタクロースのプレゼントがそうですよね。どこの親も、お金もかけて工夫をして子ども達を楽しませるために、一生懸命クリスマスの日にプレゼントを用意するわけじゃないですか。ファンタジーの世界のことを、理詰で突っ込まずに、あきらかにおかしいことをやっていると思っていても、子どもを喜ばせたいと思ってやるわけですよね。それこそが情熱だと思うんですよね。

  そして、そのみんなの大嘘に乗っかって、サンタさんの日常の細かい描写まで描き切っているこの絵本はめちゃくちゃ夢があって素敵な絵本です。子どもにサンタクロースを信じ込ませるために読み聞かせてあげるとクリスマスがもっと楽しくなると思います。

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