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明大前駅 病名は"寂寥性不眠症候群" | にわたかし

明大前には明治大学がある。
名物は数万人の大学生たち。

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以下、明治大学ホームページより抜粋。

和泉キャンパスは京王線と井の頭線が交差する「明大前駅」の間近に位置します。
都心へのアクセスは10分と抜群の立地条件でありながら、閑静で四季折々の草花と緑に囲まれた開放的なキャンパスです。
文系6学部の学生が、勉強、スポーツ、サークル活動など活気に溢れ、のびのびとした学生生活を送っています。

明治大学は、毎年受験者数1,2位を争うような
古い言い方をすればマンモス校である。

量産型大学生というイジり方があるが、概ね間違いなく
明大前にある和泉校舎は文系の1,2年生が通う校舎で、
大学生の中央値を取ったような
その時代時代の"なんだかムカつく大学生"たちが
数万人と通っている街である。

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私はそのまちに2年近く住んだ。
大学は実家から通える距離であったが、
一人暮らしへの憧れが強く働き、
明大前の"〇〇荘系"のアパートに下宿していた。

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庭に大きな白樺の木があり、部屋が四畳半。
野良猫が住み着いていて、家賃は3.5万円。
共用の玄関に、シャワーもトイレも共同。

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非常に裕福な実家で何一つ不自由なく育てられた私は
反動的に貧乏学生ごっこをしたくてこの家に決めた。
これって一人暮らしというよりも下宿じゃん。若き文豪感にウットリ・・・

夕方起き抜けに窓を開けてタバコを吸ったりもした。
ああ、講義に遅れちまうぜ。ダリい。ジャージでいいや。
健康も見栄えも、何も気にしてなさそうな無頼漢さにウットリ・・・

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「終電逃した〜」「おいおい〜一応人ん家だぞ〜」
なんて言いつつ、男がきても女がきても
「鍵かかってねえから。勝手に入ってな。」
女が泊まりに来てもたじろがない、高校生にはない人間関係の捉え方にウットリ・・・

だが、実は私は極度の寂しがりやだった。
誰かの寝息がないと一人では寝付けずに
朝日が登って体力が尽きないと眠れなかった。

病名があるならば"寂寥性不眠症候群"

明大前の駅前は、大抵大学生が終電前まで
酔った若者が仲間や恋人との時間を過ごしていた。

それを見て家に帰ると、しっかり寂しい気持ちに。
誰かが楽しそうにしていると、自分の寂しさが一層こみ上げる。

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そして一人ではなんだか寂しくなっちゃって
朝日が新宿方面に登るまで寝付けない。
(新宿方面に朝日が登る、ウットリ・・・)

だから、誰でもいいから泊まりに来てくれると
1時か2時にはちゃんと安心して眠れる。
ああ、大丈夫だ大丈夫だ。俺もちゃんとやってる。

実家から通っていれば寂寥性不眠症候群には
なっていなかっただろう。

高校卒業と同時に解禁されたいくつか
・00:00以降の新しい時間
・お酒を飲んでまどろむ無意味な円
・男女を気にしない"仲間"という概念
そんなものを間近に目の当たりにしてしまって
ついつい欲が出てしまい、自分もただ暮らすだけでは
物足りなくなってしまった。

そして誰かが家にいる状態で眠れさえすれば、
その欲はひとまず満たされていった。

明大前の喧騒から置いて行かれたくない。
誰でもいいから寝息を立ててくれれば落ち着く。
ああ、誰でもいいから寝息を立てて安心させとくれ。

寂寥性不眠症候群は明大前を出たと同時にあっさり治った。
というか、今や家は自分の場所だから誰も来ないで欲しい。

学生時代の貧乏下宿の思い出を振り返る
30歳目前に控えた自分にウットリ・・・

■にわたかし (@niwa_chang92)
ハイパーごきげん、散歩大好き


*このエッセイは、住んで暮らす東京の街についてのエッセイ集『あの街』第2号の収録作品です。
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