【1000字以内の感想文】煌夜祭/多崎礼
大人になってからこんなに夢中になって読んだファンタジーは初めてだ。
むしろ、大人になってからこんなに夢中になれるなんて思ってなかった。
冬至の夜。死の海で隔たれた十八の島々を巡る語り部たちが、集めた物語を夜通し語り合う。
炎を絶やさぬように、誰かの思いを伝えるように、1年で1番長い夜に語り合う。それが煌夜祭。
『お話ししよう。夜空を焦がす火壇の炎でも照らすことの出来ない、真の闇に隠された恐ろしい魔物の物語を……』
(思わずここでドキッとする、そうなのです、この世界には魔物がいるのです)
ここで語られる物語は、小さい頃にきいた御伽噺のようで、昔話のようで、だけどとても現実的で非現実的で、とても苦い。
語り部たち話を聞いていると、まるでこの十八諸島を共に巡ってるような感覚になる。
読み進めていくと、壮大だったひとつひとつの話がだんだんと繋がりを見せてゆく。
小さな島の話をいくつも聞いていたはずなのにいつの間にか、大きなひとつの物語に変わっている。
伏線なんて簡単な言葉じゃない。
仕込まれているのではなく起きたことを辿っているだけ、といえば簡単なのだけど。
ひとつの世界の歴史の一部をのぞいているのにどうしてこんなに面白いんだろう。
どうしてこんなに惹き込まれるんだろう。
それは、ファンタジーに相応しく作り込まれた世界観があるからなのか、
その世界観にも負けないくらい人物たちが魅力的だからか、
それとも私が魔物に恋をしてしまったからか。
いずれも正解だと思う。
儚くて美しい、弱いのに死ねない、そんな生き物がいる。
人と魔物の物語として、こんなに美しくて切なくて、輝いていて淋しい物語は初めてだった。
自分の想像力を試された。
(そして呆気なく散った。想像力は鍛えなければ衰えるのです)
私はこの本が大好きだ。
何度も何度も読み返したい。
そして、何にも誰にも映像化などされることなく読めて幸せだ。
なぜなら、頭の中で完全にその世界を作り出せて想像力だけで読み切ったときにしか、発見できない“仕掛け”がこの物語に隠されていたから。