観光客視点で感じるメタバースの「ケンミン性」ー『ソーシャルVRライフスタイル調査2023』感想 ー
はじめに…
この記事はバーチャル美少女ねむ氏・ミラ(リュドミラ・ブレディキナ)氏主導で行われた『ソーシャルVRライフスタイル調査2023』を読んで、思ったことを書いていく。『ソーシャルVRライフスタイル調査2023』をまだ読んでいない方は、その記事も併せて読んでほしい。
昔懐かしい記憶
最近はテレビ番組を視る機会も随分減ってしまったが、子供のころは家族で良くテレビを見ていた。その一つが『秘密のケンミンSHOW』だ。県民の少し変わった風習を紹介していくバラエティー番組で、グルメ雑誌や旅番組とは違った角度で地方の特色を捉えている点がとても面白かった。僕が見ていた時はまだみのもんた氏がMCを務めていたのを憶えている。今や長寿番組になり、ネタ切れ感・やらせっぽさを少し感じる番組にもなってしまったが、番組を視始めた当時は色々新鮮に映った。同じ県民でも風習に違いがああったり、自分の住んでいる県の全く知らない風習や食べ物が紹介されたりと、自分の知らない地方のことを色々教えてくれた。
今回『ソーシャルVRライフスタイル調査2023』を読んだときに、その番組のことをふと思い出した。おそらく自分が知っているようで全く知らないメタバースの住民の生態を目の当たりにしたからだろう。
ソーシャルVRユーザーとしての私のプロフィール
一応私はVRChatとClusterにアカウントを持っている。VRChatよりはClusterに入ることが多く、「Avatar Maker」で自作したアバターとBOOTHで購入したアバターを持っていて、Meta Quest2で度々VRの世界に入っている。リアルの私は研究者志望なので「バーチャル学会2023」も見学した。ただし、きれいなワールドを見に行ったり、面白いイベントがあったら参加する程度でメタバースの「住民」と名乗るほどではない。どちらかというとメタバースの「観光客」といった方が、自分の中でしっくり来ている。(住民ではないので敢えて生活感やアイデンティティを感じないプロフィールにしている。ほんとはもっと色んな人と仲良くなりたいのだけど、引っ込み思案なので上手く声をかけられずにいる。VR空間にいる人に話しかけるの、フツーにリアルより緊張しない?)
ソーシャルVRのびっくりポイント
それでは『ソーシャルVRライフスタイル調査2023』の発表スライドを見ながら、見ていこう。
びっくりポイント①:思った以上に長い時間ソーシャルVRに滞在している
「みんな結構長いことVR空間にいるんだな」というのが正直な感想。VR空間での活動は没入感が高いのが魅力である。その一方で、何か別のことをしつつ、「ながらで」VRにいるのは少々大変な印象がある。ソーシャルVRユーザーには「無言勢」がいて、積極的に音声会話をしないユーザーがいることを勘案しても、結構意外だった。あとVRゴーグルを被ってると結構疲れるので、僅かではあるが12時間以上ソーシャルVRにダイブしている人がいるのには驚愕だった。一体どんな体力してるんだ…
びっくりポイント②:若者ばかりじゃない
もちろんメインのユーザー層は20代で若者なわけだけど、40代・50代のユーザーも結構な割合でいる。特に日本は多く、全体の22%が40代以上だった。現実空間での見た目が関係ないメタバースは若者だけでなく、中高年にも平等に開かれている。とはいえメタバースという新しい技術・サービスにある程度年齢がいってからも入り込めるのは、心の若々しさがすごいなあと感じた。
びっくりポイント③:想像以上に恋愛している
もちろん「お砂糖(VR空間上で恋愛パートナーを作ること)文化」は知っていたし、かわいい人たちが行き交う空間なのは理解してたけど、それでも実際に数字で見ると、その割合に驚愕した。しかも相手に惹かれるきっかけは「性格」が圧倒的に多く、相手の物理的性別を重要視しないユーザーが多いことも分かった。とはいえ恋をしたことがある人の割合は利用しているプラットフォームで大きく異なることも見逃せない要素だ。
びっくりポイント④:プラットフォームによって内訳が結構違う
これまで取り上げた1回あたりのプレイ時間・年代・恋の項目を見ると分かるが、プラットフォームによってその割合がかなり異なる。これは他の項目でもはっきりと見られる傾向で、ひとくちにソーシャルVRといってもその内実はプラットフォームによって随分異なることが、今回の調査から暗に示された。さらに言えば、同じプラットフォームでもユーザーの生態というのは随分違うのだろうなと感じた。
その意味では今回のnote投稿企画“「仮想現実での生き方」を考えよう”はソーシャルVRユーザーの様々な実態が知れて、読者としてとても面白い企画だと感じた。
おわりに ~もっと色んな調査をみたいし、やりたい!~
『ソーシャルVRライフスタイル調査』は、Googleフォームを用いた公開アンケート調査でデータを収集したサーベイ調査だが、定量調査だけでなく、インタビューやエスノグラフィーといった定性調査も今後行われてほしいと思う。個々のユーザーやワールドにフォーカスすることで、メタバースの「ケンミン性」が明るみになり、もっともっと面白くなると感じたからだ。VRに馴染みのない人や僕みたいなVR観光客からすると、テキストベースでソーシャルVRの実情を知れると、浮世離れした印象もあるメタバースがぐっと身近に感じられるだろう。さらに言えば、価値中立的に書かれた調査だけでなく、ゴリゴリに主観が入った調査があっても、それはそれで介入的で面白いんじゃないかなと感じている。
私は現実空間では研究者を志す学生なので、メタバース空間の定性調査をやりたいなと思っている。あとやっぱりもっと多くのVR住民と仲良くなりたいなと!