短歌68(終わりに近づいていく歌)
「心の花」2023年8月号掲載+α
昼寝する夫を容赦なく起こす買い物土産にどら焼き買えば
夜更にはひとりの時間必要な夫と今はスープ分け合う
濃き味の柘榴を食べる目の前の人を愛して当然らしい
新宿で一旦降りて朝五時のドンキで調達する自撮り棒
白飛びをしている朝の海に目を細める最後の旅と知らずに
怒るほどでもなくやめる反応の悪いホテルの太鼓の達人
殺されるためつけられた謎解きの被害者の名の五文字の苗字
三日間クリーニング屋にスカートを取りに行けずに鬱が始まる
2022年春、伊豆に旅行に行った。
カメラロールを遡ると、伊豆シャボテン公園の写真だけが残っている。
この旅行は何を目的にして行ったのか、伊豆シャボテン公園以外どこに行ったのか全然覚えていない。
この記事の短歌だと、「新宿で」「白飛びを」「怒るほど」の3首が伊豆での歌である。
朝早くに家を出て、まず新宿のドン・キホーテに行った。
自撮り棒を買うためだ。
その後、チケットショップで安い切符を買ったように思う。
1日目、何をしたか本当に全然覚えていない。
電車に乗っていて海が見えた時に「白飛びを」の歌の原型を作ったことは覚えている。
歌が残っているので。
下の句は数年後に作り変えた。
この後、句会のメンバーで高知旅行には行くのだが、夫婦二人での旅行はこれが最後になった。
最後の旅行をあまり覚えていないという事実が、今の私には悲しい。
もっとたくさん歌を作っておけばよかった。
ホテルは伊藤園ホテルズだったように思う。
ホテルの敷地内にパターゴルフや卓球、エアホッケー、太鼓の達人などがあり、ホテルの中だけでも楽しめるテーマパークチックなホテルだった。
太鼓の達人の太鼓の反応が悪くて、ゲームにならなかったことは覚えている。
でも怒るほどじゃないしとホテルのスタッフさんには言わなかった。
たぶん他のお客さんも同じ気持ちで、誰もスタッフさんに言わないから「調整中」の張り紙もなく放置されているのだろう。
2日目は伊豆シャボテン公園。
写真がなかったら行ったことを思い出せないところだった。
伊豆シャボテン公園は孔雀が放し飼いになっている。
動物全般が怖い私は、孔雀ももちろん怖かった。
記事のサムネになっている写真は餌でもあげているのだろう。
この腰の引けようである。
リードの付いている犬と道ですれ違う時でさえ1m以上の間隔を保ちたい。
いわんや放し飼いの孔雀をや。
シャボテン公園で買った、カピバラ鉢入りのサボテンを2年以上世話した。
買った時は球形のサボテンだったのに、時間が経ったら縦に伸びた。
「それは聞いてない!!」と思ったが、可愛くなくなったからと世話を止めるわけにもいかない。
2024年の春には、ピンクの花が咲いた。
引っ越しをして日当たりが良くなったからだと思う。
その数ヶ月後、このサボテンとお別れをした。
夫と離婚をして、当時の恋人の家で暮らすことにしたからだ。
サボテンに罪はないけれど、元夫と旅行に行った先で買ったものを恋人の家にまで持っていくのは違うと感じた。
恋人の家に移るに際して、持っていた物の9割を捨てた。
その中で一番葛藤が大きかったのがこのサボテンだった。
どうしても、生き物だから。
植物に許すとか許さないとか、嫌だと苦しいとかの気持ちがあるかはわからない。
可哀想と思うことはこちらの投影でしかなく、押し付けなのかもしれない。
だからサボテン側の気持ちは推察しない。
その代わり、「最後に可憐な花を見せてくれてありがとう」という私自身の気持ちをここに残しておく。