「お客様の中にお医者様はいらっしゃいますか。」
実際に機内でこのドクターコールのアナウンスを聞いたことがある人は少ないかもしれない。
でもCAとしてしばらく乗務をしていると2〜3年に1度くらいはそういった便に当たることがある。
(と言っても人によるのだが。何か悪いものを引きつけてしまう力を”持ってる人”は半年に1回くらいのペースで引き寄せるだろうし、”持ってない人”は一生当たらないこともある。このCAあるあるでもある”持ってる人”と”持ってない人”の差の話はまた別の記事に書きたい。笑)
というかドクターコール自体は実はとても頻繁にされているのだ。産業医によると、こと世界中の航空会社という広い視点でみれば毎日1人は世界のどこかの機内で亡くなっているという統計があるらしいし、私の勤務する会社においてもドクターコールがされなかった、という月はない。(これはコロナ以前の話で、航空需要が激減した現在の状況はことなると思う。というかむしろ体調に不安がある人が飛行機を利用することがなくなって、ドクターコールが全くされてないかもしれない。)
私は今までに3回くらいドクターコールをした便に乗務したことがある。インド路線では胸を張ってCAはトイレの清掃員だと言い切ったが、時にCAはドクターの医療助手になることもあるのだ。
今回はそのドクターコールをした便について、状況やケースの重さなども違っていたことから3回に分けて書こうと思う。
プライバシーにも関わることなので、あくまでも私の経験をべースとしたフィクションだと思って読んで欲しい。
国内線、30代男性のビジネスマンのケース
私が人生で初めてドクターコールを聞いたのは、CAとして働きはじめて1年頃のことだ。
それは国内線を乗務していた時のこと。国内線を乗務する時は1日に2,3便ほど乗務するのが普通だ。だいたい、羽田から地方に飛び、2便目で羽田に戻り、3便目でまた地方に飛び、その日は地方にステイすることになる。
この日は羽田から広島へ向かっていた。
まだ若かった私は、CAとしてのスキルはほとんどついていなく、マニュアルが行動化できるくらいになったレベルで(ステイ先で何しようかな、夕食は何を食べようかな、)と無邪気にルンルン考えていた。
飛行機が上空にいき、飲み物のサービスが始まる前、私はギャレーで飲み物のカートの準備をしていた。
すると、客室から「お客様、大丈夫ですか!」という声が聞こえた。機内の見まわりをしていた同期が大きな声でそう言っていたのだ。
なにかあったのかなと思った私は飲み物を作る手を止め、客室に出てみると、同期が着席しているお客様の席で腰を落として対応しているのが見えた。(おいおい、ただ事ではないな、)と思い慌てて先輩と駆けつけると、
30代くらいのスーツを着た男性が口から泡を吹き、意識を失っていたのだ。
正直、かなりショックだった。
手足は脱力して、上をむいていた男性の口からは、モコモコと洗剤を思いっきり泡立てたような白い泡が湧き上がっていた。男性は若干白目をむきながら、意識がなかった。
初めてみた。
人ってこんな風になるのか。泡って、こんなに出るのか。
先輩はすぐさまアナウンスでドクターコールをした。
同期は機内に搭載されている医療機器を取りに行った。
私は焦りを通り越して「無」の状態になりながらも、「お客様、聞こえますか」と言いながら、お客様のシートベルトを外し、ネクタイを緩め、シャツのボタンを開け、ズボンのベルトも緩めた。
ドクターコールがされている最中に、その男性の4列ほど前に座っていたお医者様が異変に気づき、すぐに座席に駆けつけてくださった。
「大丈夫?」と私に声をかけてくださったお医者様は、泡を吹いている患者なんて見慣れているからか、とても冷静で、なにも起きていないかのように落ち着いていた。
お医者様が男性の前にきて身体の状態の確認をするちょうど直前に、男性がうすく瞬きをし、男性の身体に少し力が戻った様子に見えた。
意識が戻ったのだ。
男性はなにが起きたのか分からない驚いた様子だった。
お医者様は「あ〜、よかった。大丈夫ですか?」とにっこりと男性に話しかけた。
幸い、大事に至らずにすんだのだ。
その男性に後ほど話を聞いてみると、男性は二日酔いの状態で胃薬を服用したのにも関わらず、その後にラウンジでビールを2杯飲んだらしく、飲み合わせが悪かったのか、機内で気を失ってしまった。と元気に教えてくれた。
「いや〜、こんな風になったこと、今まで一回もないんだけどなぁ〜!笑」と。
おい。
薬服用してから、アルコール飲むなよ。
薬は、用法・容量を守って、正しく飲んでくれよ。
頼むよ。
私は生まれて初めて、人が泡吹いているのを見て、ショックを受けたよ。
体調が回復してほんとうに良かったけどさ。
以前の他の記事でも触れたが↓
機内の湿度はサハラ砂漠より過酷なくらい乾燥しているし、
機内は富士山5合目と同じ高度である。
普通の人が、普通の健康体で搭乗しても、まるで普通の空間で新幹線や車と大差ないように思える。けれども実際には機内の環境は非常に特異で人工的に創り出した空間であり、体調不良者にとっては地獄なのです。
体調不良者にしか気付けない。
なので、お願いだから、薬とアルコールを一緒に飲まないでください。
地上だったら、ちょっと気持ち悪いな〜で済むものも、上空に行くだけで泡を吹くレベルに変わるから。
教訓:
・薬は療法要領を守って正しく飲む。決してアルコールと一緒に飲まない。
・体調が悪かったら飛行機には乗らない。
みなさま、お気をつけあれ。