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湖北の桜花 2023 日本中のソメイヨシノは全部クローンだった説

 前回の続きです。

 ソメイヨシノは江戸時代末期に染井村の植木屋さん集団がエドヒガンとオオシマザクラを掛け合わせて作出された比較的新しい品種です。

 こんなにたくさん花が咲いてるんだから、受粉して種子を作ることができそうなものですが、ソメイヨシノは【自家不和合性】が強い品種ですので種子を作ることができません。
 自家不和合性とは遺伝的な多様性を保つために、植物が自分の花粉では受精せず、同種の他個体の花粉で受精する仕組み。つまり異なる個体の間では受精するが、同一個体の受粉では受精できない性質です。

 発芽できる種子が作れないってことは実生の苗を作れないわけで、染井村の植木屋さんは仕方なく接ぎ木や挿し木で苗を増やしたのでしょう。接木や挿し木をして増やしたということは、現在日本中に咲いているソメイヨシノは全てクローンということになります。

 したがって、こんなにたくさん植えられていたとしても、相手が全部自分自身の“クローン=分身”だから、遺伝子型がどれも一緒のため実をつけることができず、同種の他個体ではなく、同種の同個体となるわけで、異なる個体の間では受精するが、同一個体の受粉では受精できない性質がどこまで行ってもずっと邪魔をするんですね。

 というわけで、ちょっと気の遠くなるような話ですが、全国各地の桜の8割を占めるソメイヨシノは全て人の手でセッセとそうして増やしたものなのです。ですから、DNAマーカーで元をたどると、全てのソメイヨシノが染井村で作出された数本の原木に行き着きます。そのあたりはソメイヨシノも 父系の血統をたどるとたった3頭の馬に遡れてしまうサラブレッドとよく似ているんですね。(^^)
 でも、日本中のソメイヨシノが全部クローンだってことは、人間でいうなら渋谷のスクランブル交差点を歩いてる人が全部同じ顔をしてるってことですから、想像すると気味が悪いと思うのは私だけでしょうか?(^^;) 

 ところで、みなさんの中にはソメイヨシノの実をご覧になったことがある方もおられるのではないでしょうか?実は私も見たことがあります。マッチ棒のような形で、花が散った後にたくさん地面に落ちています。
 あれれ?ソメイヨシノには実がならないんじゃなかったっけ?じゃ、あの実は何なのさ?ということになるのですが、あれは近くにソメイヨシノ以外の桜の木があって、その桜の花粉を受粉してできた実なのですね。

 実はソメイヨシノもソメイヨシノ以外のサクラと交配することは可能で、こうして生まれた桜はソメイヨシノとは別品種になります。他との交配で生まれた実生子孫としては、ショウワザクラ、ウスゲオオシマ、ソトオリヒメ、ソメイニオイ、ミズタマザクラなど100種近くの品種があるそうで、これらの交配種からソメイヨシノに似ていて、しかもより病気などに対する抵抗力の強い品種を作ろうとする試みもあるようです。

 それにしても植物はすべからく子孫を残すために花を咲かせるのであって、誰かに見てもらうためじゃないのにと思うと、満開のソメイヨシノが少し哀れですね。

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