【座談会】50歳の安野モヨコが読みたい恋愛もの、と考えて描く『後ハピ』
『ハッピー・マニア』から『後ハッピーマニア』まで。
当時から今までの作品、「FEEL YOUNG」のことを、安野モヨコと新旧担当編集さんが振り返っていきます。
「FEEL YOUNG」2021年8月号に掲載された座談会記事の中におさまりきらなかった新エピソードも加え、「ロンパースルーム DX」では、全3回でお届け!
今回は第2回です。第1回は下記からどうぞ!(スタッフ)
▼座談会メンバー
安野モヨコ Moyoco Anno
高校在学時に「まったくイカしたやつらだぜ!」でデビュー。
主な作品に『ハッピー・マニア』『働きマン』『さくらん』『シュガシュガルーン』などの作品がある。『鼻下長紳士回顧録』で第23回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞。
現在、「FEEL YOUNG」で『後ハッピーマニア』、「I’m home.」でエッセイ『ふしん道楽』を連載中。
吉田朗 Rou Yoshida
元『FEEL YOUNG』編集者(現在は引退)。
『ハッピー・マニア』を立ち上げたかつての担当。
小林愛 Ai Kobayashi
『FEEL YOUNG』編集者。『後ハッピーマニア』を立ち上げた現担当。
安野さんには最初からマンガ家で食っていく
という軸があった(吉田)
――安野さんは高校卒業直前にデビューされているんですよね。そこからしばらくは少女誌で描かれていて。
安野 そうですね。家の事情もあったんですけど、バイトはいっぱいしました。学校生活とマンガを描くことしか知らない生活だと、この先マンガが描けなくなるんじゃないかと思って……。特に水商売をしていたことはすごく勉強になったというか、それで大人になったところはあると思います。
小林 だから、フィール・ヤングで描き始めた時、すでに精神年齢はだいぶ高かったんですね。でも実際の年齢は若いから、その感性を持った状態で『ハッピー・マニア』が描けたのかなと思いました。
吉田 安野さんには、最初からマンガを描いて食っていく、という軸があった。それがあると何をやってもネタになるというか。よくマンガ家さんが、殴られると「痛い」と思いながらも「これで1本描ける!」と思ってしまう、と言いますよね。
安野 確かに、どこかでネタにできるという気持ちはあるんですけど、それが前面に出すぎると、殴られたことに正面から向き合わなくなるんですよ。「いいよ、どうせネタにできるし!」とか思っていると、自分の心が助かってしまう。そのうち、リアルに怒ったりしなくなるんですよ。そうすると描くものが嘘くさくなる。だからいったんマンガ家であることは置いておいて、その時はめちゃめちゃ真剣に怒ることが大事だなと思います。
吉田 なるほど……ある種の逃げみたいになっちゃいますもんね。
小林 お話を聞いていると、当時は社交的でお酒好き!みたいな方がたくさんいらしたようですし、時代柄もありますけど男性との関係も豊富な作家さんがたくさんいらしたんだなあと。そういう方たちが、マンガを描くことを選んだことが興味深いなとも思います。もちろん今のマンガ家さんにもそういう方はいますが、ちょっと雰囲気が違うのかなあと思います。
――吉田さんと安野さんはほとんど打ち合わせをしていなかったとのことですが、小林さんとはいかがですか?
小林 私もそれほど打ち合わせらしき打ち合わせ……はしていないと思います。ざっくり「どういう展開になるんですか?」とか「そろそろこういうことを描きますか?」とか雑談のようにお話しするくらいで。
安野 いや、小林さんはすごくちゃんとしてる! 私が前に言ったまま忘れていた設定を「あれはどうなっていますか?」とか「このあたりを読者は読みたいと思います」とポイントをちゃんと投げてくれる。
小林 雑談で安野さんが「こういう人が出てきたらおもしろいよね」みたいなことをポロッと言ってくださるので、「絶対に見たいなその人!」と思うと、「あの人は出てこないんですか? 見たいのですが……」と念押ししてしまうんです(笑)。
――安野さんは編集さんによっていろいろなスタイルがあっていいかなと思っていらっしゃるのでしょうか。
安野 そうですね。吉田さんは時々思いついたようにとんちんかんなことを言うので「そんなことあるわけないじゃないですか!」って怒りのあまりネームが進んだりもするので(笑)。
吉田 逆をつくことで、僕は反作用みたいなものを引き出しているんですかね(笑)? さっきの「みんな彼氏がいる」とかね。結果オーライです。
安野 (笑)。小林さんとか若手の編集さんには、若い人のセンスを聞けるのが助かっていますね。コミックスの表紙をどれにするか、とか。自分がいいと思うものはやっぱりちょっと古い感じがする時もある。それはそれでいいんだけど、そこにプラスアルファすることで、今の人でも手にとろうと思ってくれるようなものにしたい。それには若くてセンスのいい人の言う事を聞こうと思っています。
小林 それは『後ハピ』がはじまってからすごく言ってくださいますよね。
安野 老いては子に従え、みたいな(笑)。
小林 2巻の表紙は、デザイナーさんが3種類カラーバリエーションを出してくれたんですよね。
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ロンパースルーム DX
安野モヨコ&庵野秀明夫婦のディープな日常を綴ったエッセイ漫画「監督不行届」の文章版である『還暦不行届』の、現在連載中のマンガ「後ハッピーマ…
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