2月26日ご飯がススムキムチの日
冷蔵庫を見ると、目当てのソレが見あたらなかった。
私は今日、どうしてもソレが食べたくて食べたくて、昨日のご飯が残っているにも関わらず炊き立てのご飯と合わせて食べるべく、わざわざ出勤前の僅かな時間に炊飯をセットしていったのだ。買い置きさえなかったとは迂闊である。
「ただいまー!今日はすんなり帰れたよ」
嬉々とした声で夫も帰宅した。買って帰ってきても言えないではないか。
「どうしたの」
冷蔵庫を開けたままで呆然と立ち尽くす私を見て彼は僅かに驚いていた。
「ちょっと、買い物に行ってくる」
「うん、いいけど。今日の夕飯に必要なものなの?」
夫が私と冷蔵庫を見比べて言った。私は小さく答える。
「キムチ」
「え?キムチ?明日買ってきて食べればいいじゃん」
「いや、私は今日食べたいの」
「もう遅いし、明日にしなよ」
彼は私をなだめながらそう言った。私はすでに上着を羽織り、財布を
そのポケットに入れている。そして彼の顔を見る。
「今日食べたいんだもん。ほかほかの炊き立てご飯にはキムチがないと!」
そう言って、自分で気づいた。
これ、聞いたことのある台詞だ。
「ほかほかの炊き立てご飯にはキムチがないと」
彼と結婚する前、まだつきあっている時だった。すでに同棲をしていたのでもしかしたら将来そうなるかもなぁくらいはお互い思っていたけれど、時に焦ってもいなかったのでのんびりと二人、日々を暮らしていた。
その日は私の誕生日の前日だった。誕生祝いは翌日にしようと二人で決めていたので、前日はいつも通り家で食事をしていた。
夕飯は白菜とツナの煮物、温奴、味噌汁、ご飯と何とも優しい献立である。私はこういう夕飯が好物ではあるが、彼には物足りないのではないかと、私は小皿に少しキムチを取って彼に渡した。
すると彼は件の「ほかほかの~」と言ったのだ。
「うん、まぁそうね」
私は同意して見せたが、正直そこまで同感とも思わなかった。私は白菜とツナの煮物でも十分ご飯はススムのだ。ぼんやり聞いていると、彼は大きく一息ついて、私の顔を真正面から捉えた。
「俺にとって、公ちゃんはキムチなんだ!」
え、発酵してるの?私?などというつっこみなど頭に浮かぶこともなく。ぽかんとしてしまう。彼はそのまま続けた。
「毎日食べるご飯に、毎日キムチがあってほしい」
そう言うといつの間にかその手には指輪があった。震えた唇で、ややもすると涙がこぼれてしまいそうな目で彼は言う。
「僕のキムチになって、公ちゃん!結婚してください!」
ロマンも何もあったものじゃない彼のプロポーズに私は笑って返した。
「喜んで」
あの日からまもなく5年が経つけれど、ご飯にキムチを求めているのは今では私ではないかと気づく。いつの間に逆転したのだ。
「僕が買いに行くよ。公ちゃんは待ってて」
「でも」
私が食べたいのだからと思って言おうとするも、彼はすたすたと玄関に向かった。
「俺もキムチ好きだから」
言えない。キムチでキュンとしたなんて言えない。
私はひとまず、後ろから彼を抱きしめておく。
ああ、早く食べたい。
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【今日の記念日】
2月26日 ご飯がススムキムチの日
埼玉県所沢市に本社を置き、キムチや浅漬を中心とした食品事業を展開する株式会社ピックルスコーポレーションが制定。同社の「ご飯がススムキムチ」をキムチ鍋などで需要が高まる時期に多くの人に食べてもらうのが目的。日付は「ススム」の「ス」を数字の「2」に見立て「2(ス)2(ス)6(ム)」として2月26日としたもの。「ご飯がススムキムチ」は国産白菜を100%使用し、りんごの甘味、魚介のうまみ、たっぷりのヤンニョムで作られている人気商品。
記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
https://www.kinenbi.gr.jp の許可を得て使用しています。
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