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ひととせ②【連続短編小説】
※前回の「ひととせ①」はこちらから
今日は折り紙で『梅の花』を作った。仕事から帰宅して夕飯と風呂を終えた後、ほんの少し、息を吐き、折り紙を折る。
15cm四方の鮮やかなピンク色の紙一枚で何ともかわいらしい花ができた。驚いたのはハサミを使ったことだ。折り紙はほとんどが折り続けてできあがるものだと僕は思っている(実際それが大半だろうけれど)。それが良いでも悪いでもなく、『そう言うもの』だと思うのだ。けれど、今日作ってみた梅の花は、割に序盤ではさみを使い、切り絵のようなものを作ってからそれを折り込んでいった。僕はその作り方を知った時、妙にどきどきとした。折り紙なのに、はさみを使ってしまったと言うことに。
切るのであれば切り紙である。しかし確かにそのあとで折っているから折り紙でもある。切り折り紙だろうか。いや、呼び名は何でも良いとして、僕はこれを折り紙としてカウントしても良いのだろうか。良しとしようか。
「良いと思いますよ」
そう言ったのは勤め先に常勤するカウンセラーだった。話は先の『梅の花』を折り紙とカウントするか否かではなく、僕が復帰をするにあたってのリハビリのようなものを『折り紙』にすることについてである。
僕は仕事のストレスでそれまで約1年休職していた。そして復帰して現在半年が経った。この会話は半年前のもの。
「言ってしまえば何だって良いと思うのです。何となく没頭できて、何か目に見えるものであればなんだって」
「子供の頃、僕は折り紙が好きでした。決まった作業を文字通り折り目正しく進めて、一つの作品が出来上がる。簡単に達成感が得られて、妙に気分がすっきりとしたものです」
僕は子供の頃の自分を思い返しながらどこか心が安らぐような気持ちになって言った。外で大勢で仲良く遊ぶよりは1人で静かに読書や折り紙で遊んでいた記憶ばかりだが、それは確かに穏やかな時間だったのだ。
「毎日折り紙を折ることをルーティンにしてもいいですし、気が向いた時に、折るでも良いですね。いずれにしても、あなたは心が穏やかになる方法を持っていると知ることが大切だと思います」
合わないと思えば違う方法を探しましょうともカウンセラーは言っていた。
それから半年経った今、折り紙はおそらく僕に合っているのだと思う。ほとんどルーティンになっているが、それも決まりきっている訳でもなく、気楽に折る。大体の時間において、僕は落ち着いて過ごせている。
「私もいるじゃない」
彼女はどこか不服そうに僕に寄りかかって言う。そして折ったばかりの『梅の花』を手にして、小さく笑う。
「可愛い」
「サキにあげるよ。確かに折り紙もだけど君がいることが僕には救いになっているね」
サキはその小さな頭にさらさらの短い黒髪をなびかせて僕に抱きついた。じんわりとした温さが右半身に広がる。
ミルクティは冷めていて、僕はやっぱり気持ちが穏やかだった。
続 ひととせ③【連続短編小説】- 1月16日 12時 更新