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(New)春やら夏やら①【連続短編小説】
終着駅に着くと、どっと人があふれ出た。
姿勢正しくせかせかと階段をめがけて一目散に早歩きする人、もう最初からそれらのレースには参加することをせず、ゆっくりとすでに分かっている鞄の中の定期券の場所を確認したり、エレベーターと階段のどちらが近いかと一瞬間きょろきょろする人もいる。
いろんな人がいて、誰1人同じ人はいない。私も、誰でもない。でも、誰もが皆、同じに見えるのだった。白や黒、グレーや茶色いトップス、ジャケットを着て、彼らはゆらゆらと階段やエスカレーターなどに吸い込まれるようにして並んでいる。その皆、同じである。
私だけが、違う。
私だけ、あの人が思うことを思っていないし、あの彼が考えていることを考えていない。私だけ、私だけのことを考えている。だから、私は誰に私を話せばいいのだろうかと、いつもいつもそう思う。混雑する階段付近で私の背負う重たいリュックをズイズイと後ろの誰かが押してくる。押されながら、私はいつも私だけのことを考えている。
けれどきっと、これも本当は皆同じなのだろう。
私だけが私だけのことを考えていると、皆が皆、そう思っていることだろう。くだらない世界だな。そう思うことで、私はまた『私だけが考えていること』を考える。
こんな毎日を繰り返すだけで20年近く経つ。社会人になってすぐにこんな風に通勤の日々が始まったから、私はずっとくだらない自分のままで20年も同じような朝を過ごしている。私だけが他の誰かと違うと思いながら、それが実際どう違い、違うことでどうなっていて、自分にとってそれが良いことなのか悪いことなのか、それを活かすことはできるのか。そんなちゃんとした分析などしたことない。
だって多分、こんなの大小差はあれど、皆同じようなことを考えていることだろう。
そうして朝に考え、朝が過ぎれば消え、昼も夜も過ぎ、また朝になればまるで新しいことのように同じことを思うのだ。
救えない、救われない。
誰も私を教えてくれない。
誰かに教わることではないことくらい分かっている。誰も他人を分からないし、分かる必要もない。そもそもこんなことで頭を悩ませるような歳ではないからだろうけれど、じゃあ皆はどうやってこんな毎日を乗り越えたの。少なくとも、目の前を走り去っていった最近少し髪の毛が薄くなってきたスーツの彼も、原色赤のワンピースにこれまた原色のバッグや帽子を身につけたあのマダムもこの数年、ずっと一緒に同じ通勤電車に乗っているわけだけれど、ずっと同じ様な顔をして私の朝にいるのよ。
私だけと思っているのは私だけで、それとも皆は早い内にこんな沼から抜け出せて、そう出来ていないのが私だけなのか。
おはよう。こんにちは。こんばんは。
こんな私は今年、40歳になるよ。
あなたはいくつ?
あなたの毎朝はどうですか。
続 -春やら夏やら②【連続短編小説】- 6月13日 12時 更新