5月31日 菜の日
家の乱れは心の乱れと言うらしい。
昨日、専門の人に時間でお願いして来てもらい、手伝ってもらうことで家の中が整った。心の乱れと言う通り、それを整えるようにして一つずつを片づけていくことで家の中も片づき、結果、頭も心もすっきりさっぱりである。これはきっともちろん体の不調だってすっきり整った。
「わけがないでしょう、兄ちゃん」
「えぇ、そう考えてもおかしくないでしょ」
私が珍しく丁寧に入れたドリップコーヒーをふぅふぅと冷ましながら飲もうとする妹にすっぱり言い切られ、私は動揺する。
「何言ってるのよ。家とメンタルが整ったからって相変わらずカップラーメンとインスタントの生活を続けているんだから体が変わるわけないでしょ!」
「い、言われてみれば確かに」
私がわざとらしく言ったことに彼女はにらみをきかせてこっちを見る。
「そんなの分かっているでしょ。だから私を呼んだんじゃないの」
おっしゃるとおりです。私は平謝りに頭を下げるも、妹はそんなものを見ていない。熱そうにすすっていたすでに冷めたコーヒーカップを机にトンと置くと、ヨシ!と言って立ち上がった。
「じゃ、作り置き総菜いくつか作っておくね」
今までなされた会話がなかったかのように微笑んだ彼女は蛇口をひねり手際よく緑の野菜を洗っていった。
「ちょっと忙しいからこっちに来れないでいるとすぐ偏った生活しちゃうんだから」
ジャブジャブと野菜を水で洗う音に紛れて、まるで母親が子供に言うように彼女の小言が飛んでくる。
それはなかなか手厳しいものではあるものが一方で、彼女はいつも丁寧に野菜を洗っている。
「兄ちゃんもさ、早くいい人を見つけてよね」
水の勢いを押さえるとともに、彼女はぽつりと言った。
「準備は順調なの?」
私はやっぱりもう冷めたコーヒーを飲みながら、彼女とは視線を合わせずに聞いた。ちらりとこちらを見たように思ったけれど、それは気づかないでおいた。
「うん、おかげさまでね。大体話はまとまったよ。この2ヶ月くらいがやっぱり大変だったけれど」
そう言うと、今度はブーブーとグチのような悩みのようなでもやっぱりのろけのような話を繰り出した。自分が着るドレスなのに、彼がこだわっているだとか、招待状を出す人数が多くなりすぎて調整が大変だとか。
結婚式を挙げるときにだけ伴う、幸せなグチ。
「いいじゃない、一生に一度なんだから」
「うん、そうね。だから出来るだけ楽しんでやりたいものだわ」
苦笑しながら彼女は笑い、手元からジューっと何かを炒める音がする。
「私は私のことで手一杯になりそうだからさ、兄ちゃんも彼女でも見つけてよね」
「別におまえや彼女がいなくても俺は大丈夫だよ」
私が強がってそう言うと、彼女は火を止めてフライパンの中身を保存皿に移した。ニンニクと醤油や鷹の爪の香りがふわんと香り、懐かしさと空腹を覚える。
「せめて野菜だけでもちゃんと食べてよね」
食卓においたそれに手を伸ばし、私はつまみ食いをした。
「健康でいて、いつまでも心配だけはさせてよね。たった一人の家族なんだから」
彼女は少し泣いていたかも知れない。
せめて自分の体くらいは自分で整えようと、そう決めて2つまみ目に手を伸ばす。
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【今日の記念日】
5月31日 菜の日
「1日5皿分(350グラム)以上の野菜と200グラムの果物を食べましょう」と呼びかけて、食育活動などを行っている一般社団法人ファイブ・ア・デイ協会が制定。野菜中心の健康的な食生活を広めるのが目的。記念日名は野菜の「菜」からで、日付は31を野菜の「菜(さい)」と読む語呂合わせから毎月31日に。月末を「カラダの決算日」として継続的、定期的な取り組みを行う。
記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
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