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0126_暇じゃないです

「暇だからそんなこと考えるんじゃない?」

 後輩の「この仕事、好きでやってるんです か」と言うドストレートな質問に、俺はこう答えた。字面だけで見ると何と嫌な先輩だろうか。でも、本当に申し訳ないけれど、今の俺にはここまでしか正解が分からないのだった。
 特に変わった仕事をしているわけでもなく、俺も後輩もサラリーマンである。決まった時間に決まった場所で決まった顔ぶれと仕事をする。仕事に関しても多少は創造的なものもあるが、大体は大枠の決まった仕事を行っている。繁忙期であれば時間が足りずに日々忙しい。そんな毎日。
 この仕事がしたかったわけではない。この業界に入りたかったと言うこともない。俺はただ、早く社会に出たかった。だから、好きな仕事に就くというよりは就職することが目当てだったので、この仕事が好きかと聞かれても分からないのだ。
 分からないから、ひたすらに仕事をしている。夢中になれる仕事も時々あるから嫌いと言うわけではない。ただしこれは、それに気づく程度にたくさんの仕事をこなしてようやっと自分の中で「嫌いではない」が分かってきたのだと思う。よく聞く、やってから考えろは実際そうだと思うし、後輩にも嫌でも何でもいいから十分に仕事をしてみたらいいと思っている。そうしたら、気づくと何かしら気付けることがある。分からないなりに、自分の中の結論はちゃんと出せる。で、そこで初めて、好きか嫌いか、これまでを経てこの先自分は本当は何がしたいのかを考えればいいだろう。
 そう考えると、時間がないのだ。
 いつか来るその時に、自分の中の結論を出しておくためには、意外ともう時間は残っていないのだ。だから、今はそんなこと考えてないで仕事をたくさんこなしてみて、その後に感じてみろ、が答えだ。逆に言えば、たくさん仕事をこなさないと「嫌いではないかも」さえ気づくことはなかなかできない。だから、せっかくこの会社で仕事をしているなら、せめてその判断ができるまでは色んなことをしてみてほしい。
 俺は、近い将来こんなことを考えるためにも、今は忙しい。
 暇じゃない。

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