0310_ジャスミンレモネード
風が強くて、果たして花粉なのか土ぼこりなのか、それとも何か別の有害な粉塵だったりするのか、そんなことはわからなかった。が、目を擦る度に余計に痒みが強まり、目を擦る私の手も強くなり、昨日はいなかったはずの春を見る。また、季節がめぐる。
歩く速度はゆっくりである。目的地に辿りつくかどうか不安なものの、歩いていればなんとなく安心するのであった。一日一日、一時間一時間、一分ごとに私は着実に前に進んでいる。
また、強い風が吹く。わずかにひんやりと冷たいその風は、私に油断をさせてくれない。多分、止まれば即、転んで二度と立ち上がれないのだろうと思う。
いつまで、進み続ければいいのか。
はたと思うも、止まれない。止まることは許されない。私の後ろには幾人かの誰かがいて、私が止まれば巻き添えとなって転ぶだろう。私のうっかり気づいた小さな心に巻き込む訳にはいかず、私は今日もわずかでも進もうとしている。なんで、私だけ。
「お待たせいたしました。ジャスミンレモネードティーです」
注文したティーポットとガラスカップが目の前のテーブルに置かれ、ふわっとジャスミンとレモンの香りがした。店員が去り、私はそのティーポットの外側に手のひらをかざしてみる。温かい。
何のために、こんなに頑張らなくてはならないのだろう。頑張らなくてもいいと聞くけれど、やれとされていることをやるには頑張らなくてはならない。私には頑張らないでサラリとこなす器量はない。当たり前のことだけど、そんなことを誰も知らない。知っていてはくれない。素直にそう言えばと言うけれど、私の器量で足るか足らないかなどやってみなくては図れないから、最初からできないなど言えないではないか。
だから、私は頑張っている。
でも、何のためにこんな、そう思うとやっぱり泣けてきて、私はカップにそれを注いだ。ジャスミンが香り、レモンが立つ。カップの中のミントの葉が揺らぐと幻に見え、一口飲むと温かく、わずかな酸味と甘さが身に染みていく。私の頭とからだのなかには今、大量のタスクがつまり、そこに僅かにある小さな小さな隙間に埋まるようにしてジャスミンレモネードティーが染みていく。
それが心地よくて私は涙する。
ジャスミンレモネードティーが私の中から抜けていくそのときに、全てのタスクが無くなってしまえばいいのにと思って、ミントの葉を噛んだ。
ただ、葉っぱの味がした。
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★著者:あにぃ