私が「本当に」やりたいことと向き合うStory③ <突然の帰省の話>
駅に着くと母と弟が改札口の前で待っていてくれた。
新幹線で泣いていたことがバレないかヒヤヒヤした。
「疲れ切った顔しちゃって~」
と明るく言う母。泣いていたことには気づいていないみたいだった。いや、もしかしたら、気づいてて、わざとそのことに触れなかったのかもしれない、と後になって思った。母なりの気遣いだったのだろう。
家に帰ると父も出迎えてくれた。
おかえりと一言。私もただいま、と一言だけ言って自分の部屋へ向かう。
父の前ではなぜかいつもぶっきらぼうになってしまう。
部屋はクーラーがついていて、ほどよく冷えていた。
「クーラーついてたの?お父さんだね。あにーはまだ帰ってこないのか、って心配してなのよ。」と後ろから母。
玄関ではそんな素振りを微塵も見せなかったのに。素直になれないのは父も私も一緒。
「今晩ははま寿司ね。」
私が帰ってくる日は決まってテイクアウトをしてくれる。
並んでいるのは父と弟のチョイスばかり。魚よりも肉系が多いのはいつものこと。寿司じゃないじゃん、のツッコミもお決まり。
ご飯を食べ終わって部屋に戻る。
皿洗いをしようとすると「そのままでいいよ」って言われるからいつも甘えてしまっている。一人暮らしと違って、家事を全部一人でこなさなくてもいいから気が楽だった。「お米炊かないと」とか「明日早く起きて洗濯回さないと」とか、一切考えなくていい。
ベットに横になると、そばにあるカラーボックスに文庫本が2冊立てかけてあるのに気がついた。
「夜、眠る前に読むと心が「ほっ」とする50の物語」
(西沢泰生, 2015, 王様文庫)
「目には見えないけれど大切なもの あなたの心に安らぎと強さを」
(渡部和子, 2003, PHP文庫)
母には敵わない。娘のことをよく分かっている。
私はベットで横になりながらそのうちの一冊を読んだ。
静かで、穏やかで、ゆっくりと流れる時間。何か温かいものが私の周りを囲んでくれていて、守られている感覚。これを「安心」って言うんだろうな、と思った。
田舎あるあるなのかもしれないが、外で鈴虫の鳴く声が聞こえた。
ベットに横になりながらその音を聞く時間が私はとても好きだった。
しんと静まり返っている夜は、なんとも言えない心地よさがある。
つくづく私は田舎暮らしが合っているんだろうなと、帰省のたびに思わせられる。
彼からLINEが来ていた。
「大丈夫?」
実はまだ彼には、私が泣き腫らしていたことも実家に帰ってきたことも伝えていなかった。簡単に説明するとすぐに返信が来た。
「気づいて支えてあげられなくてごめんね」
上司からもメッセージが入っていた。
「職場はなんとかなりそうだから安心してね。まずは自分の身体を休めることを優先してね。」
つくづく私の周りは優しい人ばかりだと思った。自分のことで精一杯な時ほど、彼らの存在に支えられているということを忘れてしまっている。
それに気付けないくらい、今回はしんどかったんだろうけれど。
その晩はゆっくり眠りについた、と書きたかったけれど、
私の中で新たな心配事が心をズシンとしていた。
「休職しよう」
たった2日で回復できる気がしなかった私は、休職という選択を考えていた。
そのためには、病院で診断書をもらわなければならない。
でも、果たして明日病院で見てもらえるんだろうか。
内科とか眼科みたいにその日に行って診察してもらえるんだろうか。
そもそも精神科とか心療内科ってどんなところなんだろう。
To be continued.