20190121note徳之島の秋前編

徳之島の秋 前編

2016年9月 倭国ムーングロウイベント
第4回短文館コンテスト「徳之島の秋 - Autumn in Tokuno -」出品作品
第4回・倭国短文館コンテスト「徳之島の秋 - Autumn in Tokuno -」のお知らせ
第4回・倭国短文館コンテスト結果発表&表彰式参加レポート
第4回・倭国短文館コンテスト/Web閲覧版&感想文公開


 ウルティマオンライン世界にある和風な地域『徳之島(とくのしま)』
 イベント4回目はその徳之島の秋がテーマでした。
 『ちっちゃな魔法使い』や『メリークリスマス』とは、ちょっと違う雰囲気のお話にしたかったのですが……。
 本編、お楽しみください。

「ばあちゃん、行ってくるねー!」

 庭で摘んだ花をいっぱい入れた手桶を両手に持って、朝早くにわたしは出発する。
 月に一度のお社参り。
 小さい頃はばあちゃんと一緒だった。
 徳之島には怖い魔物がいっぱいいるけど、ばあちゃんはとても強くて安心だった。
 ツキウルフやバケキツネや、次から次へとやっつけちゃうばあちゃんはとってもかっこよかった!
 だけど、最近は足を悪くして長くは歩けない。
 わたしひとりでは危ないから、行けなくなっちゃったお社もあって、それがちょっと気がかりだ。

 朝早くに家を出発して、お社に着くと掃除して、お花を飾り、また次のお社へ。
 お昼頃には持ってきた花が半分くらいになる。
 花が減ってきたら、道端の花を摘んで足していく。
 秋の始めの今は彼岸花がきれいだ。
 赤い花が燃えるように咲いている。
 でも彼岸花は摘んではいけない。
 前に摘もうとしてばあちゃんにすごく叱られた。
 いちばん惹かれる彼岸花は諦め、野菊や桔梗を摘んで行く。
 徳之島には花がいっぱい咲いている。
 花の咲かない真冬は雪化粧がきれいだ。
 きれいな徳之島を歩く月に一度のこの行事が昔から楽しみだった。

 夏に比べて大人しくなった太陽が天辺に来て、お腹がぐぅと鳴ったらお昼ご飯。
 草っ原に両脚を投げ出して座り、ばあちゃんに作ってもらったおにぎりを頬張る。
 魔物が出て来たらどうするの! シャンとしなさい! とばあちゃんが一緒だったら叱られそう。

「あ! 白いのだ!」
「白いのいた!」

 むしゃむしゃとおにぎりを食べてるとそう言って顔を出す二人連れの魔物。
 魔物が出て来たよ、ばあちゃん。
 でも河童というらしいそいつらは、あまり怖くない。
 というか全然怖くない。
 何故か言葉も通じる。
 ひとりでお社を回るようになった頃からちょろちょろ顔を出すようになった。
 最初の頃は遠くから様子を伺いながらわたしの後をついてきていた。
 だんだん近づいてくるようになって、二人がしゃべる声が聞こえて、意味がわかったものだから、つい話しかけてしまった。
 以来月一で会うお友達みたいになってる。
 何度名前を教えても覚えてくれない失礼な奴らだけど。
 『白いの』って言うのはたぶん肌の色のことなんだろうけど、それが呼び名になってしまった。

「白いのって何よー! 名前教えたでしょー?」

 河童は子供で、兄妹らしい。
 兄の方は食い意地が張ってるようで、わたしのおにぎりを狙っている。
 妹の方は花が好きみたいで、頭のお皿に花を飾っていたり、わたしの持った手桶の花を覗き込んできたりする。
 兄妹っていうのは完全にわたしの想像で、身体の大きさ以外に違いはないんだけど。

「白いの、それおいしい?」
「白いの、それ食べたい!」

 わたしが食べてたおにぎりをじーっと見て言うので、少し分けてあげると、兄妹で半分ずつ食べ始める。
 あんまり美味しそうに食べるから、ちょっとほっこりする。
 ばあちゃんなしでのお参りは正直寂しかったし、怖かったから、河童の兄妹の存在はちょっと、いや、わりとうれしかったりする。

 お昼ごはんの後は、河童の兄妹も一緒にお社をお参りする。
 河童たちは魔物だけど、子供だから弱い。
 普通魔物同士って襲ったり襲われたりしないんだけど、河童たちはちょくちょく襲われてる。
 威嚇みたいなもので心配はいらないのかもしれないけど、ついつい助けようとしちゃう。
 そのせいでひとりで行くより大変なこともあるけど、それでも道連れがいるのは楽しい。

「白いのー! おいらたち、見つけた!」
「見つけた! こういうの。 この近く!」

 午後のお参りの途中、河童の兄妹たちが言って、お社と、海の方角を指示す。
 そちらは、ばあちゃんとも行ったことのない方向だった。
 河童がいっぱい住んでる場所で面倒だからってばあちゃんは避けていた。
 今は河童兄妹がいるからか、他の河童は出て来ない。

「危なくない?」
「大丈夫!」
「だいじょうぶ!」

 河童の兄妹が声を揃えて言う。
 罠?とチラッと考えたけど、このお馬鹿な兄妹に限ってそれはないかと思い直す。
 わたしを案内する気はあるんだろうけど、すぐに寄り道を始めるし。

「ほら! 妹! お花摘まない! 兄! 木に登らない!」

 案内役が案内してくれないので、結構時間がかかったけど、二人の言うとおり、そこはお昼を食べたところから程近かった。
 崩れかかったお堂の中に、人形と、その他雑多な物がいろいろ置かれている。
 壺や花瓶はまぁわかるとして、筆や硯、皿や茶碗まで置いてある。

「それ、下から持ってきた!」
「下、いっぱいある!」

 やっぱりおまえらか、と思いつつ、下にいっぱいあるという言葉に興味を引かれる。
 下ということは、海だ。
 ここは崖の上で、絶壁の下には荒れた海が広がっている。
 どこからか流れ着いてきたのだろうか。

「行ってみよう。 連れていって」

 少し離れたところから狭い海岸に下りていく。
 崖の下、打ち寄せる波の合間に半分崩れた木造の船が見える。

「あそこ!」
「行こう!」

 河童たちはそう言って、あっというまに海に潜っていってしまった。

「泳げないわけじゃないけど……ここは波が荒すぎるな……」

 河童と違って水かきのない両手を眺めながら二人が戻ってくるのを待つ。

「白いのー!」
「取ってきたよー!」

 二人が戻ってくるのに時間はかからなかった。
 両手に細々としたものをいっぱい抱えている。

「こういうの、いっぱいある!」
「あるー!」

 砂浜で、二人が持ってきたものを調べる。
 お社にあったような壺や花瓶、茶碗や刀や鎧まである。

「もういいよ。 沈めたままにしておいた方がいい」

 こういうものに詳しい訳じゃなかったが、そんなに古い物ではないことはわかった。
 せいぜい10年か20年くらい前に沈んだものだろう。
 どんな人が乗った船だったのだろう。
 どこからどこへ向かう船だったのだろう。

 何となく物悲しい気分になって、河童たちが拾ってきたものは、お社にお納めしようと思ったとき、ふとそれに気づいた。
 それは錆び付いた兜だった。
 海から上げて持ち運んだときに錆びが剥がれ落ちたのか、元の鉄板が顔を出していて、そこにうっすら模様が見えていた。

「この模様……見たことがあるような……うーん……」

 どこで、いつ見たのかも、判然としなかったが、気になって、その兜を持ち帰ることにした。

「よし! 河童たち、次行くよー!」

 他のお社とは違う雰囲気があって名残惜しく思ったけど、残りのお社を河童たちと一緒に回ることにした。
 秋は日暮れが早い。
 日が暮れれば、魔物の動きが活発になる。

「じゃあなー! 白いのー!」
「白いの、またねー!」

 午後から回るお社は、河童たちの住処の近く。
 河童たちとしゃべるようになって、順路を変えた。
 昼に河童たちと合流してからはずっと一緒に回って、夕方河童たちと別れたら家に帰るようにした。
 帰るよ、と言うと、二人は立ち止まって、手を振る。
 何度振り返ってもずっと手を振っている。
 その姿を見ると、また河童の元に戻ってもうちょっと話したくなるが、夕焼けに背中を押されるようにして、帰路を歩む。
 道の左右に咲く彼岸花が、夕焼けに照らされ、より一層赤く燃えるように見えるのが何故か悲しい。

 お社参りの帰路はいつも悲しい。
 それは河童と出会う前も、ばあちゃんと一緒にお参りしていた頃もそうだった。
 ばあちゃんはどんな気持ちで帰路を歩いていたのだろうか。
 行きはいろんな話をしながら歩くのに、帰りは決まって押し黙っていた。

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Anne@UO北斗(和楽日アン)
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