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メリークリスマス 前編
2015年12月 倭国ムーングロウイベント
第3回短文館コンテスト『メリークリスマス★ブリタニア』出品作品
倭国ムーングロウイベント/第3回・短文館コンテストのお知らせ
第3回短文館表彰式&慰労会レポート
第3回短文館「メリークリスマス★ブリタニア」/Web閲覧版公開
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Web閲覧版はゲーム内の本をめくるように読むことができます。 すごい!
この作品は、『ちっちゃな魔法使い』の続編ですが、前作を読んでなくても楽しんでいただけると思います。
なんとか、クリスマス中にUPしたくて、突貫工事で仕上げました。
故に誤字脱字等あるかもしれませんが、運悪く見つけてしまった方は、コメント等でお知らせいただけるとうれしいです。
それでは、拙い作品ではありますが、ご笑覧くださいませ。
作品本文はじまり~
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アタチは知ってる。
ママがいっぱいお話してくれたから。
ママは、畑にアタチの種を蒔いて、毎日おっきくなぁれって魔法をかけてくれた。
アタチはホントにおっきくなって、ママとおんなじ姿になった。
でも、ママにはひみつ。
動けるようになって、アタチはすぐに畑から逃げ出した。
だってアタチは知ってる。
普通ヒトは種から生まれないし、種から生まれたらアタチみたいに動き回れない。
アタチはママとも違うし、種から生まれる植物のみんなとも違う。
アタチって、なぁに?
ヒト?植物?
それとも………モンスター?
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「お母さん、卵採ってくるね」
台所で朝食の準備をするお母さんに声をかけ、庭に出る。
「わ……寒い……!」
思わず呟いたわたしの息が白く漂う。
面白くなって、何度もハァっと息を吐き出してみる。
つい最近まで身体が弱くて、昼間の暖かい時間しか外に出られなかったわたしには、こんな些細なことも楽しくて仕方ない。
にわとり小屋から卵を拾ったあと、周りをきょろきょろと見回してみる。
「あ、今日もあった!」
にわとり小屋の近くに片手に乗るくらいの秘薬がそっと置いてある。
わたしの薬を作るのに必要な秘薬ばかり。
「ありがとう!」
にわとり小屋の向こうの木立に向けて声をかける。
今日は何の気配もないけれど、たまにガサガサと、木の枝をかき分けるような音がすることがある。
きっとこれを置いてくれた人だと思って、それから必ず声をかけるようにしている。
ここに秘薬が置かれるようになったのは、まだ秋の初めの頃。
そう、ちょうどわたしが元気になるきっかけになった出来事の頃。
最近寒くなって、毎日じゃなくなったり、量が減ったりしてきたけれど、決まって朝、わたしの薬の材料になる秘薬が置いてある。
まだ見ぬプレゼントの主を想像しながら、秘薬と卵を手に家の中へ戻った。
「お姉ちゃん、おはよう~」
台所にはまだまだ眠そうな妹のフィーアが目をこすりこすり起きてきていた。
前は家族でいちばんの働き者だったのに、最近はすっかりお寝坊さん。
「フィーア、今日も届いてたわよ」
そう言って秘薬を見せると、フィーアの顔がうれしそうにほころぶ。
「姿、見せてくれるといいのにねー」
秘薬を大切にしまいながらフィーアが言う。
「そうね。でも、オークみたいに醜い姿だったらどうする?」
鼻を上に押し上げてオークみたいな変顔をしながらフィーアに言ってた。
フィーアはくすくす笑いながら、ちっとも動揺せずに笑って答える。
「どんな姿だってきっとかわいいよ」
そんなフィーアこそがかわいいと思うけど、それは伝えぬまま、話はどんどんと広がってあっという間に関係ない話になっていく。
病気ばかりしている頃は、こんな風に話をすることすら出来なかった。
今は毎日がうれしくて、そして楽しい!
そう感じるたびに、フィーアや家族みんなへの感謝と、そして秘薬の贈り主のことが脳裏をよぎる。
ちゃんと直接感謝を伝えられる日はくるのかしら。
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「おじいちゃん、ただいま~」
森の中、ひときわ大きなオークの木に向けて挨拶する。
この辺でただ1本、アタチと話が出来る木、それがおじいちゃん。
「首尾は重畳だったかい?」
とっても長生きしてるおじいちゃんはときどきわからない言葉をしゃべる。
たぶん、おでかけの様子を聞いてるんだろうなーと思って、あったことをひとつひとつおじいちゃんに話して聞かせる。
場所はおじいちゃんの枝の上。
アタチは1日のだいたいをおじいちゃんの上ですごす。
「あのね。 今日は昨日よりも少ししか秘薬みつからなかったの」
おじいちゃんはわさわさと枝や葉っぱを揺らしながら、アタチの話を聞いてくれる。
「だけど、ママのお姉ちゃんはありがとうって言ってくれたの」
「秘薬は他の植物よりも生命力はあるが、植物は植物じゃからのぅ……。 寒さには如何せん弱い。 これから雪が降ったらもっと少なくなるやもじゃな……」
秘薬を持ってうれしそうなママのお姉ちゃんの顔がおもいうかぶ。
ママもお姉ちゃんがだいすきって言ってたけど、わたしもすき!
秘薬を見つけるとありがとうって言ってくれるのがやさしいの。
「秘薬が少なくなったら、ママのお姉ちゃん、身体つらくなっちゃうかな……」
そうしたらママは悲しむだろうな……。
アタチも朝、ママのお姉ちゃんの声が聞けなくなるのはイヤだと思う。
「そうさのぅ……しかし、おまえさん自身も植物じゃということを忘れちゃならぬぞ?」
アタチも植物。
わかってるけど、ときどき忘れそうになる。
忘れたくなる。
だって、見た目はママたち人間と変わらない。
おひさまに当たらないと元気が出ないのと、ごはんを食べないってくらいしか違わない。
もしかしたら、このままママの前に出て行っても、驚かないんじゃないかなってときどき思っちゃう。
勇気がないけど……。
「おじいちゃん、明日からはもうちょっと早く秘薬探しに行くね。 もうちょっと遠くまで行ってみる」
アタチがそういうと、おじいちゃんの枝がさわさわと心配そうに揺れた。
「朝方はことさら冷えるんじゃがのう……。 気をつけるんじゃよ」
おじいちゃんの言葉に頷きながら、アタチはおじいちゃんの枝の上で、おひさまの光をたっぷり浴びた。
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その日はこの冬いちばんの寒さだった。
さすがのわたしも寒さを楽しむ余裕はなく、めいっぱい厚着をして、外に出た。
「……え?」
しかし、外の景色を目にした途端、ぽかんとしてしまう。
そこに広がるのは一面の雪景色。
初雪が一晩にして積もっていた。
「すごい! お母さん! 雪が積もってるわ!」
台所のお母さんに話しかけながら一歩足を踏み出してみる。
積もっているとは言っても、初雪だ。
そんなに量が多い訳ではなく、だけどちゃんと足跡がつく。
初めての雪の感触が楽しくて、あちこちに足跡をつけまくる。
手形もつけてみる。
木の上に積もった雪で小さな雪だるまが作れそう、と、庭の端に行ったときだった。
雪の上に残る、小さな子供の足跡。
そして、その先に、倒れる裸の子供。
「!!」
驚いたときは、声が出ないということを初めて知った。
子供の周りには秘薬が散らばっている。
ハッとして駆け寄った。
「冷たい……!」
深い緑色の髪のひどく痩せた子供だった。
手足に触れると氷のように冷たい。
慌てて抱き上げて、家の中に運ぼうとしてぎょっとする。
軽い。
まるで人形を抱えているようだった。
「お母さん! フィーア!」
不安に青ざめながら、子供を抱えて、家の中に入っていった。
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「おじいちゃん、何かふわふわしたものが空から落ちてくるよ?」
まだまっくらい冬の朝。
おじいちゃんの洞の中でアタチは目が覚めた。
外に顔を出してびっくりする。
空から白いものが落ちてきて、おじいちゃんやあちらこちらに積もっている。
「おはよう、幼子よ。 それは雪じゃよ」
「きれい……」
次から次へと降ってくるのを、いつまで眺めていても飽きることがない。
「今日も秘薬を探しにいくのかい?」
時間を忘れて雪を眺めていたけど、おじいちゃんの心配そうな声で、ハッとする。
「うん、行くよ!」
「雪が積もって秘薬が隠されてしまうし、何より雪は冷たくて身体の熱を奪う。 休んだ方がいいのじゃがのう」
おじいちゃんのことばに不安になるけど、もう何日も、ちょっとしか秘薬が取れない日ばっかりだったことを思い出して、地面に降りていく。
雪はキレイだけど、とっても冷たくて、1歩歩く度に身体中の感覚がなくなる感じがした。
「おじいちゃん、行ってくるね」
「気をつけるんじゃよ。 無理だと思ったらすぐに帰っておいで」
おじいちゃんの優しい言葉を聞きながら、アタチは歩き出した。
一歩踏み出すごとに、雪もうやだ! 帰りたい!って思ったけど……。
冷たくて寒いし、雪で秘薬が隠れてて、いつもよりもっと見つけづらかった。
暗い中、じーっと目を凝らして地面を見ながら、たまに、あっ!と思って屈んで雪を両手で除けてがっかりする……。
その繰り返しだった。
だけど、いつもより早い時間から、いつもより遠くまで探しに来たおかげで、どうにか少しは見つけることが出来た。
ママとお姉ちゃんのおうちに行こう!と思って来た道を戻り始めたくらいから、それは始まった。
さっきまで寒くて仕方なかったのに、今度は熱い!
だけど、身体の中心の方はやっぱり寒い。
おかしいなぁ、おかしいなぁって思いながら歩こうとするんだけど、足が前に出ない。
いつもより遠くまで来てたこと差し引いても、ママのおうちまですっごく時間がかかった。
あとちょっとで着く!と思ったときには、もう、夜が明けそうになってた。
「あぁ……鶏さん……今日はね……ち、ちょっと……遅く……あれ?」
もう明るくなってきてたのに、急に目の前が真っ暗になった。
ドサッて音がして、あぁ、アタチが倒れた音だぁって思って……。
それっきり、アタチは何もわかんなくなっちゃった。
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「熱が高いわね……」
子供は、わたしのベッドに寝かせた。
深い緑色の髪、白い肌が今は熱で赤く火照っている。
お母さんが看病してくれてるのを、うしろから、フィーアと二人で覗き込む。
「抱き上げたら、すっごく軽かったの……大丈夫かな……?」
「こんな寒いのに裸なんて……」
フィーアと二人、あぁだこうだと口々に言っているのを、お母さんが振り向いて口元に人差し指を一本立てて黙らせる。
「身体のあちこちがしもやけになってるし、冷え切ってるわね」
ベッドの中で荒い息をする小さな子を見つめながら、フィーアとふたり目を合わせる。
「お母さんには、寒くて風邪をひいた子供に見えるけど……でも、普通の子供じゃないこともわかるわ……。詳しい人に見てもらった方がいいけど……」
言いながら、お母さんも途方に暮れてるのがわかった。
「わたし、ブリテインに行ってくる!」
フィーアが宣言する。
ブリテインには、わたしの身体を治してくれた先生がいる。
「暖かくしていくのよ」
心配そうだったけど、お母さんもそう言って、フィーアを送り出した。
空からはまだまだ雪が降り続いていた。
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