人を頼るということ
長女として生を受けた宿命だろうか、わたしは「人を頼る」という行為がとても苦手だ。
何事も比較的自分で対応してきたし、「できない」を「できる」ようにしてきたので、余り挫折感とか感じずにここまで生きてきてしまった。
困ったのは、「頼りにされることは好き」ということだ。誰かがヘルプを求めてくると、応えずにはいられないし、できるだけ力になりたいと思う。頼られると嬉しいし、自分がここに居ても良いんだという、一つの承認欲求が満たされるからだ。
それなのに、自分は人を頼ることを余りしない。自分は人に期待されたら応えようと思うのに、人に期待しないで生きてきた。多分コミュ障なんだと思う。誰かを頼るより、自分でやった方が早い、とか、どうにか自分で解決の糸口を見つけようとして、気づいたらキャパオーバーしてたりだとか。小さい頃から「お姉ちゃん」だったから誰かに甘えるということがうまくできない。自分が頼られたら嬉しい、ということは、誰かもまた「頼られたら嬉しい」と思うものだ。自分で悩んで悩んで結果、キャパオーバーして、何もかも嫌になって、爆発。何もしたくない期に入る。ギリギリまで自分に過度に期待をかけて、結果、応えれなくて潰れてしまう。そんな自分自身の扱いに困る。
得意な人にお願いする、とか、上手に甘えることができたらもっと楽に生きられるのになぁ、と思いながら。初対面の人相手だと、どこまで頼っていいのか、とか躊躇してしまって、結局自分で抱えてしまったりだとか。先を読みすぎて、1番近くのすべき事ができてなかったりだとか。コミュニケーションを取るのはとても難しい。
役者の現場にいると、兎に角初対面の人たちに出会う確率がとても高く、そしてその人たちと一緒に作品を作らなければいけない。「コミュ障です」とか言ってる場合じゃない。良い作品を作るには、良い人間関係を作らなくては上手くいかないものだ。任せる、頼る、甘える、お願いしてみる、のオンパレードだ。稽古期間を含めてだいたい3ヶ月くらいかけて作品を作ることが多いので、そのくらい一緒にいたらだいたいの性格だったり、距離感がわかってきて、絡み方もわかるが、たまに極端に稽古期間が短い作品に出会うこともある。今がまさにその現場である。スピード感についていけず、圧倒的にコミュニケーションが足りず、どうして良いかアップアップして、溺れている。
そんな時に、先輩の1人がとても親身になって心配して声をかけて下さった。忙しい中時間を割いて下さって、「大丈夫?」と。その一言がどれだけ救いになったか。周りの役者さん達はだいたいお馴染みメンバーだったり、ベテランの人ばっかりだ。だから末端の新規アンサンブルの事なんて、「全然できないやつ」としか思ってないかもしれない。「何かあったら相談してね」と言っていただけたお陰で、もうダメだ!となった時に思い切って声をかけてみた。「相談してくれてありがとう」と言って下さって、どれだけ嬉しかったか。涙が決壊するほどに。そして、一人でいっぱいいっぱいになる前に、誰かに相談すべきなんだな、と心から強く思った。一歩踏み出してみれば、なんの事はなく、自分じゃ解決できなかったことも、意外とすんなり解決したりする。もっと人を頼ることを覚えねば、と思った。
新しく出会った人とのコミュニケーションの取り方は難しいかもしれない。でも、たった一度の「頼ってみる」行動で、相手のことを心から受け入れられたり、距離感を近く感じれたりして、一気にその人の事が好きになったし、尊敬もできる。良い事づくめだなと感じた。心をひらく事は難しいかもしれないが、踏み出した行動一つで関係がぐっと良くなるなら、試してみるのも良いかもしれない。
結果、わたしがどん詰まりで爆発しそうになっていた案件は、上手く処理される事になった。早めに人に頼ることを覚えねば、と思った。
相談して助け舟を出してくれた先輩に、良い演技をして返したいと思う。本番まであと10日。改めて頑張ろうと思えた。
愛澤 アン