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ただの頭痛じゃない(頚椎腫瘍 16)
抜糸して2日後、術後初めてシャワーを浴びた。まだ浴槽には入れないし、シャンプーの許可も出ていないので、看護師さんに付き添ってもらってシャワーだけ。
リハビリの成果あって、病室ではベッドの柵につかまって歩けるようになっていた。
テレビを見る元気も出てきて、シャワーを浴びた日は、茅ヶ崎夫人のベッドのところで長いことお喋りしたり、夜9時まで起きてテレビを見ていた。
見ている途中で起きているのが疲れてきたが、カラーをはめているので横になると見にくいから、無理して起きていた。
そのせいか、それとも久しぶりにシャワーを浴びたせいか、翌日は疲れが出て午前中はずっと寝ていた。
せっかくのリハビリも休む羽目になり、W先生には「はしゃぎ過ぎたんだろう」と言われる始末。
そのまた翌日は頭痛と吐き気がして1日中具合が悪く、またしてもリハビリに行けなかった。
これが、あの恐ろしい頭痛の始まりだった。
恐ろしい頭痛……それは、寝ていて起き上がった拍子に始まる、ぐわんぐわんと鳴り響くような、脈打つような痛み。
まるで、自分の頭がお寺の鐘になって、太い棒で殴られているかのようだった。それも、内側から。
頭痛が始まったら、体を硬直させて、じっと痛みがおさまるまで待つしかない。
しばらくすると痛みがおさまるので、そろりそろりとベッドから立ち上がる。すると、またあの痛みがやってくる。頭痛がおさまるまでは身じろぎひとつしてはならない。
この頭痛は体の向きを変えると起こるようだった。
特に、寝ていて起きたときがひどかった。
夜中にトイレに行ったり、朝になって起きると必ずこれが始まる。
体を起こした後、頭痛がおさまるのを待って歩き始めるのだが、数歩歩いたところでまたこの頭痛が始まる。体を回転させて向きを変えても始まる。
ずっと起きているときはどっちを向こうが、立とうが座ろうが頭痛はしないのに、長時間寝ていて起きた後は必ずこれがある。
先生や看護師さんに聞いても、原因ははっきりしなかった。
「首の手術をした人は頭が重くなるそうだ」とか、「硬膜を切ったところから水漏れしていると頭痛がするらしい」と言われた。
実は、この頭痛は脳腫瘍の末期症状だったのだが、このときはまだわからなかった。
私は手術で硬膜を切ったところから水が漏れていた。
具体的にどういう状態なのかイメージが湧かなかったが、首に水が溜っているのは知らされていた。
その水漏れのせいで、髄液が減って圧力が変わるから頭痛がするのだろうと言われて納得した。
だれから聞いたのかこれまた覚えていないのだが、髄液を増やすためには水をたくさん飲むといいと教わった。
N先生が来たら確認しようと思っていたが、N先生に会う前に回診に来た別の先生に聞いたら、水をたくさん飲んだ方がいいと言われた。
そこで、夜中でも目が覚めるたびに水を飲むようにした。
起きているときも、夜中も、せっせと水を飲んでいたせいで頻尿になり、トイレに行く回数が日に10回から12回、多いときは15回にもなってしまった。
夜中にトイレに行きたくなって目が覚めても、普通の人のようにさっと起き上がれない。まず、カラーをはめなくてはならないから厄介だ。
慣れるまでは相当時間がかかったが、慣れてからも5〜6分かかった。
眠いのを我慢してカラーをはめて、やっと起き上がったところで例の頭痛が始まる。じっとおさまるのを待ってから立ち上がる。
トイレへ行く途中も廊下で頭痛が始まると、しばらくじっと立ったままそれをやり過ごさなくてはならなかった。
これがひと晩に3回から4回。毎晩こんな調子で、寝不足で体力がなくなって、ますます頭痛がしていたような気もする。
さらに、吐き気もあった。
毎朝起きたとき、ベッドに腰掛けて頭痛をやり過ごした後、次にやってくるのが猛烈な吐き気だった。
吐くものは何もないし、吐くと体力を消耗するから吐きたくない。それで、胃の底から突き上げてくるのを必死に堪えていた。
10分か、15分か、20分か、長さはわからないが、喉まで昇ってくる吐き気を堪えて、ゲーッと凄まじい音を立てていた。
病室のみんなはその音を聞くとびっくりして、怖がってしまった。さぞ気持ち悪いだろうと申し訳なかったが、自分ではどうすることもできなかった。
この頭痛と吐き気は退院してからもずっと続くのだが、痛みの強さはこの頃が最も強烈だった。
その代わり退院してからは頭痛の頻度が増し、ひどいときは1日中、立ったりしゃがんだりするたびに、ぐわんぐわんと脈打つように痛かった。