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シネスイッチ銀座
シネスイッチにはFさんとも行ったし、休みの日に1人で見に行ったこともある。
Fさんと見た映画はジャンヌ・モロー主演の「クロワッサンで朝食を」だった。
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ジャンヌ・モローが素晴らしく見応えがあった。
この人は若いときからたいして美人じゃないのに、醸し出す雰囲気が独特で、ひとたび登場すると目が釘付けにされてしまうようなところがある。
この映画で85才のジャンヌは、顔の皮膚はたるんでいるし、体型はメタボだし、声は(たぶん煙草やお酒のせいで)ガラガラに荒れている。
それでも、彼女の表情に引き込まれてしまう。
まあ、とにかく、すごい女優であることは間違いない。
ストーリーも面白かったし、後味のいい映画だった。
絵美子ちゃんとランチした後は、1人で「もうひとりの息子」を見にシネスイッチ銀座へ行った。
パレスチナ人とイスラエル人の夫婦が、湾岸戦争時の混乱で、生まれたばかりの赤ちゃんを病院で取り違えられてしまった話だ。
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息子たちが18才になったとき、兵役の血液検査でそれが発覚した。
双方の親たちの葛藤、本人たちの葛藤……。
「敵」どうしの立場がさらに問題を難しくする。
パレスチナとイスラエルの問題、占領地の現実。
映画では過酷さが薄めて描かれているはずで、実際はもっとひどいに違いないと思った。
物理的にも心理的にも。
映画そのものは暗くなく、面白かったが、重いテーマで、見ながらいろんなことを考えさせられた。
分離壁(隔離壁)について、以下はこの映画の公式サイトに載っていたこと。
【イスラエルが「テロリストのイスラエルへの侵入を防ぐため」としてヨルダン川西岸地区に2002年に建設を始めた。
しかし、イスラエルとパレスチナの境界に建設されているのではなく、90%以上がパレスチナの中に侵入して、パレスチナ人の土地を奪いながら建設されていると言われる。
アパルトヘイト・ウォールとも呼ばれるが、イスラエルはセキュリティ・ウォールと呼んでいる。
2003年10月21日に壁の建設の中止と撤去を求める国連決議が出され、翌2004年7月9日には国際司法裁判所の勧告が出されたが、イスラエルは現在も壁の建設を続けている。】
そして今、状況はますます悪化している。
1人で見に行ったのは「トロッコ」で、2010年6月だった。
この映画はとにかく緑が美しかった。
木々の緑、山の緑、スクリーン一杯にあふれんばかりの緑。
ストーリーは芥川龍之介の「トロッコ」を下敷きに、現代社会が抱える問題をからめて、まったく新しい作品に仕上がっていた。
父を亡くしたばかりのアツシ(8歳)は、母と弟のトキ(6歳)とともに父の故郷・台湾へ遺骨を届けにやってきた。
亡くなる前に父がくれた写真には、トロッコを押す少年が写っていた。
台湾の父の故郷でアツシたちを迎えてくれた祖父は、その写真の少年は自分だと言う。
トロッコは、この山のヒノキを伐り出して運ぶためのものだった。
「明治神宮も、靖国神社の鳥居も、台湾のヒノキでできている」と、祖父は誇らしそうに話す。
台湾人の祖父は子供の頃から日本に強い憧れを抱き、日本語を勉強し、日本語が話せることを誇りにしていた。
日本の国のために2年間兵役についたこともある。
しかし、戦争が終わると、日本は日本人ではないとして祖父を見捨てた。
祖父は無念でならない。
自分は補償が欲しいのではない。日本のために戦ったことを認めてほしいのだ。
自分の憧れていた日本は、信義を守り、礼節を重んじる国ではなかったのか。
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一方、アツシはちょっとしたことでも母から厳しく叱責される。
母もまた辛いのだった。
若くして夫を失い、2人の子供を抱えて頑張らなければならない。
気持ちにゆとりがないために、長男のアツシに辛く当たってしまう。
そのことを祖母から指摘された母は、「子供のいない人を見るとうらやましく思えてしまうことがある」と打ち明け、泣き崩れる。
物陰でそれを聞いていたアツシは、翌朝母が出掛けると、母が自分と弟を置いて日本に帰ってしまうのではないかと疑う。
自分たちもトロッコに乗って日本へ帰ろうと、弟を連れてトロッコの置いてある場所に向かう。
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アツシとトキがトロッコを押そうとしているところへ、トロッコで山に木の苗を運んでいる青年がやってきて、二人をトロッコに乗せてくれた。
さんざん木を伐採して丸裸になった山は、雨が降り続くと土砂崩れを起こす。
青年は子供の頃、土砂崩れで両親と家を失っていた。
そうした災害をなくすために、木の苗を育てて植林する手伝いをしているのだった。
子供たちを乗せて、緑の中をトロッコが走る。
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この映画は、とにかく景色がいい。
トロッコの線路が伸びている林や森。木々に囲まれた祖父の家。
祖父の家がまたいい。
昔の日本にもあったような、懐かしさを感じさせる家。
ペンキのはげたトタンの家。
窓枠のペンキの色が明るいコバルトブルーなのが台湾ふうで、懐かしさの中に異国情緒も漂っている。
音楽もいい。
川井郁子の作曲と演奏によるもので、ゆったりした中国ふうの旋律が台湾ののどかな風景に合っている。
バイオリンが胡弓の雰囲気をうまく出していて素晴らしい。
そして、登場人物。
特に、台湾人の祖父とアツシがいい。
トロッコで山の奥深くに運ばれてから徒歩で戻る道すがら、ゴム草履をはきつぶしてしまった弟に自分のゴム草履を与え、自分は素足で歩くアツシ。
内心の寂しさや不安を押し隠し、線路にしゃがみ込んで「もう歩けない」と泣きじゃくる弟を励ましつつ、ようやく家に帰り着けば、母から「あんたがついていながら」と、きつい口調で責められる。
母の剣幕に立ちすくむアツシ。
本当は、自分だって声をあげて泣き出したいのだ。
弟のように、大声で泣きながら母の胸に飛び込んで、抱きしめてもらいたいのだ。
涙をこらえてアツシは母に尋ねる。
「ぼくなんか、いない方がいい?」
母の答えは……これから見る人がいるかもしれないので書かないでおこう。