「笑わない数学/確率論」:メモ

録画してあった「笑わない数学」の確率論の回を観た。やっぱり「モンティ・ホール」問題が出たけど、「100回の実証実験」をやっているのを見て少し不安になり、マリリンの言い分の正しさの「解説・説明」を見て、「おやまあ」と思った。間違ってはいるわけではないが、あれは、マリリンの言ってることが〔実はわかっていない人たち〕がやりがちな説明(理解の仕方)。

番組がやった説明には「マリリンの主張が正しくなる理由」の説明(あるいは強調)がすっぽり抜け落ちていて、ただ、「起こり得る全てのパターンを書き出してみたら、ほら、こうなるでしょう、だからです」としか言っていない(そもそもこれは説明なのか?)。こんな説明を聞かされた方は、「実際に100回やってみたら、やっぱり途中で箱を変えたほうが倍以上アタリました」と言われたのとさして変わらない「納得度」しか得られない。こんなのでなんとなく納得してしまうと、後で書くような〔非常によく似た状況であるにもかかわらず、「マリリンの主張が正しくなる理由」が存在しないために、マリリンの主張が間違いになる状況〕に遭遇して、面食らうことになる。

以前にも書いたけど、マリリン(IQ228)は、要するに「くじを1本引くよりも、2本引いたほうが、2倍も当たりやすい」と言っているだけ(そして、これがIQ228の洞察力というもの)。くじがどういうものかを理解している者で、マリリンのこの主張に納得できない者は一人もいないだろう。というか、バカバカしいほどの当たり前。だから、番組でやった「100回の実証実験」は時間の無駄…とまでは言わないけれど、少なくとも「サイコロを千回転がして、本当にそれぞれの目の出る確率が$${\frac{1}{6}}$$になるかを確かめてみた」くらいの「退屈動画」。

実は、この問題は、マリリンの主張が確率計算的に正しいかどうかの問題ではないのだ(いや、もちろん確率計算的にマリリンは正しいのだが)。上でも書いたとおり、くじや確率というものを数学的には理解してなくても、そして、数字を使った実際の確率計算がたとえ出来なくても、くじや確率を「体験的」に知っている者なら誰でも、マリリンの主張が正しいことは一発で理解できるにも関わらず、これほど多くの人(数学者や教授を含む)が、マリリンは間違っていると考えてしまったのは何故か? これがこの問題の本質。

つまり、試されたのは、「今が、この〔くじを1本引くよりも、2本引いたほうが、2倍も当たりやすいことを活かす状況〕だということに気づけるかどうか」ということ。当時、マリリンに反論した数学者や教授は、単なる習性ならいしょうで数学が「使える」だけの、所謂「数学バカ」だったので、数学に「含まれない」部分について考えが及ばなかった。それで、判断を誤ったし、マリリンの言い分に納得できなかった(繰り返すが、マリリンは、子供でも分かることを言ってるだけなのに)。

モンティ・ホール問題の本質は「ハズレの箱を先に開けて見せる者が、事前にそれがハズレであることを知っているかどうかで、残された2つの箱のそれぞれのアタリの確率が変わる」という点にある。だから、例えば、あの番組中、尾形がハズレの箱を開けて見せる前に、突然乱入してきた猫が、最初に選ばれたのではない箱の一つにたまたまぶつかって、その箱のハズレが判明し、しかもその箱を尾形が開けるつもりだったかが明かされないなら、箱を選び直す必要はないのだ。これが上で書いた〔非常によく似た状況であるにもかかわらず、「マリリンの主張が正しくなる理由」が存在しないために、マリリンの主張が間違いになる状況〕。ほ〜ら、マリリンの主張の「真意」がピンときてないと、途端に不思議な感じがしてくるでしょう? ここでのポイントは、「猫は尾形と違って、あなたが最初に選んだ箱にぶつかって開けてしまう可能性もあった」ということ。う〜ん、ベイズ確率。

もう一つ残念だったのは、ブラック・ショールズ理論を、最後に尾形が(ということは番組が)持ち上げていた(高く評価していた)こと。あんなものは、星座占いや亀甲占いと変わらない。ブラウン運動から生まれた確率に関する方程式が、人間の意思で左右される金融の動きに応用できると考えるのは、亀の甲羅を炙った時にできる亀裂の出来方を予測できれば、それで、人間や世の中の運命も予測できると言ってるのと同じこと。ブラック・ショールズ理論が金融市場でそれなりに「機能」するように見えたのは、朝のテレビの星座占いをみんなが信じれば、例えば、双子座の今日のラッキーアイテムがバナナになったときに、日本中で、バナナでラッキーになった双子座の人間が数多く出現するのと同じ構造。それで、星座占いはアテになると言いだすのは、マリリンが間違えたと喜んだ連中の同じレベル。星座占いが人間の運勢を予言しているのではなく、人間が星座占いに従って踊っているだけなのと同じに、ブラック・ショールズ理論が現実社会(金融)を言い当てているのではなく、現実社会(金融)の側が、「ゲームのルール」としてブラック・ショールズ理論を採用している、つまり、ブラック・ショールズ理論の振り付けで踊っているのだから、当然、ブラック・ショールズ理論の「予言どおり」になるだけなのだ。

長くなったついでに書くと、最初のパスカルとフェルマーが手紙をやりとして解決した問題だって、番組では妙にくどくどと説明をしていたけれど、あの状況でBが勝つには残り二回続けて裏が出るしかないのだから、その確率は、$${\frac{1}{2}}$$×$${\frac{1}{2}}$$で$${\frac{1}{4}}$$と簡単に出る。考えなければならないのは、ただこれだけ。Bの金貨の取り分が$${\frac{1}{4}}$$なのだから、Aの取り分は考えるまでもなく$${\frac{3}{4}}$$になる。確率がどうこう言う前に、置かれた状況の理解がもっとも重要なのだ。

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