第3回 期待値とは?
はじめに
前回までの形テン押しの話では期待値が出てきました。現代麻雀の理論構築を考える上で、期待値の概念は避けて通ることはできないでしょう。
期待値という言葉は、麻雀理論だけでなく、日常でも「期待値は高かったのにイマイチだった」のように使うことがあります。例えば、グルメサイトで評価が高かったお店で食べたら、思ったほど美味しくなかったというような。この場合、後で説明するように確率から計算された数字というよりも、予想していたほど美味しくなかったということでしょう。
期待値という概念はよく使われますが、間違った形で使われていることも少なくありません。今日は期待値について基本的な概念を説明しましょう。
確率変数と期待値
いろいろな値を取り得る数を変数(variable)といます(今日の話と関係ありませんが、変数に対してずっと同じ値をとる数を定数といいます)。変数にその値をとる確率( probability)が割り振られたものを確率変数(random variableまたは stochastic variable)といいます。
一番わかりやすい確率変数の例はサイコロの目でしょう。サイコロを1回振れば、1,2,3,4,5,6のどれかが出るわけですが、どれが出るかは振ってみないとわかりません。典型的な確率変数です。
サイコロにゆがみがなければ、それぞれの目が出る確率は1/6です。
サイコロを何回も振った場合の出た目の平均値は、
(1/6)×1+(1/6)×2+(1/6)×3+(1/6)×4+(1/6)×5+(1/6)×6=3.5
になります。これが期待値です。上の式から明らかなように、期待値は、確率でウェート付けされた加重平均( probability-weighted average )であることに注意してください。
一般的な定義をしましょう。確率変数Xがx1,x2,…,xnのどれをとるかはわからないけれど、p1,p2,…,pnの確率でそれぞれの値をとるとします。
このとき、Xの期待値(expected value)は
E(X)=p1x1+p2x2+…+pnxn
として定義されます。サイコロの例だと、サイコロの目が(x1,x2,x3,x4,x5,x6)=(1,2,3,4,5,6)、各目が出る確率が(p1,p2,p3,p4,p5,p6)=(1/6, 1/6, 1/6, 1/6, 1/6, 1/6)になります。ここで、p1からp6までのすべての確率の和は1となることに注意してください。
牌を1枚引くクジ
上の手牌は、打牌選択問題によく出てきそうな牌姿ですが、1萬を切れば2-5萬待ちのピンフ、4萬を切れば2萬待ちの三色です。この手牌のイメージで、ちょっとしたクジを考えましょう。
クジAは、以下の20枚から1枚を引いて2・5萬を引いたら当たりとして2000点もらえるとします。クジBは、2萬を引いたら当たりとして5200点もらえるとします。もちろん、20枚の牌は伏せてあるとします。AとBのどちらかのクジに挑戦するとしたら、あなたはどちらを選びますか?
クジAの期待値EAは
EA=2/20×2000+18/20×0=200
です。一方、クジBの期待値EBは
EB=1/20×5200+19/20×0=260
です。クジBを選ぶと、当たりの確率はクジAの半分ですが、期待値は2倍以上あります。なので、2つのクジのどちらかを選択する方がよいのかといえばクジBの方です。これが期待値にもとづく意思決定です。
「選択と抽選」とは
麻雀というゲームの性格について、しばしば「選択と抽選」と言われます。ゲーム中の選択は切る牌を選んでいるように感じますが、上の例のリャンメン待ちピンフとカンチャン待ちサンショクの選択のように、麻雀の選択とは自分に最も有利な確率分布を選択していると言っていいのかもしれません。
上の例は話を簡単にするために、1回だけクジを引くというものでした。けれども、麻雀は和了までにツモと捨てる動作を繰り返します。いわば何回もクジを引いているのですが、取り出したものを元に戻さないでくじ引きをしていることに注意が必要です。これは確率論の教科書で非復元抽出と呼ばれているものです。次回は、非復元抽出に基づいて確率を定式化する予定です。
【コメント】
今日は、期待値と確率について、すンごく基本的なことを説明しました。これは私がnoteに書きたい内容というよりも、次回以降の話の基礎として必要なことなんです。
偶然ですが、プロポーカープレーヤーの木原直哉さんも数日前に
「ポーカーに有益な数学知識:基礎編 」
https://note.mu/kihara_poker/n/n8edbb9ae816f
という記事をアップしておられますね。麻雀やポーカーのような不完全情報ゲームではやはり期待値は避けて通れないようです。
麻雀も数学も予備知識なしで、つまり自己完結的に書いていきたいので、なかなか前に進みませんね(-_-) できるだけ週一くらいのペースで更新できればと考えています。今後ともよろしくお願いいたします。