新方式を解《析》【欧州チャンピオンズリーグ 24-25】
2024-25シーズンから、UEFAチャンピオンズリーグのフォーマットが大幅に変更。サッカーファンには、あまりなじみのないスイス式トーナメントが採用される。
スイス式トーナメントは、チェスや将棋、カードゲーム、eスポーツなどの大会ではよく採用される方式。しかし、サッカーのトーナメントとしては不向きな方式として、これまで主要な大会には採用されてこなかった。
新方式の基本的な説明や情報については、省略します。
下記サイトなどで、ある程度把握しているものとして、話を進めます。
参考にした情報源
まだよくわかっていない方は、サッカーキングに目を通しておくといいと思います。
なお、ヨーロッパリーグ24-25については、ねでばるさんがまとめてくれています。
レアル・ソシエダの視点からの説明が良いですね。私も、久保建英選手の活躍に期待しています。
ヨーロッパリーグのレギュレーションも、チャンピオンズリーグとほぼ同じ。ただしこれまでと違い、チャンピオンズリーグからの降格組がいないのが大きい。これも大きな変更点のひとつです。
新フォーマットを分析し、UEFAチャンピオンズリーグがどのような雰囲気の大会となるのかを解説。他ではあまりやっていないところを突いていきます。
リーグフェーズ
36クラブをグループ分けせずに、ひとつのグループとして行われるリーグフェーズ。仮に総当たりリーグ形式で行った場合、各クラブひと試合ずつでも35節になってしまいます。それを8節で終了して順位を決定してしまうのが、新方式の考え方です。
ただ、それだと対戦相手の強さのばらつきが大きくなり、不公平が生じます。ばらつきを少なくするために、クラブの強さの順に4つのポットに分け、それぞれのポットから2クラブずつ対戦し、計8試合を行います。
スイス式トーナメントとは?
スイス式の一般的な方法は、対戦が1回終了するごとに次の対戦相手を決定。それまでの戦績が近い相手との対戦となります。従って、勝ち進めば強い相手と、負ければ弱い相手と対戦になります。
サッカーでこれをそのまま行うのは、少し無理があります。1節行うごとに、次の試合会場を手配しなければなりません。毎節終了するたびに18試合もの会場を短期間で用意するのは、結構な労力を必要とします。
これが、スイス式トーナメントがサッカーに向いていない理由とされてきました。
しかし、スイス式にも様々な方式があり、新方式で採用されるのはサッカー版スイス式とも言えるものです。
ポットによる有利不利は無い
従来の4チーム総当たりでは、『ポット1に入ったチームは、強豪との対戦が避けられるため有利』とされてきました。新方式では、リーグフェーズからポット1同士での対戦があるため、有利とはなりません。それでもポット分けは、実力に応じて適切に行われる必要があります。
例えばマンチェスター・シティがポット4に入ったとします。マンチェスター・シティ自体に有利不利はありませんが、対戦相手にとっては大事です。ポット4の対戦相手にマンチェスター・シティを引き当てたクラブは、クジ運の悪さを嘆くほかありません。
しかし、クラブ係数によってポット分けが行われるため、実力のあるクラブが下位ポットに入ることは起こりえません。ポット分けは、ほぼ実力通りとなります。ただ下位ポットに、クラブ係数とかけ離れた実力を持つ思わぬ伏兵がいる可能性はあります。
クラブ係数とは、各クラブの過去実績を評価した数値の事。係数順にポット分けがされています。昨季優勝のレアル・マドリードだけは、無条件でポット1に入ります。
クラブ係数と対戦組合せをもとに、リーグフェーズをシミュレーションして試算を行いました。
[勝利:引分け:敗北]の確率を以下の様に仮定しています。
クラブ係数に差がない互角なら[38:26:38]%
最も係数に差があるマンチェスター・シティ VS ブレストでは、マンチェスター・シティ側から見て約[67:19:14]%
旧方式32クラブを8グループに分けて、4チーム総当たり+決勝トーナメントプレーオフとした場合についても試算。旧方式と新方式の違いを見ていきます。
リーグフェーズは混戦になる?
新方式では、同ポットのクラブの対戦があります。実力の近いライバルには、競り勝っていきたいところ。下位ポットのクラブにとっては、上位をうかがうチャンス。ポット1のクラブは、ライバルに負けるとラウンド16にストレートインするのが難しくなります。
8節終了時の勝ち点取得率を計算すると、下表のようになります。
8位争いの勝ち点のボーダーラインは、14点。24位争いは、9点となりそうです。混戦なら13点と10点。差が開いている場合は15点と8点になります。
得点を1点取るか取らないかで大きく順位が変わる可能性があります。勝利だけでなく、貪欲にゴールを狙って行かなければ、1得点に泣くことになるかもしれません。
消化試合は大幅に低減
旧方式はグループ内2位以上が決勝トーナメント進出のため、最終節の6試合目が消化試合となるクラブが多い方式でした。
プレーオフの導入により、消化試合を少なくすることができます。グループ3位はヨーロッパリーグに編入されていましたが、これをプレーオフ進出に変更した場合で消化試合数を試算しました。新方式についても試算し、比較します。
$$
\def\arraystretch{1.2} %行間設定
進出・敗退確定クラブ数 \\
\small
\begin{array}{|c|c|c|}
\hline & 旧方式 & 新方式 \\
\hline \footnotesize \begin{matrix} 決勝トーナメント確定 \\ 1位/8位以上 \end{matrix} & 2.5 & 1.7 \\
\hline \footnotesize \begin{matrix} 決勝トーナメント確定 \\ 2位以上(先シーズン) \end{matrix} & 12.7 & - \\
\hline \footnotesize \begin{matrix} プレーオフ以上確定 \\ 3位以上/24位以上 \end{matrix} & 14.9 &11.4 \\
\hline \footnotesize \begin{matrix} 敗退確定 \\ 4位/25位以下 \end{matrix} & 2.2 & 2.9\\
\hline \footnotesize \begin{matrix} \\ \dfrac{決勝T確定+敗退確定}{出場クラブ数} \\ \end{matrix} & 14.7% & 12.9% \\\hline \end{array}
$$
先シーズンまでの旧方式最終節は、実に32クラブ中$${12.7+2.2=14.9}$$クラブが消化試合となる確率です。対戦する両者が消化試合となる完全消化試合は、2試合程度あることになります。
プレーオフを導入することで、消化試合が大幅に減ります。新方式のリーグフェーズなら、さらに減ります。敗退確定は2.2から2.9に増えていますが、敗退枠が8から12クラブに増えているためです。消化試合の確率では14.7%から12.9%に減ります。リーグフェーズの方が少なくなる理由ですが、分析は出来ていません。おそらく、同一クラブと2回対戦しないことと、順位を争う相手が4から36に増えることが理由として考えられます。
最終節前に9位から24位のプレーオフ進出確定となる確率は、ほとんどありません。中団はほぼ間違いなく8位争いか24位争いをすることになります。
第8節は18試合同時!
これまでは、4チームごとのグループ分けのため、2試合同時キックオフが標準。しかし、36チーム1グループとなる新方式では、18試合同時キックオフとなります。
複数のクラブを応援する方は、どの試合を観るべきか悩みどころです。デメリットと言えるかもしれません。
これだけ多いと、他会場の結果を気にしても意味がないかもしれませんね。応援するクラブがひとつなら、目の前の試合に専念しましょう。
勝ち点14や9のクラブは、引分けでOKと考えがちになるかもしれません。勝ち点取得率表を見ると、そう読み取れます。もちろんその時の順位争い動向によります。このボーダーライン同士の対戦が無い事を望みます。無気力試合を少なくする有効な手段が、あれば良いのですが。
順位決定は他のクラブの結果次第?
新方式での順位決定手順は、以下のようになります。
勝ち点(勝利=3点・引分け=1点)
得失点差
総得点数
アウェーでの得点数
勝利数
アウェイでの勝利数
対戦相手の勝ち点合計
対戦相手の得失点差合計
対戦相手の総得点合計
フェアプレーポイント
より高いクラブ係数
7から9が、スイス式ならではの順位決定方法です。総当たりでは、対戦相手の○○点を合計すると同点になってしまい、優劣が着きません。スイス式では、おのおのの対戦相手が異なるため、差が現れます。より強い相手と対戦したクラブが上位となります。
対戦相手の○○点は、自分たちではどうすることも出来ない部分です。いわば、順位が他人まかせで決まることになります。ここまでもつれることは少ないかもしれません。
決勝トーナメント
プレーオフ と ラウンド16は抽選
プレーオフの抽選では、9位と10位は、23位と24位のどちらと対戦するか、及び左右どちらの山に入るかを決定します。他の順位についても同様です。
ラウンド16の抽選では、1~8位がどちらの山に入るかを決定します。
プレーオフは、9位 VS 24位。
ラウンド16は、8位 VS 9位 vs24位の勝者。
抽選を行わずに、この方が単純で良いような気がしますが、UEFAとしては不確定性を取りたいのかもしれません。
決勝トーナメントは従来とほぼ同じ
9~24位による決勝トーナメントプレーオフは、1試合目が下位側、2試合目が上位側のホームで、計2試合が行われる。同点の場合、15分ハーフの延長戦、およびPK戦により勝者を決定する。アウェーゴールルールは、ありません。
ラウンド16も、2試合目が上位ホームで行われる。準々決勝、準決勝のホーム&アウェーの試合順は抽選で決定。同点なら延長、PK戦まで行われます。
決勝戦は、2025年5月31日にドイツ・ミュンヘンにて、1発勝負で行われます。
新方式の批判 ・ 評価
試合が増えるのは悪いことか?
新方式は旧方式と比べて2試合多いです。プレーオフに回るとさらに2試合、計4試合増えることになります。試合が増えることに対する批判が多く出ています。
チャンピオンズリーグに出場するクラブには、各国の代表として活躍する選手も多く、試合が増えることで選手が休息をとる時間も少なくなってしまいます。選手の負担が増え、疲労によりパフォーマンスの質が落ちたり、ケガにより試合に出場できなくなることを懸念するのは、理解できます。
クラブとしては、いわゆるベストメンバーだけでなく、所属している選手をやりくりして対応していかなければならないのだと考えます。格が落ちる大会には、セカンドメンバーによる出場や、時には大会を辞退する、などの対応もありうると思います。
試合数増加による選手の負荷軽減は、サッカー界全体での対策が必要なのだと思います。UEFAだけ批判してもしょうがない。
試合の質が上がる
強豪クラブは、最終節前に決勝トーナメント進出を確定させて、最終節ぐらいは選手を休ませるという戦略を考えるかもしれません。これまでは。
新方式では、それは望めません。選手を本当に休ませたかったら、最終節も手綱を緩めずに戦い、プレーオフに回らないようにしなければなりません。
新方式では、消化試合がこれまでより少なくなります。これは観衆にとって歓迎すべきことです。消化試合、観たいですか? 観たくないですよね。
UEFAとしては、試合の数を増やし、質を上げることで、大会の価値を高めたいのでしょう。大会方式を大幅に変更するという英断を下した。欧州サッカーは、今は人気コンテンツですが、改変を迫られるほどの焦りがあると感じとれます。
新方式は定着するか?
わかりづらい、複雑といった意見があるが、なじみのない方式だからだと思われます。次のシーズンが始まるころには、そういった意見は無くなっているでしょう。
ただ、試合数増だけは懸念点です。リーグフェーズが6試合なら、さほど大きな批判とはならないと思うのですが。
それでも新方式は、おおむね好評に終わるのではないかと予想しています。
サッカー版スイス式トーナメント+プレーオフという方式は、通年の大会の定番となるような気がします。
私は、どうせやるなら、もっと攻めたフォーマットに出来ると考えています。これについては、また別の記事で。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
こちらが続きなります。よろしければ続けて読んでください。