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おはようございます、お疲れさまです

ほほ毎朝会う人がいる。
住所も名前も知らない。
知ってるのは顔だけ、通勤時間帯に出会う。
私はその人を心の中で
「細井さん」と呼んでいた。
すごく細っそりしていてスタイルのいい人だったからだ。

細井さんはいつの頃からか何かのきっかけで 朝出会うと
「おはようございます」
と声をかけてくれるようになった。
知らない人でも挨拶されると悪い気はしない。
私も
「おはようございます」と返す。

そのうちに仕事帰りにも顔を合わすようになった。
細井さんは
「お疲れさまです」
と言ってくれるようになった。

そんな関係が一年くらい続いたように思う。
果たして細井さんは一体どこの誰なのだろう?
よく出会うのだから近所の人かもしれないな、年齢もいくつなんだろう?
勝手に私より少し年上かな、などと考えていた。

よく会うのにそれ以上親しくなることもなく、ただ挨拶だけを交わす日々。
何かあれば話すかもしれないが、これといったきっかけがなかった。
ビミョーな関係だ。
仲良くなるならなりたいし、そうでなければあまり会いたくないような…

そんなことを考えていたら、何日か細井さんと会わない日が続いた。
あれ?
細井さん、どうしたんだろう?
具合悪いのかな、それとも仕事でも辞めちゃったのかな…
よく考えたら全く知らない人なのに妙に細井さんのことを気にかけている自分。

すると何日か姿を見せなかった細井さんがある日大きな紙袋を持って現れた。
あ、細井さんだ!
「おはようございます」
何となく嬉しくなったが、大きな紙袋も気になった。

その日の帰りにも細井さんに出会い、彼女が持っていた大きな紙袋からは綺麗な花束がチラッと見えた。

そうか、細井さんは今日で仕事を辞めるんだな…
私より年上に見えたから定年なのかもしれないな…

次の日から細井さんに出会うことはなくなった。
何となくホッとした反面、少し寂しい気がした。
本名はずっと分からずじまいだったけど、
細井さん、
挨拶してくれて
ありがとう。

そしてお仕事、
お疲れさまでした
((*_ _))ペコリ


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