[英語表現] not me -ing の謎にせまる

1 何の話?

"not me misremembering."

 これは先日私が英語圏Youtuberの配信を観ていて遭遇した、みたこともなく推測も難しかったとある英語表現を、私なりに調べそして出した結論をまとめた記事である。
 先に断っておくと、まだまだ英語を勉強している道のりの最中であるとか、学生の方向けの内容ではない。ネットスラングに属するものであり、新しい言葉の使い方、つまり若者言葉であるようだ。単語の並びはとても簡単に思えるのに、新しい言い方になってしまうなんてね…


2 で、どういう意味なの?


 "not me -ing" とは、おそらく「自分の行為に恥ずかしいと思う気持ち、驚き」を表した表現である。
 日本語に嵌めるならば「(私が)○○してしまうだなんて」「もう、○○するなんてありえない!」あたりを提案する。not の要素もなければ気配もなかった過去形が出てきているが、解説の前に例文とともに雰囲気をつかんでいきたい。

 まず、我が最初の not me -ing との出会いである配信動画の会話からみていこう。2人の英語話者である Vtuber「ニナ」「ぽむ」が日本のゲームを遊んでいて、コンビニにあった「うすしおポテトチップス」を読もうとしているシーンである。ちなみにホラーゲームなので視聴は自己責任でお願いします。
(追記:ニナが卒業つまり活動をやめ、配信アーカイブを観ることはできなくなりました。)

ニナとぽむが「うすしおポテトチップス」を読もうとしている
FOX MOM'S 1st DAY OF WORK! [The Convenience Store] w/ Pomu Rainpuff! [Nina Kosaka | NIJISANJI EN]

Nina: i remember "Ra" because it's bowl of ramen
Nina: i remember "Ra"
Nina: this is "Su" because jesus is hung. so "Su "
Pomu: uh yeah i don't see "Ra" where are you reading that
Nina: wait this first one is that not "Ra "
Pomu: no
Nina: oh what is this
Pomu: on, th- which color?
Nina: uh yellow. not me misremembering
Pomu: "U"?
Nina: oh that's "U" ! okay okay okay see, i should do more Duolingo

ニナ:「ら」はわかるわ、ラーメンのらね
   こっちは「す」、イエス・キリストが吊り下がってる形のやつ
ぽむ:えーっと、「ら」がみつけられないんだけど、どこ読んでる?
ニナ:待って、この最初の文字は「ら」じゃない?
ぽむ:ちがうよ
ニナ:あら、とすると?
ぽむ:えーと、どの色のやつ?
ニナ:黄色のやつ。 覚え間違っているだなんてなんてこと
ぽむ:「う」?
ニナ:ああー!「う」なのね。なるほどなるほど。もっと Duolingo で勉強しなくちゃね

 不慣れな日本語に挑戦して、「う」を「ら」と覚え間違っていたことに対して"not me misremembering"と言及している。
 過去形の表現はないが読み間違ったことは直前の出来事であり、またそれをミスだと思っているらしいことがポイントだ。ちなみに Duolingo は流行りの言語学習アプリである。

 ほかにも見ていこう。簡単にそれらしい使われ方がいくつかみつかったので、どうやらある程度普及した言い方であるらしい。
 ツイッターでうまく検索すると生で使われているいきいきとした例文が集まる。素晴らしい世である。

"not me forgetting to leave the vpn and then being
surprised that my wifi is slow"

 「VPNのままにすることを忘れる」ことにかかった表現だ。
 訳すならば「VPNにしたままなのをわすれてた。Wifi めちゃ遅くてびっくり」といったかんじ。
 いきなり文の始まりが "not me" で、すぐに -ing と続くのが特徴的である。言葉の繋がりでたまたま "not me -ing" が並んでいるわけではなさそうだ。
 これも「VPNから切り替えるのを忘れる」という、ニナの覚え間違いとおなじように本人がヘマだと思うのも自然な内容で、大工作業に失敗している添付画像とも合う。

"not me hiding in the bathroom to pretend i’m not gonna cry"

 ノット・ミー・「泣いてないふりをするためバスルームに隠れる」。
 個人的な事柄を引用する申し訳無さを感じつつ……しかし、特色のよく出たツイートだと感じたため取り上げさせてもらった。
 この投稿への返信は「大丈夫?」「力になるよ」など心配する言葉が続いている。not me -ing 表現で「なにか辛いことがあって泣きそうになり、バスルームに隠れた」と周囲は受け取ったことが伺え、「誰があなたを傷つけたんだ」というコメントまである。わかりやすい。
 検索して例文を集めたところ、こうした泣き顔の絵文字がつく傾向もありそうだった。
 実際に泣いたけど、言葉の上では泣いてない、そんなニュアンスを日本語訳でどう出したものか悩むところ。それにしても「泣いちゃった」と言いながら心配されると「もう大丈夫!なんでもない!」と返すところに、表現そのものの相反性があいまってたいへん今どきらしいと思ったのであった。


3 なんでそう思ったの?


 集めた例文のほかに、参考にしたサイトがある。言語話者に質問できる掲示板 Hinative で、「SNSで not me -ing と表現しているのを見かけます。頭に not をつけるのはなんでですか?」とそのものずばりな質問があった。回答は以下の通り。

https://ja.hinative.com/questions/18871515

 ネット上の会話で、やったことへの恥ずかしさや驚きを表します。たとえば "not me eating pizza all week" は「(私は)まる一週間ピザを食べ続けるべきじゃなかった」と言い換えることができます。

 ひとことも過去形の様子はないけど、実際にはしていると受け取っていいという、一つの根拠が示された。
 これで先程挙げたように集めた例文の解釈として納得できた。
 文法的に分解するなら、文頭にいわゆる仮主語の "It is" が省略されていて、「○○をするなんて私じゃない」といったところか。そこから、
 そんなことをするなんてありえない → でも実際にはやった → やだ!はずかしい!なんてこと!
 というかんじなのかもしれない……。


4 not me -ing とは?


 軽くおさらいしよう。

  1.  not me -ing は、したことへの恥ずかしさ(照れ)、驚きを表す。

  2.  -ing の内容はすでにやっちゃってる。

 この2点がまずあり、

  • 基本的にネット上の書き言葉である。

  • そこそこ使われている物言いである。

  • とてもフランクな言い方っぽい。文頭を大文字にさえしないくらいには。

  • 泣き顔の絵文字、しょんぼりといった画像がついている。ぴえん。

 これらの特徴もありそう。例文を集めたのが主にツイッターなので、偏りがある可能性は高いけど。


 最後に締まらないことを言うが、これは素人のいち解釈である。
 ほかに案があればぜひ教えてほしい。

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