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我々のルーツ:Anizine

友人と台北に遊びに行った話をしていると、そこにいた初対面の人が加わってきました。ほんの少しだけ言葉にぎこちなさが感じられたのですが、あとから日本在住の中国出身の人だとわかりました。彼が私に「台湾のどんなところが好きなんですか」と言うのでやや身構えました。中国と台湾は緊張関係にあり、人によって質問の意味が変わってくるからです。

「とにかく食べ物が美味しいですよね」と当たり障りのない返事をすると、彼は、「僕は美味しいものを探して旅をするのが好きなので、私も台湾に行ってみたいと思っているんですよ」と言います。ああ、これは大丈夫だと思ってしばらく話していると、「自分はもう長い間東京に住んでいるので考え方は資本主義になっているかもしれないし、台湾に関してもニュートラルです」と言葉を選びながら話してくれました。古くからの友人に会いに時々中国に帰るそうなのですが、友人たちは国の政策を盲目的に信じていて、お前は日本社会に洗脳されていると言われることがあるそうです。

子どもの頃からの大切な友人と、政治の話で喧嘩をしたくないのでできるだけその話題は避けているそうですが、お酒が入るとどうしても口論が始まってしまい、せっかくの故郷なのに悲しい気持ちになると言いました。

「香港も台湾もそうですが、同じルーツの血が流れているもの同士が憎み合うのはもうやめたい」と言います。その言葉を聞きながら、「乱暴に言えば、我々日本人も韓国人もルーツは同じでしょう」と言いました。彼はそこでしばらく黙ってしまいましたが、頷きながら「そう。そうなんですよね。人間はどこか決まったところでずっと生きてきたわけじゃなく、何千年も何万年も移動してきたんですから。数十年前に政治が決めた国境線なんて何の意味もないですよ」と言いました。

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Anizine

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写真家・アートディレクター、ワタナベアニのzine。

多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。