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故人口座:Anizine

知人が、変なことがあった、と言う。彼が住んでいるマンション(英語だと『豪邸』って意味になるよ、というのは置いといて)にまつわる不思議な話だった。半年前くらいのある日曜日に、不動産会社の50代くらいの社員が訪ねてきたそうだ。部屋を契約したときには見たことがない人だったのだが、一年前の更新の時も書類の郵送だけで手続きを済ませたので、入居したときから不動産会社の人とは会っていなかった。

その社員はいくつかの書類を持ってきていて、リビングのテーブルで書類に記入をしたが、その間、彼は「エアコンの調子はいいですか」「水回りに問題があったらいつでも管理会社に言ってくださいね」などと部屋を見回していたという。彼がなぜ日曜日に来たのかは不思議に思ったが、そのほうが住人が在宅している可能性が高いと思ったのかもしれない。

「でね、その書類の中に家賃振込先変更の通知というのがあったんですよ」
「へえ」
「何種類か書いたんですが、問題はそれだったんです」
「ほう」
「家賃は30万円で変わっていなかったんですがね」
「おい、もったいつけずに何があったのか教えろよ」
「はい、ここから先は有料になりますんで」

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760字

Anizine

¥500 / 月

写真家・アートディレクター、ワタナベアニのzine。

多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。