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ユニフォーム理論:Anizine

「仕事のコスパ問題」については昔からずっと平林監督と話していました。彼の仕事ぶりは20年以上近く見ているのでよくわかるのですが、とにかく「限界まで労力を惜しまない」というコスパ最悪な姿勢が特徴です。

一番初めに平林監督に出会ったときはまだ監督ではなく、ただのペーペーでした。しかし『のちに偉くなるペーペーだ』ということはすぐにわかりました。私のアシスタントをしてもらっていましたが、この人は一人前になったら多分すぐ私を追い越すだろう、と感じたのを覚えています。

彼はどんな仕事でも誠実に全力で取り組み、クライアントやプロデューサーの信頼を勝ち取っていました。私が忙しくて手が回らない仕事を代わりに平林監督にお願いすると、「次からも平林さんでお願いします」と言われることが何度もありました。ジクジたる思いでした。

撮影:中島古英

一方、私はというと、「いかにオランダ人のようにサボるか」しか考えていなかったタイパ重視の時期もあります。その頃は景気がよかったので酔狂なクライアントがいてなんとか食べていけていましたが、今ならすぐに仕事がなくなって、大至急ガシしていると思います。

ただ、自分の性格の悪さを感じるのは、こうした厳しい冬の時代が到来する寸前に「全身全霊で仕事に取り組むスタイル」「サボるなんて考えられない態度」にカジュアルに切り替えたことです。この嗅覚には助けられました。

作家の浅田次郎さんが書いていましたが、たとえばカジノが好きになったとしたら、とことん勉強し、可能な限りフィールドワークもするそうです。それを見た周囲の人は、「カジノについて話して欲しい」などと仕事を発注するようになるとか。つまり「その道の識者なんだな」と勝手に思われるのだそうです。カジノ歴数十年の人だっているはずなのですが、その人たちを差し置いて高い評価を受ける。それが「スタンスの表明」というものです。他人は能力ではなく、見え方で判断しているというわけですね。

昔、平林監督と話したことがあります。草野球で人数が足りなくて困っているとき、多摩川の河川敷を散歩している人に助っ人をお願いするとしたら、どんな基準で選ぶか、という話です。

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Anizine

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写真家・アートディレクター、ワタナベアニのzine。

多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。