ニハンロン: 博士の普通の愛情

「じゃあ、あれは私が悪いのかな」
「そうは言ってないよ」
「私がトモコの彼と仲良く話していたのがノボルは気に食わないってことでしょ」
「そうじゃないって。別にそんなことは気にしてない」

イチハは、ノボルの怒りポイントが何年経ってもわからない。いわゆる地雷と言われるやつで、ただの地面を踏んだつもりが爆発する。

「ねえ、なんで怒ってるかちゃんと教えてよ。気持ち悪いから」
「僕の顔が気持ち悪いのか」
「ふざけないで」
「なら、顔は気持ち悪くないんだな」
「うん。そこまで気持ち悪くはない」
「このやろう」

私たちの喧嘩はいつもこんな感じでうやむやに終わってしまう。トモコの彼はノボルとは正反対だった。真面目でエリートで冗談も言わないし、いつもトモコに優しいのが横で見ているだけでわかる。

「人前では優しく振る舞うやつって、いるからな」
「私の友だちの彼を悪く言わないで」
「別に悪く言ったつもりはないよ。ニハンロンだ」
「何それ」
「一般論よりちょっと下のやつ」
「上とか下の方角がわからないよ」