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ヨーロッパ、心の距離:Anizine

「今年は今までに行ったことがない場所に行こう」と毎年思っている気がします。保守的な性格なので、よく知っている居心地のいい場所を繰り返し訪れてしまいます。旅というのは冒険と同義であり、日常とは違う刺激を受け取る行為とも言えるのですが、ついついわかっている街に足が向いてしまいます。パリや台北のように何十回も行った街では、すでに「外国に来ている」という気持ちがまったく湧かなくなりました。

すべてを新しく感じる土地に行かないと澱んだ精神を撹拌できません。知らない風習を理解したり、体験して学習したりする、本来の旅の楽しさも味わいたいものです。

たとえば仕事でロケ先が決まっていると、自分では行こうと思いもしなかった場所に出会いますがそれは人任せでよくないので、できるだけ自力で未知の街を探そうと思っています。素晴らしい映画のことを「記憶を消してもう一度観てみたい」と言う人がいますが、知らなかった過去に帰ってそれをもう一度味わいたいという気持ちはよくわかります。

20代の頃、仕事ではなく初めてヨーロッパに行ったときのことを思い出すと、何から何までわからないことだらけでした。ヨーロッパは二回目で、一度目はベテランの同行者がいたので、ただ物珍しさにキョロキョロしながら後ろからくっついていくだけでした。

その衝撃をしっかりと確認するために友人と遊びに行くことにしたのですが、今とは違ってインターネットもありませんからほぼ手探り。目的地はロンドンとパリで、ドーバーを船で渡ろうと計画していました。トラブルはいくつもありました。

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Anizine

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写真家・アートディレクター、ワタナベアニのzine。

多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。