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1/9サイズの無知:Anizine(無料記事)

「若いうちにできるだけ外国に行く経験をした方がいいよ」と誰にでも言っています。どんなことでも同じで、経験や体験の分母を増やすことは決して無駄にはなりません。外国そのものに価値があるのではなく、なぜ自分がここに生まれたのか、を外国という遠くから眺める経験が必要ということです。

私は留学や長期の滞在経験がありませんが、本当はあまり考えが固まる前の10代に外国に行っておいても良かったと思っています。20歳を過ぎた頃、初めて外国に行って感じたことは、なぜ今まで来なかったんだろう、という後悔でした。航海しながら。飛行機ですけど。ビジネスクラスでしたけど。

私の話にはついつい「客観性」という言葉が多く出てきますが、自分が他人からどう見られているかを知るのはとても大事です。見栄や外見という意味ではなく、順位を知るということ。

もしあなたが競技人口が多いサッカー部の高校生なら、世界で60億位くらいかもしれない。漫画を書く人なら2億位あたりか。自分は何位なのかをいつも意識しています。その時、分母は1億人じゃなくて80億人の方がいいでしょう。それを皮膚感覚で捉えられるようになったのも外国に行くことが増えたからです。NYのユニオン・スクウェアで初めて路上ミュージシャンを観たとき、「この人たち、もし日本に来たらトッププロクラスだよな」と感じたことを今でもおぼえています。

皮膚でヒリヒリと感じたことですから「感じた性皮膚炎」とも言えましょう。そのレベルの彼らが路上でやっていることが恐ろしく、NYという場所の層の厚さと底力を知りました。外国人の仲のいい友だちができる。その人の兄弟に会う。親に会う。友だちに会う。そうやって知人の範囲を広げていくと、「あの国の国民はダメだ」なんて、無知ゆえのザックリした差別をしなくなるものです。

差別をする人は自分が「1」で、分母も自分の周りの狭い範囲だから「9」くらいです。自分は1位であって他人は全員自分より劣っている、私はアルバイト先のコンビニで一番カラオケがうまいんだから、と考えてしまいます。

差別は『広い世界への無知』と直結しています。

誰でも生まれた瞬間は、80億位から始まります。運が良かったり、環境が良かったり、努力したり勉強すれば順位はじょじょに冒険しながら上がっていきます。いい意味での「順位」が上の人と知り合うと、自分の世界はまだまだだと思って、もっと努力するようになるスパイラルが発生します。

と、外国に行く予定の、ひとりの少年に向けて書いてみました。

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写真家・アートディレクター、ワタナベアニのzine。

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