写真の仕事の違い:写真の部屋
一言で「写真を仕事にしている」と言っても、その内容は千差万別です。
この千差万別な仕事を一緒にして「界隈」などと呼ぶと、論争したい人の論争が起きるのでそこには触れません。どんな職業でも同じですが、自分の仕事における信念について他人からとやかく言われる筋合いはありません。ただし、その中で「違い」を明確にしておく必要はあります。
単純な喩えを使うとまたそこに反論が来ますが、わからないことを理解するためには「わかっていることに置き換える」比喩しか方法がありません。
あなたが会社の上司から頼まれるとします。
「来週、もしかしたら事業提携ができるかもしれない取引先がやって来るので会食をセッティングしてくれ。数百億円のプロジェクトになりそうだ」
さて、あなたはそこでロイヤルホストを選ぶでしょうか。絶対に選びませんよね。上司が想像しているのは築地の料亭のようなところだと知っているからです。そんなことは当たり前だろうと誰でも言いますが、本当にその違いを理解しているでしょうか。これはフリーランサーの仕事の定義に直結しています。
写真の仕事にはいくつかのパターンがあります。
1 写真を残しておきたいので、それなりに撮れる人に撮ってもらおう。確かあの人、立派なカメラを持っていたよな。
2 写真を撮ることが商売に繋がるので、ある程度能力ある人に撮ってもらおう。知り合いにそんな人がいたな。
3 写真を撮ることで大規模な影響を与えたいので、極端に優秀な人に撮ってもらおう。あの仕事をした人を呼ぼう。
大きく分けてこの3パターンですが、具体的に言うと、一つ目は依頼する側に「経済的なリターン」が発生しません。運動会や結婚式などの『記録写真』で、そのイベントを記録して残すために依頼者はお金を支払いますから、支払うマイナスだけです。なのでギャランティとして大きな金額は動きません。素人のモデル写真などについても同じですが、それによって経済が動かないものは、実績やキャリアがなくても依頼があります。
二番目は、写真を撮ったことによって依頼者の経済に影響する可能性がある状況です。店のメニューを綺麗に撮ったらお客さんが増えた、服を撮ったらオンラインショップの売上が上がった、プロフィール写真がよかったのでオーディションに受かった、などの『効果』が生まれます。そのためには商品や人物をよく見せるための方法やアイデアが必要なので、実績とキャリアが不可欠です。もちろんその要求は依頼者のレベルによります。
三番目は、その写真を使った表現が依頼者の大きなメリットになって、巨大な利益を生み出す場合です。ここでの作業はプロデューサー、クリエイティブディレクター、アートディレクター、デザイナー、スタイリスト、ヘアメイク、プロップスタイリストなどとの共同作業になるのでそもそもの予算規模が極端に大きくなります。「なぜその表現の写真がここで必要なのか」を熟練の職能が根本的に考え、知見と能力を結集します。写真はその一部分を担うのですが、とても重要なパーツであることは間違いありません。この場に「最近、ポートレートを撮ってるんですよ」という人が呼ばれることは100%ありません。ですからその人たちはこの現場をまったく知らないはずです。
多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。