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ノーチラス効果:博士の普通の愛情
中学校時代の同窓会の案内が届いた。初めてのことだ。
20年近く会っていない同級生に成功している感じを出そうとして、ネットで見つけたパテック・フィリップのノーチラスを3万円で買った。もちろんニセモノだ。俺は零細企業の平社員で、見栄を張るための3万円でも高かったくらいだ。
二次会の店で時計好きの同級生にめざとく見つけられた。
「マジかよ。お前これノーチラスじゃん」
「いやこのタイプは安い方だから600万円くらい」と謙遜しておく。
周囲の女の子たちの自分への対応が変わるのが手に取るようにわかった。現金なものだ。俺たちは32歳だから、独身の女子は同窓会にひとやま当てに来ている可能性もある。
「服部君は何の仕事をしているの」
「まあ、色々だね」
「色々な事業をしてるのね」
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中学生のときに片思いをしていたケイコが送って欲しいというので、ふたりでタクシーに乗った。かなり酔っているケイコは昔から俺のことが好きだったのだと話し始めた。俺はノーチラスの効果だと思ったが、もし本当の気持ちだったらうれしいと男特有の馬鹿さ加減で思った。ケイコが部屋に上がっていけというので言うとおりにした。こぎれいに片付いている。お恥ずかしい話だが、30を過ぎているというのに、深夜に女性の一人暮らしの部屋に入るのは初めてだった。
「服部君、カズくん。この部屋に男の人が来るの、初めてなんだ」
神様、今、ケイコは本当のことを言っているんでしょうか。それともノーチラスでしょうか。
突然、玄関のチャイムが鳴る。続いてドンドンと扉を叩く音が聞こえた。
「ケイコ、いるんだろ。俺だよ俺。開けてくれ」
多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。