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海を見ると、そう言う:博士の普通の愛情
サヤカさんは以前の職場での同僚。一年先輩だったので色々と仕事を教わった思い出がある。僕が入社して4年くらいしたときに結婚して退職し、そこからは何の連絡もとっていなかった。社長が若い会社だからか、割とクールな職場環境だ。皆で飲みに行くなんてことはなかったし、古い会社にありがちな、休日まで仕事のメンバーと遊ぶなどは考えられなかった。僕にとっては働きやすいのだが個人的な連絡先を知らない社員ばかりだから、会社を辞めるとそれきりになることが普通だった。サヤカさんもそのひとり。
5月のある休日、須磨海浜公園の駅前を歩いているとサヤカさんに会った。マスクをした背の高い人がこちらに向かって歩いてきたが、見えている目の部分が笑っているように感じた。
「久しぶり。元気ですか」
僕の目の前に立ち止まるとマスクを取り、彼女はそう言った。懐かしいサヤカさんの声。言われないとわからないくらいほんの少しだけどハスキーな声が僕は好きだった。
「驚きましたよ。会社を辞めたとき以来ですね」
「うん。モリタくん元気そうでよかったです」
彼女の声以外に好きなところがもうひとつあった。不思議な距離感の語尾。敬語なのか親しみを込めた話し方なのかが微妙に揺らぐ。4年間一緒に仕事をしていたが、その話し方はずっと同じだった。
「サヤカさん、今も神戸ですか」
「職場が東京だからそっちで暮らしてる。ゴールデンウィークで実家に戻ってきてるんだけど、この辺はあの頃とあまり変わってないね」
「はい。久しぶりにサヤカさんに会えてうれしいです」
「私も。さっき帰って来たところで、もしかしたら誰かに会うかもしれないと思っていたんだけど、それがモリタくんでびっくりしましたよ」
「どうしてびっくりなんですか」
「モリタくん以外の社員はほとんどおぼえてないから。向こうから声をかけられても思い出せなかったかもね」
会社の中で僕のことだけはおぼえていてくれたという言葉に浮かれた。
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多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。