翼を授けない:博士の普通の愛情
ミカが、スマホでInstagramの画面を見ながら話していた。
「ユウコの知り合い、昨日から外国に出張なんだね」
彼は40代の独身サラリーマンで、ユウコとはまだ恋人とは言えないが仲のいい友人だという。
「うん。ジョージアだっけな、なんか仕事で行ってる」
「ジョージアって、どっちの」
「どっちって」
「アメリカか、旧グルジアかってこと」
「そんなのあるんだ、知らない」
「ちょっとはニュースとか見たほうがいいよ」
「はーい」
独身仲間であるユウコに結婚して欲しくない。ミカは容姿や仕事などは自分のほうが上だという自負があったから、先を越されないようにユウコの周囲にいる人々をつねに気にしていた。
「ねえ、出張なんでしょ」
「そうだよ」
「どんな会社に勤めてんの」
「よくわかんない」
「あんたさ、もし結婚するとなったらそういうの大事だよ」
「そうなのかなあ」
「給料、聞いたことあるの」
「ないに決まってるよ、だって個人のプライバシーじゃん」
「まったく。それだからダメなんだよ」
「ええ」
「将来はあんたの財布と一緒になるんだから」
「私は聞けないなあ」
「いつまで経っても子どもみたいで、ダメね」
ミカも境遇は同じで「ダメ」ではあるのだが。
多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。