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引っ越しの多い海水:Anizine(無料記事)
海は地球に一つしかありませんが、地中海や瀬戸内海など、それぞれに特別な敬意を持った歴史のある名前がつけられています。「ティレニア海」という名前を聞いてもよくわかりませんが、実は私が過去に何度も目にしたことがある思い出の場所でした。
塩の混ざったあの水は、世界中の海岸を撫で巡りながら、辿り着いた場所で風に吹かれ、月の引力に翻弄され、輝く白い波となって、眺める人からその土地の名で呼ばれます。海は、どこから来てどこへ行くでもなく漂い続けているのです。
例えばよく聞く話ですが、海からコップ一杯の水をすくい、再び海へ戻して、海全体を均等にかき混ぜてからもう一度コップですくうと、最初にすくった水の分子が「約700個」ほどコップの中に含まれているのだそうです。(計算方法によって若干の違いはあるでしょうが)。
この事実はとても不思議に感じます。地球上に存在する140京トンもの海水は、たったコップ一杯分だけを取り出そうとしても、決して切り離されることなく一つにつながっていることをやめないのです。
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ここから少しロマンティックなことを申し上げます。
私がティレニア海や片瀬海岸で触れた水は、実はすべて同じものでした。違う海の姿を見ているつもりでしたが、どこも同じひとつの海だったのです。鳥羽一郎さんが歌う日本海の情念も、カリブ海やエーゲ海の陽気なカリプソも、成分としては同じ「引っ越しの多い海水」でした。
水上の格闘技・競艇のような言い方ですが、世界は一つであり、兄弟であり、火の用心でつながっています。だからこそ、この世界のあらゆる存在に対して、自分や自分の愛する人に向けるのと同じ塩分濃度の「愛」を感じるべきなのです。
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多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。