不倫ボックス:博士の普通の愛情
「恋愛の話って、本当にバリエーションがないんだよ」
友人のタクロウはそう言ったが、教えてもらわなくてもそんなことくらい知っている。どんなに特殊で個人的と思われる恋愛の悩みも、無印良品の透明ボックスが4つくらいあれば、全部すっきり仕分けして整頓することができる。
タクロウはある女性との物語を聞かせてくれた。不倫だという。僕はもう「不倫」とテプラが貼られた透明ボックスの蓋を開けて待ち構えている。
ある日曜日の午後、タクロウは郊外のショッピングモールで取引先の女性と偶然会った。控えめな雰囲気で会議の場ではあまり発言をしない人だったから、かろうじて顔を覚えていたくらいだ。仮にその女性の名前をアキさんとしておく。タクロウが駐車場に車を停めていると窓ガラスをコンコンとノックされた。停めてはいけない場所だったのだろうかと思ったが、どこかで見た顔がメジャーリーグのベースボールキャップを被っていた。エンジンを切ったり鞄を持ったりして時間を稼いでからウィンドウを開ける。思い出した。取引先の女性だ。
多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。