ミッドナイト・ツルッパゲ
リスナーの皆さんこんばんは。ロバート・ツルッパゲです。今日は花冷えというのか、少し肌寒いくらいの金曜日でしたね。昨日は中野に行ったのですが、タクシーの中からたまたま撮影した写真に、台北で知り合った台湾人女性が写っていたので驚きました。東京にはこれだけ人がいるのに、不思議なことだなと感じました。さて、最初のお便りは青森県むつ市の「えんにん」さんからです。
ロバート、こんばんは。いつもあなたの声を遠くから聴いています。「えんにん」と言います。私は人よりも耳が敏感なのです。聴きたいことに集中するとどんな音でも聞こえます。たとえば、家の中にいるときでも隣の家の子どもが帰宅したとわかり、玄関先で親と話している会話の内容まで聞こえるのです。隣家との距離は500メートルくらいです。家族や友だちにそのことは言っていません。言ってしまうと「自分たちが話していることが聞かれている」と思われるからです。実際、両親が寝室で話している会話も普通に聞こえます。「お姉ちゃんは出来がいいが、あの子はダメだね」と言っているのが聞こえてショックを受けたこともあります。お姉ちゃんはふたつ年上で勉強もできるし、美人でした。
小学4年の夏休み、全校生徒が参加する臨海学校に行きました。とは言っても田舎の分校ですので全部で17人しかいません。海の近くの旅館に泊まり、泳いだり貝を拾ったりして遊びました。2日目の昼、砂浜で6年生の数人が騒いでいました。「えんにん、先生が呼んでる」と言われ、先生が待つ部屋に向かいました。海岸で遊んでいた6年生が旅館に戻ってきたが、姉だけ帰って来ないというのです。もしかしたら波にさらわれた可能性もあるので先生たちは最初に地元の自警団に連絡しましたが、周囲を探しても見つからないため、ついに警察を呼びました。パトカーが数台やってきて、けたたましいサイレンの音に私の頭は割れそうでした。こんなに大きい音を鳴らされたら、お姉ちゃんの弱々しい声が聞こえなくなる。
そうです。私には数時間前からお姉ちゃんの「助けて」という声が聞こえていたのです。お姉ちゃんは海岸の洞窟の奥で遊んでいましたが、満潮になり、引き返すことができなくなっていたのです。「助けて、助けて、えんにん」という声が聞こえたとき、私はこのままお姉ちゃんが海に沈んでしまえば両親は私のことを可愛がるだろうと思いました。洞窟は水かさを増し、全体が水に浸かっています。お姉ちゃんの声がやっと聞こえなくなったとき、私は警官に「お姉ちゃんはあっちの洞窟に行くと言っていた」と指をさして伝えました。すぐにダイバーが姉の遺体を発見し、先生が両親に報告しました。数時間後、クルマでやってきた両親は私を抱きかかえて泣き叫んでいましたが、私は心の中で、これで両親の愛情は私のものだ、と笑っていました。こんな私にマイアミバイスをください。
というお便りでした。「えんにん」さん、あなたには救いが必要ですね。マイアミバイスどころではありません。青森県むつ市と言えば、恐山があるところですね。ラジオネームは恐山菩提寺の開祖「慈覚大師円仁」からとっているのでしょう。ミッドナイト・ツルッパゲで扱うにはジャンル違いのお便りで、正直なところ深夜に聞きたくはありませんでした。私ができるのはお姉さんのご冥福を祈ることだけですが、えんにんさんは大人になるまで、自分への注意を引くために、おそらく他にも同じようなことを何度もしているのではないかと推測します。あなたに魂の救いを。
曲にいきましょう。Xavier Wulf で『Psycho Pass』です。
(スタッフに)
こんなハガキ、選ぶなよ。