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ポジショントーク:Anizine

自分が今いる立場を正解として語るのをポジショントークと言いますが、それは当然のことで、誰でも自分が想定できる範囲のことしか言えないものです。そこで大事なのは「正解」だと言わないことで、自分は多くの人々の中のひとつのサンプルでしかないと理解することです。尊大にならなくていいし、卑下する必要もありません。それしか生きる方法がないんですから。

自尊心というのは厄介で、どうしても「自分は正しい」と言いたくなるのが人情というものでしょう。そういうとき私はいつも小学生の自分を思い描きます。本を読んで初めて知ったことを言いたくなる、クラスで自分だけしか持っていない玩具を自慢したくなる。それらはすべて小学生の行動です。

大人になるとは視力が良くなることであり、広い世界には自分よりもっと能力が高く優れた人がいるのだ、と知る能力を育むことが大切です。狭い世界に生きてそれを知らない(知ろうとしない)と、自分だけが優れていると勘違いします。

私は20代の前半に個人事務所で働いていました。デザイナーは私ひとりでしたから、そこでの仕事は全部私がやっていました。しばらくするうちに「これは自分に頼まれた仕事ではなく、自分しかいないからやっているのだ」と気づきました。そこで同年代のデザイナーがたくさんいる会社に行きたいと社長に相談したところ、「それはいいね、行きなさい」と背中を押してもらいました。次のプロダクションにはデザイナーやアートディレクターが数十人いて、この仕事は誰にやらせようか、とプロデューサーが決める競争の場に参加できました。

そして、自分にはどんな能力があって、他人と比較すると何が足りないのかを客観的に知ることができました。こころよく送り出してくれた前の会社には感謝しかありません。優秀なデザイナーが多かったプロダクションで理解した自分の能力の客観値はとても低かったのですが、冷蔵庫の残り物でいかに美味しい料理を作れるか、みたいな技術だけで生きてきました。これはもうどうしようもないことで、背が高いとか足が速いとかいうのと同じことです。生まれ持った才能はあとからどうにもなりませんから、背が低いと嘆いていないで、ジャンプ力を鍛えて他の選手と同じ高さまで飛べるようにするしかないのです。

さて、ここからが本題です。

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Anizine

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写真家・アートディレクター、ワタナベアニのzine。

多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。