0902_本日の8枚:写真の部屋(無料記事)
ここには毎日撮っている、どこにも使うことのない「用途なき写真」を載せています。
仕事で撮影をしていると、撮るのは目的が決まったほんの数カットですが、どこかに遊びに行って趣味の写真を撮っているとついたくさん撮ってしまいます。しかしこれらが腹筋運動や素振りのように、いつか仕事に役立つ基礎訓練になっているのだと思います。
適当に撮ると言っても頭の中では色々なことを考えています。このどうでもいい写真は「4枚のレイヤー」で構成されています。一番手前の女性、信号機、おじさん、そして背景です。女性は立ち止まっているので、自分が立つ位置によって必然的に、女性、信号機、背景の3点を結んだラインが作られます。そこにおじさんが左側からフレームインしてきますが、画面の中でベストポジションだと思う位置を想定しておき、そこに来たときにシャッターを押します。こういった一連の判断は、0.8秒くらいでやらないと信号が変わって女性が歩き出したりするので、とにかく素早く。画面も傾けています。
ホテルを出ていつも通る道に、以前はお店だったような空っぽのスペースがあります。そこを歩く人には光が当たり、奥は暗いという、いい雰囲気の場所です。このおじさんは背景と同じ明るさのエリアに入り込んでしまっているのでフラットになって、あまり面白くありません。
手前の直射日光が当たる場所に人がいると、相対的に背景が暗く落ちるので面白くなります。スタジオで言うなら背景に光が当たっていない状況です。このように人物と背景をレイヤーとして別のものとして考えると、変化が生まれます。海岸や草原で撮る、空抜けや単純な一枚レイヤーの背景がうまくいったように感じるのは「処理すべき情報操作」が少ないからです。
こういうシルエットの写真は人物と背景の関係が単純なので、できることと言えば絞りを変化させてどれくらい背景を表現するか、くらいでしょう。この人はおそらく身長が160cmくらいだったと思いますが、背景を道路にするために私のカメラは高目から下に向けて撮っています。レイヤーの処理には角度も使います。
反対に、カメラポジションを下げる方法もあります。この場合、人物とエスカレーターの関係はカメラの位置が決めるからです。
歩いている視点から撮るとこうなります。ここで、より高い位置から撮るのか、ポジションを下げるのかは、写真の意図に関係してきます。写っている人やモノをどういう感情で見せたいかに関わってくるからです。これも普通の速度で歩きながら、0.5秒くらいで決めることになります。
写真の内容ですが、私は「使いっ走り」をさせられている人を見るのが好きです。もちろんこの人が自発的に買っているのかもしれませんが、なんとなく「自分以外のもうひとつ」を持っていると、パシリであれ、愛情であれ、物語に深みが出る気がしてきます。自分用の飲み物をひとつだけ持っているのは「情報」にはなりません。制服を着ているところもポイントが高いですね。
で、最後はサングラスをかけた小学生ですが、こちらの子供たちは割とサングラスをかけていることが多く、あまり東京では見かけない光景です。という私の心の動きは、「東京と違って珍しい」という発見のみをメモしただけになっていますから、写真としては0点です。旅先に行くとこういった写真を量産しがちです。それについての詳しい話は『カメラは、撮る人を写しているんだ。』の中に書きましたので、未読の方がいらしたら是非。
定期購読マガジン『写真の部屋』では、いつもこういうことを書いています。月額1000円くらいかなと思ったかもしれませんが、500円です。
多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。