父のピアノ:博士の普通の愛情
家に帰ると、珍しく弟の妻が来ていた。いつものことだが弟は仕事が忙しいとのことで彼女がひとりであいさつに来たのだという。忙しいのは誰だって同じ、私は家族をないがしろにする弟のことが好きではなかった。大人としての常識をわきまえなくてもいいと許しが出るのなら、「嫌いだ」とはっきり言いたいくらいだ。彼は子どもの頃から大人の顔色をうかがう嫌なガキだった。大人はそれに気づかないが、子ども同士にはわかる。都内の商社に勤めていて子どもはおらず、彼の妻もまた好きではなかった。弟と同類の動物であ