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『ガルパン』の大洗から学ぶ:聖地巡礼ビジネスの基本

皆さんは、アニメ作品の聖地巡礼をやってみたことはありますか?

2007年に放送された『らき☆すた』を皮切りに、日本の特定の地域を舞台にしたアニメが増えています。最近だと愛知県豊橋市を舞台にした『負けイン』や下北沢の『ぼざろ』が有名かもしれません。

これは「アニメツーリズム」と呼ばれる観光業の一環として捉えることが可能です。

内閣官房の調査によれば、2016年に聖地巡礼に訪れた訪日外国人は115万人、潜在的な聖地巡礼者の需要は260万人と見込まれ、4,000億円の国内消費支出が期待されています。

つまり、アニメ作品が地方創生に繋がる可能性が高いということです。

私も、日本国内を旅していたときに各地のアニメ聖地を巡礼してきましたが、地方創生に成功している地域とそうでない地域の二極化が進んでいたのが現実でした。「アニメ聖地=成功」というわけではないのです。

そして私が思うに、聖地巡礼ビジネスでもっともロールモデルに適していると感じたのが『ガルパン』を擁する茨城県大洗町でした。

私自身、大洗には2年半の間に4回も赴いていまして、それだけ魅力があるということなのだと思います。

そこで本記事では、『ガルパン』の大洗から聖地巡礼ビジネスの成功法則を考察したいと思います。

『ガルパン』とは?

まず、わからない人のために『ガルパン』について解説します。

『ガルパン』は『ガールズ&パンツァー』のことで、ストーリーの内容を一言で言えば「JKが戦車に乗ってバトルする」です。

ただし、登場人物が命を落とすハードボイルドな作品ではありません。本作の世界では、柔道や剣道のように「戦車道」と呼ばれる「道」が存在するのです。そう考えると『ガルパン』はミリタリー系でありながらスポ根作品という解釈もできます。

一応、ビジネス目線で言うと、『ガルパン』は事実上、バンナムによって制作されたアニメです。

アニメ制作を担当するアクタスは、バンダイナムコフィルムワークスの完全子会社。音楽制作を手掛けるランティスも、バンダイナムコのレコードレーベルです。

『ガルパン』はキャラが多い

『ガルパン』の特徴として、めちゃくちゃキャラが多いことが挙げられます。

主人公が所属する大洗女子学園だけでも37人、ほかのライバル校でも相当のキャラがいます。

結構マニアック

それと、これは実際に見ればわかるのですが、ミリタリーの部分は相当にマニアックです。ちゃんと歴史を抑えているし、寸法もちゃんと把握して、それに合わせたトリッキーな戦いぶりも見せてくれます。

萌えアニメが好きな人はもちろんのこと、ミリタリーオタクにも楽しめる作品に仕上がっています。

それどころか一般層にも好評で、というのもバトルシーンが知的で面白いからです。

茨城県大洗町の基礎知識

続いては、『ガルパン』の聖地にもなった茨城県大洗町の基礎知識も抑えておきましょう。

まず大洗町は、茨城県の県庁所在地・水戸市から電車で15分ほどのアクセスです。

上野駅からであれば、特急の利用で1時間半ほどで到着します。そのため、都心からの日帰り旅行も十分に可能です。

また、大洗町は海沿いに位置していることから、北関東有数の海水浴の名所として、『ガルパン』が放送される前から年間約400万人の観光客が訪れていました。

それに加えて、新鮮な海鮮も獲れて、特に冬のあんこうは有名です。

『ガルパン』の経済効果

『ガルパン』が大洗にもたらした経済効果に関する最新データは見つかりませんでしたが、放送直後やふるさと納税に関する記事をいくつか見かけました。

まず、野村総合研究所の調査によれば、2013年4月から2014年3月で『ガルパン』の聖地巡礼を目的に訪れた観光客は15.9万人で、経済効果(直接効果)は年間7.21億円だとされています。

また、2012年11月の「大洗あんこう祭り」は、例年の来場者数が3.5万人程度だったのが6万人近くまで増加。2019年はなんと約14万人もの来場者数を集めることに成功します。

それと茨城新聞によると、2015年11月まで1,000万円程度だったふるさと納税の寄付金が、同年12月になって急に1.6億円の申し込みが発生したことが報じられました。当時、12月に入ってから『ガルパン』のグッズが返礼品に追加され、それ目当てで申し込みが大量発生したと考えられています。

『ガルパン』の大洗から学ぶ聖地巡礼ビジネスの基本

さて、ここからは『ガルパン』の大洗から学ぶ聖地巡礼ビジネスの基本について紹介していきます。

聖地巡礼ビジネスは、作品を作る前から始まっている

まず第一に、聖地巡礼ビジネスは作品が放送される前どころから、作品を作る前から始まっていることを理解する必要があります。

例えば『ガルパン』の場合、作中に実在する料理店や観光スポットが多く登場しますが、もちろん、この際には許諾を取る必要があります。それに加えて、大洗を忠実に再現するためにも、入念なロケハンも欠かせません。

一方で、このようなロケハン活動は、申請書やアポ取りで煩雑な手間がかかります。そこで一部の地方自治体ではフィルムコミッションと呼ばれる公的団体が設置され、ロケハンの調整をスムーズに行えるように準備している場合があります。

大洗にフィルムコミッションはありませんが、茨城県でフィルムコミッションが設置されています。

そして『ガルパン』の場合は、Oaraiクリエイティブ・マネジメントという地元企業と協力することで、ロケハンをスムーズに実施できるようになったようです。

まずは小さく始める

実際に大洗に赴くと目につくのが、キャラクターパネルです。『ガルパン』はキャラクターがめちゃくちゃ多いのですが、それらのキャラクターが全部パネルになって、大洗のあちこちに設置されているのです。それどころか、『ガルパン』に登場する戦車も全てパネルになっているため、おそらく枚数は100枚を超えるはずです。

もし、これらのパネルを全て見ようと思ったら、大洗の隅々まで探索しなければなりません。これが、大洗町内の回遊率向上に大きく寄与します。

そして実のところ、キャラクターパネルの制作に大した費用は発生しません。例えばパネルプラスというサービスでは、等身大パネルを5,370円〜製作できます。

それに加えて、キャラクターパネルは1回設置すれば、あとはほったらかしでいいので、運用コストはゼロです。

聖地巡礼に訪れた人向けに、キャラクターパネルでお出迎えする。この聖地巡礼の基本中の基本ともいえる低コストプロジェクトからスタートして、様子を伺います。

そしてイベントでドカンとやる

大洗は、いつも盛大に賑わっているわけではありません。私が初めて大洗に訪れたのは2022年5月のことでしたが、その時期は何かイベントをやっていたわけでもなかったので、ぶっちゃけ閑散としていました。

私が大洗に5日間滞在していて、『ガルパン』の聖地巡礼っぽい観光客を見かけたのは10人ぐらいだと思います。

一方で、イベントのときは盛大に賑わいます。

大洗には「3大イベント」として「商工感謝祭&大洗あんこう祭り」「大洗春まつり海楽フェスタ」「大洗会場花火大会」があります。

特に「あんこう祭り」と「海楽フェスタ」は、『ガルパン』が盛大に絡むことが多いため、街中が『ガルパン』オタクで溢れるのです。

2023年の「あんこう祭り」は2日間で約10万人、2024年の「海楽フェスタ」は約4万人が訪れます。いつもはゆっくり買い物できる『大洗ガルパンギャラリー』も、イベント時には行列ができるほどです。

もうお分かりかと思いますが、これらの祭りに参加しようと思った時点で、リピートを稼ぐことができます。

私が大洗に4回赴いた理由も、初めて大洗に赴いた際に「3大イベント」の存在を知り、それに全て参加したためです。さすがに4回も大洗に訪れていると、大洗の本来の強みである「海鮮」に魅力を感じるようになり、『ガルパン』好きから大洗好きにシフトしていきます。

実際、大洗の人々のイベントに対するコミットは尋常ではありません。2013年に開催された「海楽フェスタ」では、陸上自衛隊と協力して、現役の「74式戦車」が展示されたのです。

このように、普段はキャラクターパネルでコストを抑え、イベントでドカンとやるのが、聖地巡礼ビジネスの基本だと思います。実際、上手くいっているアニメ聖地の大半は、何かしらの「イベント」があります。

『氷菓』の高山祭や『花咲くいろは』の湯涌ぼんぼん祭りなどです。

キャラクターのバースデーイベント

これは『ガルパン』特有の現象だと思うのですが、『ガルパン』の人気キャラのバースデーイベントが、毎年のように開催されます。

また、クリスマス恒例イベントとして『ガルパン 秘密の部屋』というものがありまして、こちらは参加費が16,800円と中々高額なのですが、全て埋まります。

もちろん、何万人と集まるわけではないのですが、数十人から数百人集められるだけでも、イベントとしては十分に成功していると言えます。

このような小規模イベントの定期的な開催も、リピート率向上に寄与すると考えられます。

『ガルパン』が未完結なのも大きい

2012年に放送された『ガルパン』ですが、未だに完結していません。

現在、『ガルパン』は最終章を劇場版で展開しており、現在は『第4話(全部で6話あるらしい)』まで公開されていますが、このペースだと完結は2027年ごろになるでしょう。

そのため、『ガルパン』の熱が冷え切ることなく、大洗の方は積極的にイベントを開催しているため、リピーターが継続的に大洗に訪れるのです。

イベント開催は交流にもつながる

オタクたちのライフスタイルを深堀りして見ていくと、彼らはコミケやアニソンライブなどのリアルイベント時に対面で会うことが多いようです。

そして『ガルパン』のイベントも、ある意味で『ガルパン』ファンの交流の場になっていることが珍しくありません。それも、大洗の美味しいグルメとビールを楽しみながら。これが、実に中毒性があるのです。

マネタイズポイントがちゃんと設置されている

アニメビジネスの最大のマネタイズポイントは「グッズ」です。

そう考えると、アニメ聖地にグッズ専門店を設置しておくのは必須だと言えます。

大洗の場合、シーサイドステーションに『大洗ガルパンギャラリー』というガルパングッズ専門店があり、大洗に訪れたファンはここで散財できます。

ここでしか買えないグッズも多いため、私も大洗に訪れるたびにキーホルダーやTシャツを購入しています。

また、あんこう祭りや海楽フェスタが開催されるときは、物販イベント「ガルパンミニミニホビーショー」も実施されます。

アニメ聖地にグッズ専門店を設置する。こんなの当たり前だろと思うかもしれませんが、意外にも実践できているアニメ聖地は多くありません。

例えば『けいおん!』の豊郷小学校旧校舎群には、この世に存在する『けいおん!』グッズがほぼ全て展示されているスポットがあるのですが、それを購入することはできません。

私は日本各地のアニメ聖地に赴いてきたと自負していますが、『ガルパン』ほどショッピングを楽しめるスポットは皆無です。

せめて聖地限定のキーホルダーやTシャツぐらいは、販売してもいいのではないかと個人的に思います。

【編集後記】聖地巡礼のワクワク感

旅行は、ワクワクするものでなければなりません。

例えば、沖縄とか北海道とか韓国とか言ったら、余程行き慣れてない人でもない限り、基本的にはワクワクします。なぜなら、そこには私たちの日常からかけ離れた非日常が広がっているからです。

アニメツーリズムという旅行形態は、非日常である「アニメ」と非日常である「旅行」がかけ合わさったものですが、実際に赴くと、あまりにも寂れていて、逆に「凡庸」に感じられることが珍しくありません。

せっかく聖地巡礼するのであれば、もっと非日常を味わいたいと思うのは、当たり前だと思います。

では、どのようにして非日常を提供できるのか。その最も簡単な方法がイベントです。

おそらく「大洗あんこう祭り」や「海楽フェスタ」は、現地の人々にとっても「非日常」のはずで、だからワクワクして当たり前なのです。

そう言えば空港も、旅行を楽しんでいる人が集まっている「非日常的な場所」なので、だから空港に行くだけでワクワクする。そういった空間を作り出すのが、アニメ聖地の仕事なのかもしれません。

その点で言えば、町中にキャラクターパネルが設置されている『ガルパン』は、かなり非日常的だと言えるかもしれませんね。

私自身、何度も大洗に訪れていますが、大洗駅前の横幅広めの道路を見るたびに、心がワクワクしてしまうのです。

さいごに、大洗で撮影した写真を何枚か取り上げます。

次のあんこう祭りは、来週の2024年11月17日です!

ぜひ大洗に足を運んでみてください!

ANITABIのX:@anitabi_news
Written By 星島てる

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