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a16zの記事「アニメが世界を喰らう」をじっくり読み解いてみた

2024年9月26日、世界最強と呼ばれるベンチャーキャピタル「a16z」がAnime is Eating the Worldという題名の記事を投稿しました。

それに続いて、NewsPicksがアニメ業界についてのちょっとした連載を開始するようです。

世界最強のベンチャーキャピタルが「日本のアニメは可能性大アリ!」と言っているのですから、アニメ好きの方からしたら、なんだか嬉しくなってしまいます。

Anime is Eating the World……

「アニメが世界を喰らう」と言い放ったa16zは、日本アニメのどのような部分に可能性を感じたのでしょうか?

そこで今回は、英語が原文の「Anime is Eating the World」を日本語に翻訳しながら、a16zが日本のアニメにどのようなポテンシャルを感じたのかを、じっくり紐解いていきます。

そもそもa16zとは?

a16zは「Andreessen Horowitz(アンドリーセン・ホロウィッツ)」の略称です。頭文字の”A”から末尾の”Z”までに16文字あることから、a16zという略称を名付けたようです。

a16zは、マーク・アンドリーセンとベン・ホロウィッツによって創業されたベンチャーキャピタルです。

ベンチャーキャピタルは、ハイリターンを狙ったハイリスクな投資を行う投資ファンドのことです。

2009年に設立されてから、Meta(旧:Facebook)、Slack、Airbnb、Githubなどの名だたる企業への投資実績を有しています。

a16zが「世界最強のベンチャーキャピタル」と言われる所以はシンプルで、「a16zが投資した企業は、必ず成功する」と言われているためです。

a16zが優れているところは、主に2つあります。

1つめは、販売やマーケティングなど、投資”後”の支援が強力なことです。従来のベンチャーキャピタルは、資金力がものを言っていましたが、a16zは経営に必要な人材を提供することで、差別化しています。

2つめは、産業のメガトレンドを見極める力があることです。少なくとも、この10年でa16zは成功しています。

それに加えて、a16zは積極的に情報発信することでも有名です。今回の「Anime is Eating the World」のように、今後伸びるであろう領域を、遠慮なしで情報発信します。

「アニメが世界を喰らう」の元ネタ

「アニメが世界を喰らう」は、実は元ネタがあります。

2011年にマーク・アンドリーセンが投稿したWhy Software Is Eating the Worldです。

アンドリーセンはこの記事で「あらゆる産業がソフトウェア企業に置き換わり、ソフトウェアを使いこなせない企業は淘汰されていく」を指摘。今となってはほとんど現実になっています。

この記事は、シリコンバレーだけでなく世界中の経営者・エンジニアに大きな影響を与えましたが、これを元ネタにしたのが「Anime is Eating the World」なのです。

Anime is Eating the World

ここからは「Anime is Eating the World」を読み解いていきます。

Anime Market Map

『Anime is Eating the World』より引用

アニメファンの典型的なライフサイクルは、まず優れたIPを通してフォーマットに触れることから始まります。たとえば、『進撃の巨人』のアニメや『ONE PIECE』の実写ドラマ、またはmiHoYoのゲームなどです。その後、ユーザー生成コンテンツ(UGC)、VTubing、コミュニティ形成、コスプレなど、新しい形での社会的・創造的な関わりを通じてファンとしての深まりが進みます。私たちが最も注目しているのは、アニメとの関わり方がここ数年で受動的なものから対話的なものに進化している点です。この進化は、いくつかの軸に沿って進んでいます。

AIコンパニオンは、古典的なビジュアルノベルの進化形であり、アニメキャラクターやIPにおいて最も人気があります。これは、ロールプレイの主要な形式のひとつとして急速に台頭しています。
・RobloxのようなUGCプラットフォームでは、アニメファンが人気アニメのゲームを自分なりに再現することがこれまで以上に簡単になりました。ファンは、自ら定義する遊びを通して創造性を発揮できます。
アニメスタジオは、新しいAI技術を採用して、より速く、コストを抑えてコンテンツを制作すると同時に、AIネイティブのキャラクターとのやりとりによる新たなコアループを試行しています。
VTubingは、ファンが自分の好きなキャラクターとして役割を演じることを可能にし、新たな社会的・疑似社会的関係を通して、何百万人ものアニメファンとの交流を変革しました。

『Anime is Eating the World』をChatGPTで翻訳

a16zが最も強調しているのは「アニメが受動的なものから対話的なものに進化している」という点です。

そして、この進化にはAIコンパニオン」「UGCプラットフォーム」「AI技術によるアニメ制作の民主化」「VTubingの4つの軸があると指摘しています。

元々、a16zはインターネット黎明期に活躍していたマーク・アンドリーセンとベン・ホロウィッツによって創業されたベンチャーキャピタルです。

当時、インターネット業界では「Web2.0」というワードが流行っていました。

「Web1.0」は情報の流れが一方通行なWebの時代です。インターネット黎明期では、メールで対話することは可能であったものの、基本的にインターネット上では、Webサイトから一方通行的に情報が伝達されていました。

2000年代中盤からは「Web2.0」が登場します。「Web2.0」は情報の流れが双方向的なWebの時代で、その代表例がSNSです。SNSの登場により、私たちはインターネットを通じて世界中の人々とやり取りできるようになりました。もうみなさんご存知ですが、SNSの登場は、世界を大きく変えています。

そしてこれと同じような流れが、アニメにも起きようとしているのではないか?
というのがa16zの指摘です。

A Quick History of Anime

アニメは、日本発の独特なアートスタイルで知られるアニメーションのジャンルであり、明るくカラフルなグラフィック、強調された輪郭、大きく誇張された目と特徴、そして鮮やかな髪色が特徴です。1900年代初頭の視覚的なストリップ漫画に始まり、1960年代から70年代にかけて『鉄腕アトム』や『ルパン三世』『AKIRA』『機動戦士ガンダム』、そしてスタジオジブリでの宮崎駿の作品などによって人気が高まりました。2000年代には『ナルト』や『ONE PIECE』、そして最近では『進撃の巨人』などの人気少年アニメを通じてメインストリームに進出しました。いまや、スポーツ選手が『進撃の巨人』の敬礼を真似して祝う場面や、インターネット上に溢れるポップカルチャーのミームでアニメが登場することも珍しくありません。

現在、アニメの人気はかつてないほど高まっています。Crunchyrollは、2020年から2022年の間に視聴者数が倍増し、全世界で3億人以上のファンがいると推定しています。Netflixも2022年に、全世界の契約者の半数以上がプラットフォームで何らかのアニメコンテンツを視聴したと報告しました。Discordの世界トップ4のサーバーはすべてアニメ関連です。また、アニメは幅広い観客層に対応しており、例えば大人向けの『MONSTER』のような青年アニメ、アクション重視の『鬼滅の刃』や『ナルト』といった少年アニメ、女性向けの『桜蘭高校ホスト部』や、内省的なスライスオブライフ作品『蟲師』などがあります。このように多様な魅力を持つため、長年にわたりさまざまなファン層がアニメに強い愛着を持つようになりました。この愛着は、最近ではAIワイフやAIハズバンドといったAI活用の一大人気用途へと発展しています。

『Anime is Eating the World』をChatGPTで翻訳

この歴史解説は、細かいところを除けば、おおよそ間違っていないでしょう。

The Rise of AI Waifus / Husbandos(AIワイフ/ハズバンドの台頭)

まずは、一般的なスラングを説明します。「ワイフ」や「ハズバンド」とは、ファンが感情的、または恋愛的な愛着を感じる架空の女性や男性キャラクターのことです。これは一見珍しい現象に思えるかもしれませんが、Polygonの調査によれば、アニメ視聴者の44%がアニメキャラクターに恋愛感情を抱いたと回答しています。「残りの56%は嘘をついている」というジョークも添えられているほどです。アニメファンはグッズやファンアート、コンベンション、コスプレなどを通じて熱心にファン活動を行う傾向があり(調査では66%が何らかのファンアートを制作していると報告)、キャラクターへの深い愛着を持つのは不思議ではありません。例えば、ロサンゼルスで開催されるAnime Expoには毎年数十万人のファンが集まり、a16zのチームも例外ではありません。

『Anime is Eating the World』をChatGPTで翻訳

ここは、米国のアニメ事情を理解したいのであれば、絶対に抑えておきたいポイントです。

日本では「推し」とか「俺の嫁」と呼ばれているものは、英語圏ではWaifus(ワイフ)」Husbandos(ハズバンド)」と呼ばれます。

Polygonの調査によれば、アニメ視聴者の44%が恋愛感情を抱いており、アニメファンは様々なイベントを通して、キャラクターへの深い愛着を持つようになるそうです。

『Anime is Eating the World』より引用

ワイフ/ハズバンド文化はビジュアルノベルから派生しており、AIコンパニオンはこれらのアニメ風のストーリーブックゲームの論理的な進化形です。元々、ビジュアルノベルは連載形式の本で、間にアニメ風のイラストが挿入されていましたが、現在はデジタル版が一般的で、プレイヤーが主役となってストーリーの展開に影響を与えることができます。分岐する物語の中で、プレイヤーは物語を進め、他の男性/女性キャラクターとの恋愛関係を選ぶこともできます。これは比較的ニッチな市場であり(いくつかの情報によれば約1億5,000万ドル規模)、しかし業界に与える影響は非常に大きいです。例えば、Fate/Grand Orderは累計収益50億ドルを超える最も成功したガチャゲームのひとつですが、そのルーツはビジュアルノベル『Fate/stay night』にあります。

分岐する対話ツリーを持つビジュアルノベルの構造は、現代のAIコンパニオンの前身といえます。AIによる人間とのやり取りには、セラピスト、教師、アシスタントなどの実用的な用途が多く存在しますが、最も人気のあるものの一つが友人や恋愛の相手としての役割を果たすことです。例えば、character.aiでのトップキャラクターはすべて『原神』からであり、雷電将軍、八重神子、胡桃がそれぞれ3億9,000万、2億200万、1億1,300万メッセージと多くの利用者を抱えています(対照的にイーロン・マスクはわずか4,000万メッセージにとどまっています)。その他の人気キャラクターには、『呪術廻戦』の五条悟(6億3,800万メッセージ)や『進撃の巨人』のリヴァイ・アッカーマン(2億5,000万メッセージ)がいます。

『Anime is Eating the World』をChatGPTで翻訳

キャラクターとの双方向的なやり取りは、ライトノベルから派生しているとa16zは指摘します。

大まかな流れは「ライトノベル→恋愛アドベンチャーゲーム→バーチャルアイドル→ガチャ→AIワイフ」です。

受動的な媒体であるアニメとは異なり、ライトノベルや恋愛アドベンチャーゲームは、自らが主人公になり切って、作品の世界観を楽しむことができます。特に恋愛アドベンチャーゲームは、ヒロインと2人きりで話しているような感覚に陥ります。

また、恋愛アドベンチャーゲームにRPG要素と課金要素を強くしたのが、ガチャゲームです。ガチャゲームも、基本的にはノベルゲームが根底にあるため、やはりキャラクターと恋愛しているような感覚に陥ります。

多くの人気コンパニオンサイト(janitorai、chub.ai、spicychat.aiなど)には、学校のいじめっ子や過保護な姉妹、さらにはファーリーまで、さまざまなアニメキャラクターが人気のパーソナリティとして登場しています。また、アニメ専用のコンパニオンアプリもあります。例えば、crushon.aiは18歳以上向け、talkieaiは比較的仕事に適した内容を提供しており、HyperにはVTuber風のライブ表情エレメントが含まれています。moemateはコンパニオンを複数のブラウザで利用でき、チェスやチェッカーなどのゲームを一緒にプレイ可能です。一方、kajiwotoはプロンプトやデータセットのカスタマイズが可能で、サーバー上で他のユーザーと共有できます。

AIは、かつては一方的でリニアなメディアを通して築かれていたお気に入りのアニメキャラクターとの関係を、強力でインタラクティブなものへと深化させています。アニメがAIコンパニオンのジャンルとして強く共鳴する理由は、キャラクターへの愛着やロマンスが多くの優れたアニメ作品にすでに組み込まれているからです。トップのアニメゲームやビジュアルノベルの多くは、ロマンスの要素を含むロールプレイングゲームであり、ファンが自分の好きなIPやキャラクターと深い関わりを持ちたいと思うのは自然なことです。

『Anime is Eating the World』をChatGPTで翻訳

AIコンパニオンとは、人工知能を活用して会話機能やサポートを提供する「コンパニオン(仲間)」のことです。ChatGPTもAIコンパニオンの一種だと言えます。

そしてAIコンパニオンは、アニメとの相性が抜群で、その理由としてa16zは「キャラクターへの愛着やロマンスが、多くの優れたアニメ作品に既に組み込まれているから」と指摘しています。

確かに、ChatGPTのアイコンや口調が、自分の大好きなキャラになっただけで、相当な愛着を持てると思います。ChatGPTのアイコンや、Siriの音声が『俺ガイル』の由比ヶ浜結衣になったら最高です。

AIが進化するにつれ、やりとりはスクリプト化されず、多くのモダリティに対応するようになるでしょう。私たちはコンパニオンと音声やテキストで交流し、アニメーションやリアクションがリアルタイムで生成され、ゲームを一緒にプレイすることができ、過去の共有の履歴も長期的に記憶されるようになります。すでに、一部のスタートアップはコンテンツとの新しいインタラクションの可能性を探求しています。たとえば、Sekaiは、ユーザーとアニメキャラクターがファンフィクションのようなシナリオで登場する短編動画をAIで生成しています。また、いくつかのスタジオは『Love and Deep Space』(年間2億ドル以上の収益、SensorTowerによる)を彷彿とさせる乙女ゲームを開発しており、サイドクエスト、デート、ゲーム内の会話がAI生成される予定です。

『Anime is Eating the World』をChatGPTで翻訳

そしてa16zは、AIが進化するのに伴い、アニメキャラクターとの関係がより強化されることを指摘しています。

生成AIが進化すれば、テキスト以外にも、音声や映像でインタラクティブなやり取りが可能になるのは間違いありません。

具体的には、以下のようなことが可能になります。

  • リアルタイムでストーリーが変化するようになる

  • NPCの会話に生成AIが用いられ、実質無限大のパターンで会話できるようになる

  • サイドクエストがイベントが自動生成されるようになる

UGC Democratizes Creation for Anime Fans(UGCがアニメファンの創造を民主化する)

アニメは、ファンが自らコンテンツを創造する新たな舞台となっています。ファンはアート、ノベル、ゲームなど、自身のバージョンを制作することでアニメIPと深く関わっています。この分野では、さまざまな革新が進行中です。例えば、アート制作には「にじジャーニー」 NijiJourney、ファンフィクションには「NovelAI」 NovelAI、クリエイター支援には「pixivFANBOX」、ゲーム制作にはUGC(ユーザー生成コンテンツ)プラットフォームが活用されています。特に、Roblox上の人気ゲームの中には『ONE PIECE』や『ワンパンマン』といったIPに基づくものがあり、同プラットフォームは日間アクティブユーザー数が6,000万人、月間アクティブユーザー数が3億人を超えるため、幅広いアニメファン層にリーチしています。特にRobloxは、ユーザー層が子供やティーンエイジャーに偏っているため、若年層のトレンドを把握する上で有用な指標となります。AIコンパニオンがファンに新たなIPとの関わり方を提供するのと同様に、UGCはファンが自分の好きなIPを全く新しい文脈で再構築し、リミックスする手段を提供しています。

『Anime is Eating the World』をChatGPTで翻訳
『Anime is Eating the World』より引用

現在、世界中のティーンエンジャーでプレイされているのが『Roblox』です。

『Roblox』は、プレイヤー自らがゲーム制作できるメタバース空間のことで、上記の図のように、日間アクティブユーザー数は6,000万人を超えています。

また、生成AIの登場により、誰もが創造性を発揮できるようになりました。イラスト制作には『にじジャーニー』、ファンフィクションは『NovelAI』を使えば、それなりの作品を低価格かつスピーディーに制作できます。

このように、ユーザーによって生成されたコンテンツは「UGC」と呼ばれます。

今後、誰もが自分自身で作品やキャラクターを作れるようになるのは間違いありません。

『Anime is Eating the World』より引用

Roblox上で人気のゲームBlox Fruitsは、アニメ『ONE PIECE』を基にしています。プレイヤーは海軍または海賊として役割を選び、敵と戦い、キャラクターを強化し、悪魔の実(ゲーム内では「Blox Fruits」)や覇気を通じて特別な能力を獲得できます。このゲームは、2024年11月時点で訪問数が400億回を超え、Robloxで最も人気のあるゲームの一つとなっています。

同じくRobloxの人気ゲームThe Strongest Battlegroundsは、アニメ『ワンパンマン』を基にしています。プレイヤーは特別な能力やコンボを持つさまざまなヒーローの役割を担い、他のプレイヤーと戦います。このゲームは、2024年9月時点で訪問数が78億回を超えています。

また、Minecraftでも、多くの人気サーバーが『ポケモン』や『ナルト』をテーマにしており、プレイヤーはこれらのアニメの世界観を再現した環境でゲームを楽しんでいます。

『Anime is Eating the World』をChatGPTで翻訳

実際にRobloxやMinecraftなどのUGCプラットフォームでは、超有名IPを元にしたゲーム空間が制作されています。

例えば『ONE PIECE』を元にした『Blox Fruits(通称:ブロフル)』は、2024年11月時点で訪問数が400億回を超える人気ぶりです。

これに対し、本家『ONE PIECE』もRobloxで新作ゲーム『ONE PIECE GRAND ARENA』を配信する予定となっています。

これらのゲームが人気を集める理由はいくつかあります。第一に、高品質なアニメIPゲームに対するプレイヤーの需要が高い一方で、その供給が不足している点が挙げられます。例えば、最近の『Palworld』は「銃を持つポケモン」として話題を呼び、SteamとXbox Game Passで1ヶ月に2,500万本以上を販売する成功を収めました。第二に、アニメIPのライセンスは複雑で、開発者にとっては特に扱いづらい状況にあります。言語や文化の壁に加え、IPの所有権が地域やメディア(映画、ゲーム、マンガなど)ごとに異なる場合があるためです。また、CrunchyrollやFunimationなどの大規模な配信企業がすでに特定IPの独占ライセンスを持っている場合もあります。この課題を解決し、IPのアクセスを容易にするために、Kasagi LaboやLayer、Story Protocolといったスタートアップが取り組んでいます。

『Anime is Eating the World』をChatGPTで翻訳

『ブロフル』のような「コピー作品」が人気を集める理由として、a16zは「アニメIPゲームの供給が不足している点」「アニメIPのライセンスが複雑で開発者にとって扱いづらい点」「特定IPの独占ライセンスを持っていること」を挙げています。

特に「アニメIPゲームの供給が不足している点」は重要な指摘です。アニメIPのライセンスが解放されていないため、ゲーム作品が多く誕生しないので、ファン自らがゲーム作品を作るようになっているのです。

これは従来であれば考えられないことですが、生成AIとUGCプラットフォームの登場が、ゲーム制作を容易なものにしたため、ファン自らがゲームを作れるようになったのです。

最近注目を集めた『Palworld』も、『ポケモン』が先に「ガンシューティングゲーム」を展開すべきだったと解釈できます。

新しいAIツールが登場し、既存のUGCプラットフォームがAIを採用することで、コンテンツ制作の障壁が下がり、さらに多くのファン制作のトランスメディアコンテンツが登場するでしょう。RobloxはすでにAIをユーザーのワークフローに組み込んでおり、GoogleのDeepMindチームも、プロンプトから2Dのプレイ可能な環境を生成できるGenieを発表しました。また、TencentのGameGen-Oは『原神』のようなオープンワールドゲームの生成に向けて、新たな可能性を示しています。

UGCプラットフォームを超えて、AIモデルやツールは初めてのクリエイターにもプロレベルのアニメコンテンツ制作を可能にしています。アートにおいては、SpellbrushとMidjourneyのコラボによる「Nijijourney」がテキストから高品質なアニメ画像を生成するイメージ拡散モデルとして登場しています。さらに、さまざまなポーズやスタイルを再現するStable Diffusionのモデル(SD 1.5で訓練されたものやSDXL 1.0に基づくAnimagine XL V3など)が、citiv.aiなどで提供されています。YodayoはAI生成のアニメアートとキャラクターチャットボットを統合しており、pixai.artでは人気IP(『原神』『ポケモン』『ブルーアーカイブ』など)を模倣するモデルが利用可能です。

アニメーションや動画に関しては、RunwayML、Luma Labs、Hedra、PikaLabsがテキストから動画を生成する基盤モデルを提供しています。アニメ特有の仕上げにはdomoAIを使い、MagnificAIやTopaz Labsで画像やイメージ動画プロンプトの品質向上が可能です。音声吹き替えにはElevenLabs、音楽制作にはUdioとSunoが使用されています。マンガやコミックでは、Shortbreadのような企業が、シーンやカットの間での一貫性と文脈を保ちながら、ウェブコミックやマンガの制作を容易にしています。モデルの精度や速度、コストの改善にはまだ道のりがありますが、これらのツールが進化することで、技術的または芸術的なスキルが不足していたクリエイターにもアニメのアイデアを実現する機会が広がっていくでしょう。

『Anime is Eating the World』をChatGPTで翻訳

UGCプラットフォームも生成AIとの相性が抜群です。

今後は、より多くの「ファン制作」が増えることは間違いありません。

そしてこれは、アニメ・ゲーム制作のオープンソース化を意味します。

従来では、アニメやゲームを制作するには、莫大な資金と相応の技術力が求められたため、アニメスタジオやゲーム制作会社が、半ば秘密主義的に制作していました。

しかしUGCプラットフォームと生成AIを活用すれば、世界中のファンが制作に参加することができるようになります。新しいアイデアをすぐに実装し、それに対して世界中のファンがレビューするようになるため、結果として高品質な作品が制作されるのです。

これは、ソフトウェア開発におけるオープンソースに非常に似たシステムです。ソフトウェア業界におけるオープンソースの絶大なインパクトを考えれば、UGCプラットフォーム×生成AIがコンテンツ業界に与える影響は、計り知れないものになるかもしれません。

そう考えると、日本に世界的なUGCプラットフォームが存在しないのは、案外マズイことなのかもしれません。Pixivは良い線をいっているとは思いますが、経済的なインパクトを考えれば、MinecraftRobloxのような「ゲーム」のUGCプラットフォームが必要なのではないでしょうか?

Anime Game Studios Lead the Way (アニメゲームスタジオの先導)

スペクトルの反対側では、プロのゲームスタジオが新規IPを活用するか、または新たに創造することで、高い制作価値を持つ消費者向け体験を提供する先頭に立っています。アニメゲームはゲーム業界で最も収益性の高いジャンルの一つであり、モバイルアプリストアにおける消費額の20%を占めているにもかかわらず、利用者の浸透率はわずか3%未満です。例えば、モンスターストライクは、累計収益でキャンディークラッシュ(76億ドル対69億ドル)を上回っており、プレイヤーベースがキャンディークラッシュの7000万MAU(SensorTower、2016-19年)に比べ、1000万MAUとはるかに小さいにもかかわらず、収益を上げています。一方、miHoYoの原神は、これまでに約40億ドルを稼ぎ出しており、現状の成長軌道のまま進めば史上最高収益のゲームの一つとなる見込みです。

アニメゲームスタジオは、プレイヤーの体験を広げるために2つの主要な手法を取っています。第一に、彼らは『ドラゴンボール』『ポケモン』『ドラゴンクエスト』といった、人気の高いIPに基づく高品質なゲームを制作することが多く、これによりファンは自らキャラクターと直接関わることができます。トップ10の収益を上げているアニメゲームのうち6つは既存のIPを基にしており、ファンが大好きなキャラクターと直接交流できる仕組みを提供しています。第二に、彼らはゲームの基本ループや技術においても革新を起こしています。miHoYoの『原神』は最初の本格的なクロスプラットフォームアニメゲームの一つであり、ガンホーの『パズル&ドラゴンズ』はマッチ3とRPGのメカニクスを初めて組み合わせました。また、Riot Gamesの『VALORANT』は戦術系FPSへのアクセスを容易にしました。さらに、複数のスタートアップが、視覚ノベルのゲームプレイにLLM(大規模言語モデル)を組み込む実験も進めています。

『Anime is Eating the World』をChatGPTで翻訳
『Anime is Eating the World』より引用

『モンスト』や『ウマ娘』を始めとするアニメゲームは、ゲーム業界の中でも非常に収益性の高いモデルです。

アニメゲームスタジオの戦略は、主に2つあります。

まず1つめは有名IPのアニメゲーム化で、この動きは2010年代後半になってから目立つようになったと個人的に理解しています。2010年代後半は、「ゲームシステム」で差別化することは難しくなっているため、既に認知度のある有名IPが用いられるようになったのです。また、アニメゲームは事実上のノベルゲームで、アニメ制作に比べて制作コストが小さいのも、普及の要因として挙げられると思います。

そして2つめは、ゲームシステムの革新です。モバイルゲームが登場して間もない頃、『パズドラ』や『モンスト』は、スマートフォンならではのゲームシステムを構築することに成功しています。また、スマートフォンの高性能化と通信技術の進化により『原神』のような高精度グラフィックを用いたクロスプラットフォームゲームも誕生しました。

VTubing Blurs Human-Digital Interactions(人間とデジタルの相互作用を曖昧にするVTubing)

VTubingは、AIコンパニオンやUGC、ゲームがファンに人気のアニメIPとさまざまな方法で関わる機会を提供する中で、さらに一歩進んで、ファン自身が人気のアニメキャラクターになることを可能にしています。VTuberとは「バーチャルYouTuber」の略で、顔や体の動きをリアルタイムでトラッキングするアニメ風のデジタルアバターを重ね合わせ、配信に投影するコンテンツクリエイターを指します(例: キズナアイ)。この現象は、完全にデジタルの存在としてのバーチャルアイドル(初音ミクなど)や、西洋のバーチャルインフルエンサーであるリル・ミケーラのようなキャラクターから派生したと考えられます。

VTuberは配信で、歌ったり、おしゃべりをしたり、ダンスをしたり、ゲームをしたりと、さまざまな活動を行います。VTubingは、クリエイターが異なる個性を演じることを可能にし、外見や年齢に関係なくコンテンツを作りやすくする手段でもあります。

『Anime is Eating the World』をChatGPTで翻訳

a16zもVTuberを非常に注目しているようです。

ここで私が興味深いと思ったのは「ファン自身が人気のアニメキャラクターになることを可能にしている」という点です。

日本においてVTuberビジネスが説明される際、ファンの興味がバーチャルに移っていることが語られますが、コスプレの文脈から語られることはありません。実のところ、VTuberの魅力とは、疑似恋愛を楽しむことだけでなく、自らが好きなキャラクターになれる点にあるのではないでしょうか?

VTuberの本質は、バーチャル・コスプレにあるのかもしれません。

『Anime is Eating the World』より引用

現在、VTubingは比較的小規模ながら急成長しているコミュニティであり、アニメのブームに乗ってより多くの視聴者層とクリエイター層を獲得する可能性があります。VTuberはTwitchの全配信者の0.4%に過ぎないものの、全視聴数の5.7%を占めています。2023年上半期には、Twitch全体の視聴数が横ばいの中、VTubingの視聴数は28%増加しました。IronmouseのようなトップVTuberは数百万の視聴者を抱え、VShojoやホロライブといったプロ組織によって運営されています。将来的には、VTubingApple FaceTimeMemojisSnapchatのフィルターのように一般的になる日が来るかもしれません。

スタートアップもこの市場に異なるアプローチで参入しています。Iron VertexはLive2Dに精通したデザイナーによるプロフェッショナルなリグの提供で有名ですが、より低価格のオプションが必要な場合、HyperonlineやGoHibeなどのスタートアップが、自分のアバターを簡単にデザインできるツールを提供しています。Mtion.tvは、視覚ベースのプログラミングを使ってアバターの背景や環境をデザインするサポートを提供しています。また、AIによるVTuber「Neuro-sama」や、VTuber体験に特化したプラットフォーム「Anilive」も登場しています。アニメのコンパニオンが人とデジタルの関係、マルチプレイヤーゲームが人と人の関係を表すとすれば、VTubingはデジタルと人間の交流が混ざり合った独自のパラソーシャル関係を構築しています。

『Anime is Eating the World』をChatGPTで翻訳

現在、VTuberは絶賛急成長中で、カバー株式会社やANYCOLOR株式会社の業績も相当に伸びています。

Twitchでも、全体の視聴者数が横ばいの中で、VTubingの視聴数だけは伸びているようです。

また、個人的に興味深いと思ったのが「VTubingがApple FaceTimeのMemojisやSnapchatのフィルターのように一般的になる日が来る」というa16zの指摘です。日本ではApple Facetimeがほとんど普及していないため、3DCGをベースにした「ミー文字」を利用する人はおらず、LINEを始めとする漫画風のスタンプが一般的です。しかし米国の場合、3DCGのミー文字によるやり取りが一般的なので、VTubingがミー文字を代替する可能性があります。

Conclusion(まとめ)

現在、アニメは単なるアートスタイルを超え、性別、人種、年齢、地域を越えたコンテンツフォーマットおよび文化的美学として、最大かつ最も収益性の高いクリエイティブ産業の一つとなっています。アニメはデジタルプレイの先駆者として、かつてのリニアメディアの受動的な消費を新しいダイナミックなエンターテインメントの形に変えつつあります。AIエージェントやUGCプラットフォーム、芸術的なツール、新しいゲームメカニクス、インタラクティブなVTubing、新しいアニメプラットフォームなど、アニメが新技術やビジネスモデルを受け入れることで、インタラクティブな未来を形作る様子には大いに期待が持てます。現在のファンも未来のファンも、アニメのさらなる発展を楽しみにできるでしょう。

『Anime is Eating the World』をChatGPTで翻訳

ここまで読んでいただいてわかる通り、a16zはアニメに対して「インタラクティブ性が強化されること」に強く期待しているようです。たしかに、アニメ業界が新しい技術やビジネスモデルを受け入れるようになれば、よりインタラクティブなキャラクタービジネスを構築することが可能になるでしょう。

そうなってくると、当然のことながら、ソフトウェアの活用が必要不可欠になるのは間違いありません。結局は「Why Software Is Eating the World」で語られていた「ソフトウェアを使えない企業は淘汰される」という考えに行き着くわけです。

【編集後記】アニメ業界はソフトウェア業界と同じ運命を辿る?

a16zの記事「Why Software Is Eating the World」では、「あらゆる産業がソフトウェア企業に置き換わり、ソフトウェアを使いこなせない企業は淘汰されていく」ということが指摘され、それは既に現実になってきています。これはつまるところ「DX」ができるかどうかで、DXができない企業はAmazonやNetflixなどのソフトウェア企業に乗っ取られてしまうというわけです。

もしアニメ業界がソフトウェア業界と同じ運命を辿るとしたら、以下のような動きになることが考えられます。

  • スタートアップでのソフトウェア開発は、実装とテストを繰り返すアジャイル開発が基本。日本の大手SIerのように、開発工程を区切るウォーターフォール開発は採用されていない。なぜならアジャイル開発の方が、スピーディーに良質なソフトウェアを開発できるから。現在、アニメ制作及びゲーム制作は、ウォーターフォール型のワークフローが一般的だが、生成AIとUGCプラットフォームの活用で、アジャイルでの制作が可能になるかもしれない。今後は制作ワークフローのアジャイル化が、制作現場に破壊的な革命を起こす可能性がある。

  • Web1.0からWeb2.0の流れが、ソフトウェア業界だけでなく、世界のルールそのものを変えた。同じように、キャラクタービジネスのインタラクティブ性が強くなることで、多くのファンのライフスタイルが変化する可能性がある。これまでのキャラクタービジネスは一方通行が基本だったが、今後は生成AIなどのツールの活用で、リアルタイムなインタラクティブ性が求められるようになる。この場合、アニメ業界はソフトウェアの活用が必要不可欠になるのは間違いない。キャラクタービジネスの在り方を転換(DX)させられるかどうかが、勝負になる。

  • 近年、ソフトウェアがソフトウェアを開発する「ソフトウェア2.0」というワードがIT業界で大流行している。現在、テスラの自動運転システムは「ソフトウェア2.0」で開発されており、従来に比べて何倍ものスピードでの開発が可能になってしまった。この「ソフトウェア2.0」では、ソフトウェアが自動的にソフトウェアを開発するため、人間の仕事は「データ集め」や「レビュー」だけになる。もし同じようなことがアニメ業界にも起こるのだとすれば、キャラクター自らが新しいキャラクターを作る時代になる。実際、イラスト系生成AIの動向を見るに、それは難しくないと考えられる。

  • ソフトウェア業界に関して、ここ30年で日本は完全に米中に遅れを取った。今後、アニメ業界でソフトウェアの活用は必要不可欠になるが、もし「キャラクタービジネスのインタラクティブ性強化」というビジネスを米中に支配された場合、日本側の損失は極めて大きいものになる可能性がある。現時点で、日本はカバーやANYCOLORが尽力しているが、今後は有名IPを保有する大手企業が、インタラクティブ性強化に努める必要がある。鍵は「AIコンパニオン」「UGCプラットフォーム」「AI技術によるアニメ制作の民主化」「VTubing」の4つにある。

こうしてa16zの記事を読んでいくと、ただ海外にアニメをプロモーションするだけでは足りないような気がします。a16zが投資する企業は、いずれも「イノベーション」を起こす可能性がある企業ばかりで、根本的な考え方が「イノベーション」にあるのでしょう。

現在、日本のアニメ業界の成長要因は「海外収入」に他なりません。そのため、多くのIP保有企業が海外へのプロモーションを実施していますが、それだけでなく、イノベーションを追求しなければ、あっという間にシリコンバレーに食い散らかされる可能性があります。

ANITABIでは、毎週月曜日に「アニメニュースまとめ」を投稿していますが、今後は可能な限り海外記事もキュレーションしていきたいと思います。

未来への切符は いつも白紙なんだ

『TRIGUN』より引用

Written by 星島てる

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