【らんま1/2】昨今のリメイクアニメブームに物申したい
2021年の『THE FIRST SLAM DUNK』を皮切りに、リメイクアニメがどんどん放送されるようになってきました。近年では以下の作品のリメイクが放送・決定されています。
スラムダンク
ONE PIECE
うる星やつら
らんま1/2
地獄先生ぬ〜べ〜
シャーマンキング
ダイの大冒険
フルーツバスケット
キン肉マン
北斗の拳
YAIBA
それと最近は『ドラゴンボールDAIMA』なんてのも放送されています。
このようにして20年以上に放送されたアニメが、現代風にリメイクされる現象が後を絶ちません。
一般的に、このようなリメイクアニメは、往年のファンに楽しんでもらえるのはもちろんのこと、現代アニメファンの目にも留まり、ビジネス的に様々なメリットが享受されると言われています。
一方で、アニメという文化の側面ではどうでしょうか?
はたして40年以上前の作品をリメイクすることが、今のアニメ業界をより良くすることに繋がるのでしょうか?
ここを少し、深掘りしたいと思うのです。
リメイクアニメが増えた理由
リメイクアニメが増えた理由は、いくつか挙げられます。
まず、配信サイトの都合で「確実に売れる作品」が優遇されるようになっている現状が挙げられます。配信サイトとしては新作よりも、既に知名度や話題性のある作品を放送した方が視聴時間が伸びるため、『らんま1/2』を始めとする有名作品に予算を出します。
また、配信サイトに限った話ではなく、既に知名度があるということは、ビジネス上で大きなメリットがあります。それこそ高橋留美子作品などの名作がリメイクされるとなれば、それだけですごい話題になります。
それに加えて、アニメ技術の凄まじい進化も挙げられます。デジタル制作になり、3DCGやエフェクトの導入も当たり前になっている現代アニメは、2000年以前と比べて視聴体験が大きく向上しています。最新技術を持ってリメイクするのは、元々あったIPの有効活用にもなります。
このようにリメイクアニメには様々なメリットがあるわけですが、日本のアニメ制作のリソースを無限ではありません。その限られたリソースを「何十年以上も前のアニメ」に投下した方がいいのでしょうか?
リメイクはベビーブーマーの団塊ジュニアがターゲット?
まず私が思うに、リメイク作品は少子高齢化と強い関係があると思います。言うまでもなく、日本の若者の人口は減少していて、50代以降の団塊ジュニア世代などはちゃんと人口が多い。同時に、老若男女がアニメを楽しむ文化観になってきている。
であれば、人口が少ない上にお金もあまり持ってない若者よりも、人口が多くてお金もある団塊ジュニア世代をターゲットにした方が、ビジネス的に有利なのは間違いありません。
これの意味するところは、若者向け(もっと言えば子ども向け)に作られるアニメが、少しずつ少なくなっているということです。
リメイク作品は若者を置き去りにする
たしかに大学生ぐらいだったら『らんま1/2』を見る人もいそうですが、はたして高校生以下の年代が『うる星やつら』を見るのでしょうか?
私は24歳ですが、それでも周囲に『ドラゴンボール』を読んだことがない人はいますし、アニメオタクの中でも『涼宮ハルヒの憂鬱』を見ている人は少数派です。
ちゃんとした統計がないので何とも言えませんが、私の体感としては、リメイク作品は多くの若者を置き去りにすると思います。結局、今の若者は『呪術廻戦』や『ヒロアカ』が好きなのです。
そして、そもそも論として、アニメは「子どもたちに見せるもの」という機能があります。『うる星やつら』も『ドラゴンボール』も、当時の少年に激しく刺さったから、今でも人気があるわけです。であれば、アニメ業界の限られたリソースを、『ドラゴンボール』のような新作を生み出すことに費やすべきではないでしょうか?
新しいメガIPが一向に登場しない
実のところ、2000年代に入ってから、世界に通用するメガIPがほとんど登場してません。
ポケモンもハローキティもアンパンマンもマリオもドラえもんも、いずれも2000年以前に誕生したキャラクターであり、これらに匹敵するメガIPを日本は生み出せていません。
少年ジャンプ作品を見ても、やはり『ドラゴンボール』や『ONE PIECE』ほどのパワーを持つ作品は現れていないように思えます。
リメイク作品は既得権の塊?
私が思うに、昨今のリメイクアニメブームは、IPの延命措置の一環なのではないでしょうか。そしてそれは、有名IPで莫大な利益を手に入れ続けている企業の思惑が非常に大きい。
『ONE PIECE』も『ドラゴンボール』も東映アニメの収入源ですし、バンダイナムコからすれば、やはり『ドラゴンボール』も『ONE PIECE』もIPとして終わってほしくない。だから、積極的にリメイクを進めるのです。バンダイナムコは『ラブライブ!』などの新作が上手くいっているからいいとして、東映アニメはIPの新陳代謝が進んでいない状況です。
一応、出版社としては新作をアニメ化した方が売れるので、東映アニメやバンナムほど、リメイク作品には積極的ではないと考えられます。週刊少年ジャンプも週刊少年マガジンも積極的に新作を出せています。
一方で、低迷気味の週刊少年サンデーも、高橋留美子作品やあだち充作品に未だに頼っている状況ではありますが、『葬送のフリーレン』を皮切りに、少し状況が改善されつつあります。
まとめ
今回は内容がグチャグチャになってしまったので、一旦まとめてみます。
リメイクアニメは知名度が高い分、売り上げを回収しやすい
リメイクアニメのターゲットは40代以降のおっさんたちであって、メインターゲットは若者ではない
つまりIPの新陳代謝が進まない可能性がある
実際に2000年以降で強力なIPがほとんど登場していない
『ONE PIECE』や『ドラゴンボール』は東映アニメやバンナムなどの老舗にとって大事な収入源
出版社は新作の方が発行部数を出せるので、老舗企業ほどリメイクに意欲的ってわけではない
【編集後記】長期的な視点で作品を作る
当たり前ですが、今の私たちはデジタルで様々な作品を楽しんでいます。
世の中には「トレンド」とか「プロモーション」というものがありますから、一般的には最新作品の方が人気です。一方で、デジタル空間には在庫制限が存在しないため、最新の音楽と50年以上前の大衆音楽を同じ商品棚に並べることができます。そのために、近年のグローバル音楽業界では、80年代の日本のシティポップが非常に注目されているのです。
しかし、音楽や漫画はまだしも、アニメ作品の場合、時代が進むにつれて「質」が劇的に向上していることから、現代っ子が20年以上前の作品を視聴するのはちょっと難しい。
一方でスタジオジブリ作品はもちろんのこと、放送から約20年経とうとしている『涼宮ハルヒの憂鬱』などの作品は、まだまだ作品の質が現代アニメに負けていないことから、今でも視聴されます。おそらく『鬼滅の刃』や『呪術廻戦』も、あと10年は大丈夫でしょう。
一般的に、アニメビジネスの寿命は放送終了後すぐに尽きると考えられていましたが、ちゃんと質を高めて、長期的なブランディング戦略を組めば、もっと寿命を伸ばすことができる。その典型例が『うる星やつら』や『らんま1/2』などのリメイクなのです。
つまり、すべてのクリエイターは5年や10年ではなく、もっともっと先の未来を見据えなければなりません。
そのために、リメイクアニメに力を入れるべきか、それとも何十年も続くような名作をゼロから作るのか。アニメーター及びアニメスタジオの経営手腕が、ここで試されているように感じられるのです。