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ソニーがKADOKAWAを買収したらどうなるの?アニメオタク向けに徹底解説してみた

2024年11月19日、ソニーがKADOKAWA買収に向け協議していることが、日本経済新聞やロイターによって報じられました。

交渉が成立すれば数週間以内に契約になるとのことです。

昔は家電企業のイメージがあるソニーですが、現在はプレイステーションを始めとするエンタメ企業としての側面が非常に強くなっています。

そのため、ソニーによるKADOKAWAの買収は、業界内に留まらず、経済界全体で衝撃が走っているのです。

そこで本記事では、ソニーがKADOKAWAを買収したらどうなるのかを、アニメオタク向けに丁寧に解説しようと思います。

現状の分析

まずは、ソニーやKADOKAWAの実態を、決算資料をベースに解説していきます。

ソニーの現在地

ソニーの2023年度決算(2023年4月〜2024年3月)を見ると、売上高は13兆円、営業利益は1.2兆円となっています。

参考までに、日本のアニメ市場の規模は約3兆円です。

また、セグメント別業績を見ると、「ゲーム&ネットワークサービス」は4.3兆円の売上を出しており、次点で「エンタテインメント・テクノロジー&サービス」が2.5兆円となっています。

ここで、ソニーのセグメントの分け方について詳しく見ていきましょう。

  • ゲーム&ネットワークサービス:プレイステーション事業

  • 音楽:ソニー・ミュージックなどの音楽事業。アニプレックスはソニー・ミュージックの子会社のため、アニメ事業もこのセグメントに含まれる

  • 映画:映画製作、テレビ番組製作の事業

  • エンタテインメント・テクノロジー&サービス:テレビ、オーディオ、カメラなど、いわゆる「家電」はこの領域

  • イメージング&センシング・ソリューション:カメラなどで用いられる「イメージセンサー」の事業。世界のイメージセンサー市場はソニーがトップ。iPhoneにもソニー製センサーが用いられている

  • 金融:ソニー銀行やソニー保険など

あらためてセグメント別の売上高と営業利益を見ると、こんな感じです。

売上高を見ると「ゲーム&ネットワークサービス」が圧倒的で、次点で「エンタテインメント・テクノロジー&サービス」や「金融」に続きます。

一方で営業利益を見ると、もっとも大きい営業利益を出しているのは「音楽」で、
次点で「ゲーム&ネットワークサービス」が続きます。

従来のソニーの主力事業であった「家電」や「イメージセンサー」の営業利益を足しても、「ゲーム&ネットワークサービス」や「音楽」などのエンタメ事業に勝てません。

ここまで見てわかる通り、ソニーは既に家電企業からエンタメ企業にシフトしているのです。

KADOKAWAの現在地

KADOKAWAの2024年3月期決算(2023年4月〜2024年3月)を見ると、売上高は2,581億円、営業利益は185億円となっています。コンテンツ企業としては大きな規模ですが、ソニーには遠く及びません。

セグメント別で見ると、本業の「出版・IP創出」が1,420億円の売上を出し、続いて「アニメ・実写映像」が461億円、「ゲーム」が254億円となっています。

見て分かるように、KADOKAWAは出版社としてIPを保有しながら、それをアニメやゲームに横展開していくビジネスモデルとなっています。

アニメビジネスにおけるソニーの強み

アニメビジネスにおけるソニーの強みとして、まず挙げられるのは資金力の強さです。年間売上は10兆円を超えており、この莫大なキャッシュを活かして、数多くの作品の製作委員会に参加しています。

ちなみに、ソニー・ミュージックの子会社にはアニプレックスがあり、このアニプレックスが製作委員会に参加するのが一般的です。アニプレックスの代表作品としては、以下が挙げられます。

  • 鬼滅の刃

  • ソードアート・オンライン

  • 魔法少女まどか☆マギカ

  • 鋼の錬金術師

  • 物語シリーズ

また、アニプレックスの子会社にはA-1 PicturesやCloverWorksなどのアニメスタジオがあり、親会社のソニー・ミュージックに所属するアーティストを主題歌に起用することも珍しくありません。そのため、アニプレックス単体でも充分な制作能力を有していることがわかります。

そして何よりも、ソニーは米国のアニメ配信サイト「クランチロール」を保有しています。

アニメビジネスにおいて、制作能力と流通の場を有するソニーは「ほぼ最強」のコンテンツ企業と言っても過言ではありません。

アニメビジネスにおけるKADOKAWAの強み

アニメビジネスにおけるKADOKAWAの強みは、IP創出力にあります。その中でも特に目を引くのがライトノベルです。KADOKAWAは「電撃文庫」「角川スニーカー文庫」「MF文庫J」「ファンタジア文庫」などの有名レーベルを複数保有しています。これらのレーベルの代表作としては、以下が挙げられます。

  • とあるシリーズ(電撃文庫)

  • ソードアート・オンライン(電撃文庫)

  • 魔法科高校の劣等生(電撃文庫)

  • 涼宮ハルヒの憂鬱(角川スニーカー文庫)

  • 無職転生(MFブックス)

  • Re:ゼロから始める異世界生活(MF文庫J)

  • この素晴らしい世界に祝福を!(角川スニーカー文庫)

  • ようこそ実力至上主義の教室へ(MF文庫J)

また、近年はアニメの制作能力を確保するために、動画工房を子会社化し、現時点でアニメスタジオを5社保有しています。

ソニーほどではありませんが、KADOKAWAも充分な資金力があるため、製作委員会にも積極的に参加してきました。最近だと『推しの子』が有名です。

現在、世界で日本のアニメは「多種多様な作品が揃っている」と評価されています。そして、その役割を担っているのがKADOKAWAと言っても過言ではありません。グループ内だけで多種多様なIPを揃えているのが、KADOKAWAの強みです。

ソニーがKADOKAWAの買収で得られるもの

では、ソニーがKADOKAWAを買収した際に得られるものはなんでしょうか?

超強力なIP群

莫大な資金と制作能力を有するソニーですが、唯一不足しているものがあります。それは自社IPです。

これまでにソニーは、プレイステーションを生み出し、アニプレックスで様々な作品の製作に関わってきましたが、自社でIPを作り出すことを得意としていません。実際に、プレイステーションは任天堂の「マリオ」のような超強力IPを、生み出すことができませんでした。一方でアニメでは『リコリス・リコイル』などの自社IPを作ることに成功しましたが、とは言えKADOKAWAやジャンプ作品のIPには敵いません。

しかし、ここでKADOKAWAの買収に成功すれば、KADOKAWAが保有する超有名IPを一気に手に入れることができます。ソニーがKADOKAWAのIPを手に入れたら、そのIPを活かしてアニメやゲームなどのメディアミックスをガンガン進めるようになるでしょう。

超優秀なクリエイター群

また、KADOKAWAが抱える超優秀なクリエイター群を獲得できるのもメリットです。

KADOKAWAと契約している漫画家、ライトノベル作家、イラストレーターと組んで、新たなIPを創出することが可能になります。

フロム・ソフトウェア

現在、ゲーマーに注目されているのは、KADOKAWAの連結子会社「フロム・ソフトウェア」です。フロム・ソフトウェアは『エルデンリング』や『ダークソウル』など、海外で人気のあるゲームを制作してきました。

2024年11月21日時点で、フロム・ソフトウェアの株主はKADOKAWA(69.66%)、テンセント(16.25%)、ソニー(14.09%)となっています。

ソニーがKADOKAWAの買収に成功すれば、実質的にはフロム・ソフトウェアを手にいれることになるため、ゲーム領域の制作能力アップとIP獲得が見込めます。

ソニーに買収されることでKADOKAWAが得るもの

一方で、ソニーに買収されることでKADOKAWAが得るものはなんでしょうか?

メディアミックスの強化

KADOKAWAは多種多様なIPを保有している一方で、それを完全な形でメディアミックスさせることができていません。

たしかにKADOKAWAはアニメスタジオを複数保有しています。しかし、これらのアニメスタジオで"良質な作品を量産できるか"と言われると、それは微妙です。

私もそれなりにアニメを見てきたと思いますが、動画工房は素晴らしいものの、ENGIを含めたその他のKADOKAWA傘下のアニメスタジオは、正直微妙な感じです。

しかし、ここでソニーに買収されることで、A-1 PicturesやCloverWorksなど、世界で注目されているアニメスタジオでアニメを制作できる可能性が高まります。

それに加えて、ソニーはプレイステーションも保有しているため、据え置き型ゲームの強化も見込めます。

クランチロールの拡散力

KADOKAWAがソニーに買収されるメリットとして、クランチロールの拡散力が挙げられます。

クランチロールは北米向けアニメ配信サイトです。KADOKAWAのIPがクランチロールに乗っかって北米に届くようになれば、多くの海外収入が見込めるようになります。

財務基盤の強化

また、財務基盤の強化もメリットになるかもしれません。

KADOKAWAは、自己資本比率が50%を超えており、「倒産」という意味で心配する必要はないでしょう。

一方で株主構成を見ると、KADOKAWAには大株主が存在せず、時価総額は5,000億円前後で推移しているため、「買収しやすい企業」です。海外企業に買収されるなどすれば、適切な経営ができなくなる可能性があります。

今回、ソニーに買収されれば、少なくともTencentなどの海外企業に買収されることは無くなります。もちろん、ソニーとの協業で一定のシナジー効果が見込めるため、腰を据える場所としては悪くありません。

ソニーがKADOOKAWAを買収したらどうなるの?

では、ソニーがKADOKAWAを買収したら、具体的にどのようなことが起こるのでしょうか?

これまでにないコラボレーションが生まれるかも?

アニメオタクとして、強く期待したいのが「コラボレーション」です。おそらく、KADOKAWA作品がアニプレックスの資本によってアニメ制作されるようになるはず。

例えば、最近注目されているライトノベルが、A-1 PicturesやCloverWorksで制作されるようになるでしょう。ちなみに私は『よう実』や『魔法科高校の劣等生』は、A-1 Picturesあたりに作ってもらいたいです。

ニコニコ動画が無くなるかも?

一方で、ファンの間では「ニコニコ動画が無くなるかも」という懸念があるようです。

ソニーは、グローバル企業のため、コンプライアンスが比較的厳しいと考えられています。その点で、コンプライアンスが緩い「ニコニコ動画」が無くなる可能性が指摘されています。

正直なところ、KADOKAWAのWebサービス事業は、大した利益が見込めないため、事業撤退する選択も充分に考えられます。

一方で、ニコニコ動画を始めとする日本独自のカオスな文化が、今のコンテンツ制作の現場で大いに活かされていることも忘れてはいけません。例えば、アニプレックスが製作に参加した『ぼっち・ざ・ろっく!』は、まず間違いなくニコニコ動画からの文脈を受け継いだ作品です。同じく、KADOKAWAのIP『日常』も非常にカオスな作品ですが、海外人気が根強い作品として有名です。

KADOKAWAは、日本独自のカオスなコンテンツ生態系を担っている存在だと言えます。ソニーとしても、この強みを最大限活かしたいはずなので、ニコニコ動画を無くすことはないのではないでしょうか?

コンテンツ業界の勢力図が大きく変わる

今回のソニーによるKADOKAWAの買収で、コンテンツ業界の勢力図が大きく変わるのは間違いありません。

元々、ソニーは日本国内のコンテンツ企業で「ほぼ最強」だったのですが、これまで弱みだった「原作IP」をKADOKAWAの買収で補うことで、文句なしの「最強」になります。

当然、バンダイナムコや東宝などの大手企業が、この状況を黙って見るわけがありません。競合他社がソニーやKADOKAWAに対抗するために、企業間での提携や買収を進めるようになるでしょう。

【編集後記】コンテンツ業界全体を見たときに……

個人的に、ソニーによるKADOKAWAへの買収提案は、最適な経営判断だと思います。現在、ソニーに足りていないのは、間違いなく「原作IP」で、それをKADOKAWAで補うことができるためです。Disney、Netflix、Tencentに対する競争力も強化されるでしょう。

一方でKADOKAWAとしても、グローバル市場を本気で獲ろうと思ったときに、国内で数少ない「世界で戦える企業」としてソニーと組むのは、悪くない選択です。ただそうすると、バンダイナムコなどの他企業との関係がどうなるかが難しいところで、この部分の経営判断が、夏野社長に問われているのだと思います。

ソニーとKADOKAWAは、国内のコンテンツ業界ではTOP5に入るような企業なので、この2社が手を組むとしたら、当然のことながら他の企業も黙っていません。

集英社・講談社・小学館の3大出版社としては、アニメ制作を依頼する際に、市場支配力の観点から、アニプレックスとの提携を避ける可能性が考えられます。

バンダイナムコ、放送局、配給会社などの大規模な上場企業からすれば、今後どのようにM&A戦略を進めるべきかが問われるでしょう。今回のソニーによるKADOKAWA買収の提案に触発されて、大型M&Aが活発になる可能性があります。

IP・アニメスタジオ獲得戦争も、佳境に突入した感じがありますね。

KADOKAWAは買収提案を受け入れるのか?

これは非常に難しい問題です。

今、KADOKAWAが考えているのは、ソニーに買収されることが「自社の価値最大化」になるかどうかだと思います。

正直、KADOKAWAはソニーに買収されずとも、自力でやっていくことは充分に可能なはずです。適度にアニプレックスと協業しながら、その他の企業ともバランス良くやっていくこともできます。

一方で、ソニーが持つ海外展開力は、非常に魅力的です。KADOKAWAの異世界転生作品を、ソニー・ピクチャーズで実写映画化することもできるでしょう。

ここの経営判断は難しいところだと思いますが、判断次第では、コンテンツ業界が大きく変わるのは間違いありません。夏野剛社長がどのような判断を下すのか。注目です。

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